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更新日:2026.5.28
公開日:2026.5.28
水のあたりまえに選択肢を――分散型水道で拓く、水インフラの次の20年
蛇口をひねれば、当たり前のように飲める水が出てくる。電気と並んでもっとも基本的なライフラインである「水」は、転換点を迎えています。人口減少による過疎化と管理者の減少、配管の老朽化、頻発する自然災害、そしてPFASに代表される新たな水質課題。電源開発株式会社(J-POWER)は20年以上に渡り、発電事業と並行して水に関わる事業「オンサイト型地下水浄水処理サービス」を展開してきました。病院、駅、空港、商業施設、そして離島の簡易水道に至る全国およそ60カ所で「お客様専用の水道」を支え、その経験は自治体の浄水場規模へ拡がりつつあります。
イノベーション推進部 審議役(水事業)である開 進一は、10年以上、水に関わる事業に携わってきました。発電会社のなかで育まれてきた「もうひとつのインフラ事業」の輪郭と、次の20年に見据える構想について紐解きます。
PFI事業からオンサイト型地下水浄水処理サービスへ
——発電会社であるJ-POWERがなぜ水事業を推進してきたのでしょうか?
開 もとをたどると「電力事業の第二の柱を作ろう」という新規事業の流れで立ち上がったものなんです。J-POWERは同じインフラ事業のなかで何ができるかと考えたときに注目したのが水道分野でした。ちょうどその頃、PFI(Private Finance Initiative)制度が始まったタイミングで「これからは水道のPFIが伸びていくはずだ」と踏んで参画したのが始まりです。
水道分野で日本初のPFI事業となった神奈川県の寒川浄水場排水処理事業に構成メンバーとして参画し、続いて千葉県の江戸川浄水場排水処理施設整備等事業にも参画しました。PFIはこの2件に留まるのですが、並行して立ち上げたのが、今私が担当している「オンサイト型地下水浄水処理サービス」です。井戸を掘って地下水を汲み上げる事業ですから、土木的な見地が必要になる。J-POWERの土木による新事業としてはじめたものでした。

——オンサイト型地下水浄水処理サービスを具体的に教えてください。
開 お客様の保有する施設敷地内にJ-POWERが井戸を掘り、設置した浄水プラントで地下水を浄化処理して、飲料水や雑用水として供給する民間ビジネスです。井戸や設備の初期投資、メンテナンス費用、公租公課をすべてJ-POWERが負担し、お客様には浄水1立方メートルあたりを「サービス料金」として、水を使った分だけお支払いいただく。発電所を建設して電気を販売するビジネスと、発想は全く同じです。
水道料金単価より安いサービス単価で水を提供できれば、お客様にはコストメリットがあります。加えて、自治体水道とは別に自前の水源を持つことで、災害時に水が止まらない「BCP(Business Continuity Plan)の価値」も同時に手に入ります。
契約期間は10年から15年と長期で、これを積み重ねてきて、今約20年。事業として安定的に育っています。
——どのような施設に利用されていますか?
開 大量に水を使い、かつ「絶対に断水してはいけない施設」が中心です。代表例が病院です。例えば透析治療では大量の水を使います。断水すれば治療そのものができなくなる。命に直結する話です。それから災害時に多くの人が集まる駅や空港。実際に、阪神淡路大震災のときも、東日本大震災のときも、広い範囲で長期間の断水が起きました。電気は3日あれば9割がた復旧しますが、水道は1カ月以上かかる場合もあるんです。
例えば筑波大学病院の事例が象徴的かもしれません。筑波大学病院の当社プラントが給水を開始したのは、2011年3月11日。奇しくも東日本大震災が発生したその日でした。ご存知のように14時46分、大きな地震が発生しつくば市は広域断水となりました。しかし筑波大学病院では当社プラントにより医療用水が確保できましたので、災害時医療に大きく貢献することができました。また、福島県いわき市の広域断水は復旧まで2カ月くらいかかりましたが、そこでも当社プラントは給水を継続し、震災復旧にあたった方々の活動をご支援することができました。
こうした施設の場合「専用水道」という制度のもとで、自治体が供給する水道とは別に、施設専用の水道インフラを整備することができます。これが、全国約60カ所で展開しているオンサイト型地下水浄水処理サービスの基本形です。
——水事業でJ-POWERが提供できる価値は?
開 正直なところ、価格勝負では当社はそれほど強くありません。ただ、安全に対する考え方は違いが出せると思います。「ガチガチに作り込む」のがJ-POWER流です。プラントの至るところに水質事故防止のための安全管理上の対策が組み込まれているんです。
たとえば当社のプラントが稼働している伊丹空港や福岡空港。空港では「飛行機の安全」という観点から、井戸を掘るやぐらの高さ一つとっても、要求水準がきわめて厳しい。空港のような大規模かつ安全要件の厳しい現場をきちんとやり遂げてきました。これは、発電所のオペレーションで培ってきたノウハウの応用なんです。発電所はそれこそ「ガチガチ」に安全を作り込んでいる世界ですから、その文化、経験が水処理プラントの建設・管理に受け継がれているのです。

