Innovative Voice

更新日:2025.9.19
公開日:2025.9.23
AI時代を支えるScalarの挑戦
――データ基盤で環境価値を可視化する
「データマネジメントの未来を創る」というビジョンのもと、先進的なデータマネジメントソフトウェア を研究開発・提供する株式会社Scalar。
J-POWER(電源開発株式会社)は、Scalar社の有する技術と自社の多様な発電資産およびノウハウを融合しグローバルにおける新たなインフラビジネスの創出を目指して、2020年2月にScalarに出資をしました。現在、Scalarほか2社と共同で、再生可能エネルギーに時間的価値を付与する「環境価値プラットフォーム」の開発を行っています。
AI時代において、データマネジメントから生まれるアイディアや挑戦とはどのようなものなのか。日本のソフトウェア産業はこれからどこを目指すべきなのか。イノベーション推進部の井手 一久が聞き手となり、Scalar代表取締役CEOの深津 航氏が思い描くデータマネジメントの未来の姿を紐解きます。
AI時代のニーズに即した分散型台帳技術
井手 Scalar社の事業内容とプロダクトについてお聞かせください。
深津氏 Scalarは、ソフトウェア産業の中でも、いろいろなシステムの裏側で動き続ける縁の下の力持ち的なソフトウェアを開発している企業です。日本のソフトウェア産業はSaaSやアプリケーションサービスを開発・提供する会社が多いのですが、我々はアメリカのソフトウェア産業やインフラに近い、ミドルウェアと言われる領域を手掛けています。
データの世界は集約と分散を繰り返すものです。昨今はデータがどんどん分散し、企業のITシステムや情報が部門・システムごとに分断され、スムーズにデータ連携できない「サイロ化」が起こっています。AIが発展し、AIエージェントが各データにアクセスして意思決定をしたり、意思決定を仰いでその結果を各システムに反映したりするようになります。しかしデータベースやシステムを透過的に繋ぎ、更新までできるソフトウェアはありません。

そこで、我々はAI時代のニーズに合わせて、AIから異種複数のデータベースへのアクセスを統合しOLTP(Online Transaction Processing)/ OLAP(Online Analytical Processing)両方のトランザクションに対応するユニバーサルHTAPエンジン「ScalarDB」と、強固な改ざん検知を行うことで電子データの証拠性の担保を実現する分散型台帳ソフトウェア「ScalarDL」の2つのプロダクトを開発・提供しています。
井手 非改ざん性がある記録としてはブロックチェーンが有名ですが、それとはどう違うのでしょうか。
深津氏 ブロックチェーンは、台帳を分散して保有し共有することで、改ざんされない状態を担保するものです。しかし、台帳の共有には多大な負荷がかかり、ネットワーク処理速度が大幅に低下するという課題があります。加えて、世の中の実態として、共有までは必要なく、第三者による証明を求められるユースケースが多いです。そこで、我々のプロダクトは事業体が自らのデータの正しさを第三者に証明することに焦点を当てました。

ビットコインに代表されるブロックチェーンが台頭しましたが、今でもコイン以外に使われているものはほとんどありません。理由は、投下したコストに対して得られるリターンが少ないからです。共有や非中央集権にこだわりすぎて、本当に得たい目的が見えていなかったのかもしれません。
企業のシステムからブロックチェーンによる共有を除くと、処理効率は大幅に向上します。我々は「改ざんさせない」ではなく「改ざんを検知する」に留めることによって、高速化やスケーラビリティの担保、スループットの向上を目指しています。
ソフトウェア開発を投資と捉える発想
井手 Scalarはアメリカのソフトウェア産業に近い事業開発をしているというお話がありましたが、日米におけるソフトウェアに対する考え方の違いとはどういうものでしょうか?

深津氏 ソフトウェアについて考えるとき、アメリカと比べて、日本はファイナンスの観点が圧倒的に欠けていると感じます。あまり知られていませんが、ソフトウェアやシステムは作ったら負債になるのです。日本ではいわゆるコストセンターと見なされるため「このシステムでいくら安くなりますか?」という言葉をよく耳にしますね。一方、アメリカではソフトウェアの開発は投資です。そのため「これだけの資本投下をして、そのシステムがどれだけ稼ぐか?」という論点で考えます。
たとえば、J-POWERのシステムがお金を稼ぐことは十分あり得ます。事業として分離できる状態でシステムを作っておけば、似た業務やオペレーションをしたい会社はお金を払ってそのシステムを使いたがるでしょう。
それに加えて、AI技術の発展で人の代わりにAIがオペレーションして伝票処理まで実行するようになるでしょう。AIの行った処理が正しいか、監査されているかが重要になります。そういった証明は、Scalarのプロダクトが得意とする領域です。
井手 そのようなことが可能となれば、会社を再定義するというか、ある部分を切り出して新しいビジネスを作っていくこともできそうです。
J-POWER x Scalar「環境価値プラットフォーム」が生み出す価値とは
井手 J-POWERでは2020年にScalarへ出資することを決め、現在Scalarほか2社と共同で、再生可能エネルギーに時間的価値を付与する「環境価値プラットフォーム」の開発を行っています。
現行の商習慣では使用電力量のうち再生可能エネルギーが占める割合を時間毎に証明する手段がありません。そこで、再生可能エネルギー電源が発電した時間を正確に記録し、電力使用データと紐付けることで、時間帯ごとに環境価値を取引できる仕組みを作ろうとしているわけですが、深津さんの現時点での考えや見通しをお聞かせください。
深津氏 これまでは莫大な資本を投下して大きな発電所を作り、需要のピークに合わせて発電するという時代でした。送電線が各地に張られ、結合点でパワーダウンが起きないよう、タービンの数を増やして出力を調整することが求められていました。