最近よく聞くPFAS(有機フッ素化合物)の地下水汚染についても、J-POWERのプラントでは活性炭や膜処理などで除去できる構成になっています。
コスト面では、水道料金がどんどん上がってきていますから、自前で水源を持つことの経済合理性は高まっていますね。たとえば商業施設の事例で、もともと自治体水道で運用していた受水槽に、当社が後付けで井戸と浄水プラントをつなぐ。一部の水を地下水で賄えるようになるので、お客様の水道コストが下がるわけです。
しかし、ここで重要なのは、自治体水道とのハイブリッドだということです。プラントが止まる可能性もありますし、災害時には水道側が止まります。両方が冗長系として動いていることで、断水しない水インフラができると考えることができます。
分散型水道で20年、社会課題のソリューションとして
——水道インフラでは、配管および施設の老朽化、耐用年数経過が問題となっています。
開 これからの本丸だと思っています。日本の水道インフラの多くは、高度経済成長期、1960年代を中心に作られていて、「60年もつ設計」だったんです。その時点としては全く問題のない設計でした。ただし、その60年がちょうど今、一斉に更新タイミングを迎えている。しかも、当時は人口が増え続ける前提の設計でした。遠隔の集落ごとに供給責任を果たすため、山を越えて配管を引いた水道もたくさんある。配管を作り直すコストは膨大ですし、人口が減って負担できる住民もいない。これからは「集約」か、あるいは「個別の責任で水を確保する」か、どちらかに振れていく時代になると考えられます。後者を選んだときに、我々のような分散型のソリューションが活きてくるわけです。

2024年の能登半島地震では、配管を全部直すのに膨大なコストがかかる見通しです。それであれば、例えばいくつも小規模な分散型水道を設けて、それぞれが小さな水循環をつくる方が、復旧も維持もはるかに安いと考えられます。
私たちJ-POWERは、もともと「分散型水道」の文脈で20年やってきたようなものなんですよね。
——政府も分散型水道という言葉を使い始めています。
開 まさに行政面でも変化があって、これまで水道行政は厚生労働省、下水道行政は国土交通省と分かれていたんです。これは明治時代、コレラの大流行などを背景に「水道は感染症対策」として厚労省管轄になった歴史的な経緯があるんですが、2024年に国交省に統合されました。高度経済成長期の設計思想も含めて、時代の要請に合わせた水道インフラを描き直すフェーズに入っているといえるでしょう。
J-POWERにとって象徴的な事例が、徳島県阿南市にある伊島という離島の簡易水道です。伊島は阿南の港から連絡船で30分かかる本当の離島で、もともと100人ほどだった人口がいまは60人を切っています。学校も廃校になりました。そこではかつて、自治体がため池の水を簡易な砂濾過で処理して供給していましたが、水質管理に苦労されていました。J-POWERはそこに膜処理設備を設置し、良質な水道水に変えました。伊島では15年契約が満了して、2期目に入っています。

倉庫左の小場所に設置されたJ-POWERのオンサイト型地下水浄水処理設備
水道料金だけでは、こうした遠隔地集落の水を維持できない水準に来ています。それでも自治体には「住民に水を届ける責任」がある。差額はどこかが負担せざるを得なくて、結局のところ自治体が背負うしかない。同じような構図になっている地点が、これからますます増えていきます。大手の水道会社はこうしたビジネスとして成り立ちにくい案件には行けませんが、誰かがやらないと立ち行かない仕事なんです。
——兵庫県宍粟(しそう)市の上寺(うえでら)浄水場再構築業務に、J-POWERが優先交渉権者として選定されました。
開 J-POWERにとってはじめての「自治体の基幹浄水場リプレース」案件になります。宍粟市は山あいにある自治体で、今後人口減少が見込まれている。基幹浄水場である上寺浄水場が老朽化しているのですが、自治体が自前で更新する場合、将来の人口減による収入減少を考慮すると、設備投資と40年分の維持管理費を合わせると、とても手が出ない金額になってしまう。そこで、J-POWERがオンサイト型のサービス事業と同じ仕組みで、設備を当社が所有して市には「水」をサービスとして供給する形をご提案しました。
ポイントは、処理方式をガラッと変えることです。既設は「凝集沈殿+急速濾過」という、川の水を扱う昔ながらの方式でした。主水源が井戸に替わることもありますが、これを膜処理に切り替えると、設備は驚くほどコンパクトになります。広大な敷地のなかの、ごく一部に膜処理プラントを置くだけで済む。当社が手がけているオンサイト型のプラントと考え方は同じで、規模だけが違うんです。
——これまで病院や離島でやってきたオンサイト型の設備が、自治体における基幹浄水場のスケールにそのまま展開できるということですね。
開 その通りです。新設施設の設計・建設を2026年から2028年にかけて行い、2028年4月から20年間、J-POWERが維持管理・運営します。計画浄水量は1日あたり約6,000立方メートル。当社オンサイト型プラントの数十倍以上の規模です。それでも、考え方は同じです。
加えて、人口減少を見据えた柔軟性が当社方式の強みになります。「最初は複数系列で膜処理設備を設計しておいて、人口減少に伴い適宜減らす」というように、需要に応じてサイズダウンが効く構造にできるんです。既設の60年もつ設計と異なり、20年スパンで「その時々の実需」に合わせて柔軟に整備していくことが可能です。これからの自治体水道に必要な発想ではないでしょうか。
これからの水インフラを担い、水のあたりまえを見据えて
——浄水プラント自体のアップデートはありますか?
開 センサー技術とAI、水に対する高度な知見を有するeau&company株式会社、資本提携したゼオライト株式会社と組んで、J-POWERの浄水プラントにセンサーと水処理の自律制御アルゴリズムを入れる実証を進めようとしています。これまでの水処理プラント監視システムは、水質異常等の検知を主目的とするものでしたが、個別機器の運転状態を詳細にモニタリングすると、いろいろ面白いことが分かってきました。具体的には、センサーで常時、各処理工程の状態を可視化できるようになると、たとえばろ過装置の「逆洗」——フィルターを逆方向に水を流して洗浄する作業——の時間を最適化できます。「これまで10分流していたけれど、排水の水質を見たら5分で十分だ」となれば、洗浄コストは半分になります。既存のプラントに後付けで導入できる技術ですので、J-POWERが運用している60カ所の浄水プラントはもちろん、他社が運用しているプラントにも展開できる可能性があります。「コンサル+見える化+運用最適化」を組み合わせて、水処理のソリューション事業として拡げていくことを視野に入れています。

これからの自治体水道は、「結局メンテナンスする人もいない」という現実の問題に直面します。地場で水道インフラを管理してきたプレイヤーも高齢化していて、技術の継承すら難しい現実があるのです。だから、設備を提供するだけではなく、運用そのものを代替する機能が求められています。デジタル技術やAIを組み合わせて、属人化を解消しながら効率を上げる。eau&companyとの取り組みで見えてきたものが活きてくると思います。
——20年をかけて拡げてきた事業の先に、どのような未来を見ていますか?
開 私自身土木出身で、実はコンクリートを専攻していました。土木のなかには、コンクリートもあれば橋梁、土質もあって、「水道工学」という分野もある。私はその水道工学が学生時代はあまり得意ではなかったんですが、いまこうして水のど真ん中にいる。なぜか流れ着いてしまった、という感覚があるんです。
入社直後は電力設備の建設など、コンクリートを扱う仕事に携わることができましたが、そのあと、当社に最初の新事業立ち上げ部署ができたタイミングで初代メンバーとして移って、廃棄物発電、いわゆる「ごみ発電」などのテーマに関わり、その後は廃棄物処分場の建設工事、地球環境室、茅ヶ崎研究所と渡り歩いて、この水事業に15年目です。気がついたら、水まわりにずっといるキャリアになっていました。
20年前は「オンサイト型の浄水処理サービスをただ積み上げる」という事業でしたが、20年かけてようやく自治体の基幹浄水場まで届くようになった。一つひとつの現場で蓄積してきた、井戸の目利き、水質に応じた膜の構成、安全を「ガチガチ」に作り込む文化、そしてDX、AIによる見える化。これらが組み合わさって初めて「これからの水インフラ」を提案できる事業者になれると思っています。
日本人にとって、蛇口をひねれば水が飲めることは「あたりまえ」だと思われがちですよね。でも、こんな国は世界に多くないんです。その「あたりまえ」をこれから先の何十年も守っていくために、私たちJ-POWERは水のあらゆる現場に出向いていきたい。日本全国に様々な電源を持つ発電会社らしい広さで、それをやり続けたいと思っています。


イノベーション推進部 審議役(水事業)
開 進一
Shinichi Hiraki

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開 進一
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