これからは分散の時代で、一定の地域ごとに小規模な発電施設を作り、大規模発電所に頼らないエネルギーの地産地消を行う仕組みが進んでいくと見ています。送電方法も変わっていくかもしれません。日本全体として「今どこでどのくらいの電力需要があり、どのくらい発電すべきか」も見えにくくなっていくでしょう。
そうなったとき、発電の情報が正確に記録されていれば、投資する側も小規模分散化した発電施設がどれくらいの収益を生み出しているのか、需給が釣り合っているのかがわかります。そして、より需要のあるところに発電所を増やしていくことで、全体の資本効率を上げていくことが可能と見ています。
そこで求められるのは何でしょうか? いわゆる会社の決算書のような、発電施設の収益性の証明です。それを細かく可視化できるのが、Scalarのプロダクトです。
井手 J-POWERグループは気候変動問題への取組みを加速するべく、その旗印として「J-POWER BLUE MISSION 2050」を掲げています。2030年に二酸化炭素排出の46%削減、2050年に発電事業の二酸化炭素排出実質ゼロを目指しさまざまな取り組みを行っています。これを加速させるためにはどんなことをしていけばよいと思いますか。
深津氏 トランプ政権により気候変動問題への取り組みは後退していくと見られていますが、私はカーボンニュートラルという言葉が再び注目されるのではないかと予想しています。今後は人が排出する二酸化炭素をゼロにすることの価値や、二酸化炭素排出権の売買だけでなく、発電の資本効率にもしっかり目を向けていくことが求められるでしょう。
太陽光発電や風力発電は新しい技術も多いですから、資本を投下して早く回収し、新しい設備にリプレースしていく、という事業モデルが取られます。投下した資本に対してどれくらいの二酸化炭素削減と電力による需要を生み出したのかを可視化できれば、資本効率を向上させ、事業としての価値を上げることが可能です。Scalarの技術はその可視化に貢献できると考えています。
WhatとWhyを支える、AI時代の信頼基盤
井手 これからのAI時代における新規事業には、どういった要素が必要だと考えていますか?
深津氏 かつてのゲームチェンジといえば、インターネットの登場が挙げられます。インターネットが情報の均質化を生み出し、コミュニケーションコストを下げた結果、例えば百科事典というものがなくなり、誰もがネットで検索するようになりました。
AIはゲームチェンジャーだと思います。おそらく、今あるホワイトカラーの仕事の80%はなくなるでしょう。では、どういった仕事がなくなり、どういった仕事が残るのでしょうか?
私は、仕事には「What・Why・How」の3つのタイプがあると思っています。

多くの日本人はHow(どうやるか)の仕事をしています。つまり「どうすれば受け取った伝票をより効率的に会計システムに登録できるか」を突き詰めるようなものですね。こういった仕事は遠からずAIにすべて奪われるとされています。
人間がやらなくてはいけないのは、WhatとWhyの仕事です。Whatの仕事(何をやるか)は「Deep Research」のようなAIツールがいろいろなアイデアを出してくれるでしょうが、それを取捨選択するのは人間です。また、Whyの仕事(なぜやるのか)は、AIは答えてくれません。
Scalarは、人間がWhatとWhyの仕事をしていくときに、AIが正しく動いていることを担保するという役割を担おうとしています。
井手 ありがとうございます。最後に、Scalar社の今後の展望をお聞かせください。
深津氏 従来、日本語という言語の壁があったため、海外のソフトウェア資産は日本にはあまり入ってきませんでした。現在、例えばGoogle Meetを使った対話では、音声による同時通訳、それも本人の抑揚で話すことまで可能になりました。それによって、例えばアメリカをはじめとする非日本語圏の企業の日本進出も容易くなります。間違いなく日本の市場は世界的な競争にさらされていきます。それを前例としたオペレーションをしていく必要が生じます。
逆に言えば、日本からも海外に進出しやすくなるということですから、グローバルの流れを見ながら戦っていくことが大事だと思います。例えば、莫大な資本を投下しても真似できないソフトウェアのアセットを作っていく、というようなことです。
Scalarが取り組んでいるのはデータの整合性を保つという、いわば緻密なことで華々しさはありませんが、これからのAI時代には必須の技術になると確信しています。そのニッチな領域で、マーケットの変化をしっかりと見据え、戦っていこうと考えています。


株式会社Scalar
代表取締役CEO
深津 航
Wataru Hukatsu

イノベーション推進部 企画室
課長
井手 一久
Kazuhisa Ide

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About Innovation Catalog
J-POWER Innovation Catalog〜未来を共創する羅針盤
J-POWERイノベーション推進部は、「新たな未来を共に創造する」というミッションのもと、カーボンニュートラル達成と地域社会への貢献という大きな目標に挑戦しています。
この度、私たちの取り組みやビジョンを社内外の皆様と広く共有し、具体的なアクションへと繋げるためのハブとして、オウンドメディア「J-POWER Innovation Catalog」を立ち上げました。本メディアは、私たちの活動を網羅的にお届けする目録(カタログ)であり、未来への羅針盤となることを目指します。
イノベーションの最前線に立つ方々との対話、イノベーション推進部が投資し、共に社会課題の解決と新産業創出を目指すポートフォリオ各社、社内外のCVCネットワーク、そしてJ-POWERの保有するリソースやアセットといった点と点が、Innovation Catalogを通して有機的に繋がり、未来を紡ぐ。Innovation Catalogは連携を通して持続的な世界を築く、未来を照らすカタログです。





