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Plug and Play Japan × Climate-KIC共催イベントに登壇し、環境価値プラットフォームの協業事例を紹介しました
2026年9月3日、Plug and Play JapanとClimate-KICの共催イベント「気候変動への飛躍:強靭な未来のための連携 ― 欧州・日本対話」(会場:Tokyo Innovation Base)が開催されました。日欧の最新動向の共有、6社のスタートアップピッチと続いたプログラムの締めくくりとして、J-POWER(電源開発株式会社)と株式会社Scalar、dodoAI株式会社の共創事例「環境価値プラットフォーム」のセッションがもたれました。
日欧のClimate Techはいまどこにいるか
イベント前半では、主催2組織による最新動向の共有がなされました。Plug and Play Japanは、エネルギーチームの5年間の活動をまとめた「Energy Transition Report」の発表が控えていることを報告し、AIの普及がエネルギーシステムに与える影響や、既存技術の有効活用といった投資機会の見立てを紹介。欧州最大級のClimate Tech支援機関であるClimate-KICは欧州の投資動向を解説し、企業が「グリーン」であることを示すには科学的根拠が不可欠であること、欧州のVC市場では実績と明確な事業性が重視される傾向が強まっていることを指摘しました。
中盤のピッチには、日欧を中心に6社が登壇。洋上浮体式太陽光発電(SolarDuck)、エマルションフロー技術によるレアメタル回収(エマルションフローテクノロジーズ)、再生可能エネルギーの熱貯蔵(ESREE Energy)、衛星・地理空間データによる環境リスク監視(Solafune)、割り箸のアップサイクル家具(ChopValue)、植物のストレス耐性を高めるバイオスティミュラント(WAKU)と、ハードウェアからデジタルまで多様なアプローチが並びました。
イベントの最終プログラムは、アワリーマッチングシステム「環境価値プラットフォーム」の協業事例紹介セッションです。本プラットフォームはJ-POWERがオーナーとして開発を進めているもので、Scalarのミドルウェアを基盤に、dodoAIが開発パートナーとして参画しています。本取り組みは、東京都のTiB CATAPULT(グローバルイノベーションに挑戦するクラスター創成事業)の支援も受けています。登壇したのは、J-POWER経営企画部 兼 イノベーション推進部の井手 一久と、dodoAI株式会社 Chief Business Development Officerの加藤 哲裕氏。加藤氏は前職のScalar時代から本プロジェクトに携わり、現在はdodoAIの立場で開発に参画しています。
事業会社とスタートアップの協業はどう始まり、どのような課題を越えて現在に至ったのか。その軌跡と、オープンイノベーションを成立させる要因がテーマとなりました。モデレーターとのセッション形式で、内容を一部編集してレポートします。

――自己紹介をお願いします。
井手 8年ほど前からJ-POWERのCVC(Corporate Venture Capital)担当として、スタートアップへの投資活動および新規事業開発を行っています。Scalarには6年ほど前に出資し、「環境価値プラットフォーム」をつくり始めたのはこの2〜3年です。現在は、投資先との協業にフォーカスしています。
加藤氏 dodoAIの加藤です。キャリアの軸はエンタープライズITで、新卒で入った富士通では、銀行システムの営業と国産クラウド基盤の事業開発を担当しました。その後、日本オラクル、グーグル・クラウド・ジャパン、商社のデジタル子会社を経て、日本発のデータベースミドルウェアを手がけるScalarでソリューションアーキテクトを務めました。
国産ベンダーと外資の両方を内側から見てきた中で、日本発のプロダクトで勝負したいと考えたことが、Scalarを選んだ理由です。J-POWERの皆さまとはScalar時代から、環境価値プラットフォームの共同開発でご一緒しています。
いまはdodoAIで、企業が知識や判断の仕組みを自社の手元に置いたまま、AIエージェントに業務を任せられるソフトウェアをつくっています。
年単位から時間単位へ——課題と背景
――今回の協業について説明をお願いします。
井手 J-POWERは戦後に設立された国策会社で、2004年に民営化しました。国内外で電源をつくって卸売りするのが事業で、設備規模は国内で4番目くらいです。水力と火力が大きな割合を占めますが、風力も国内2番手で、再エネの電源もそれなりに豊富に持っています。私自身は入社してから風力発電の開発に携わり、その後、経営企画部での新規事業の立ち上げを経て、出資先に限らずスタートアップと協業して事業をつくるイノベーション推進部に入りました。いまは再び経営企画部にいますが、やっていることはそれほど変わりません。スタートアップとのプロダクト開発や、新しい事業の立ち上げを担当しています。
環境価値プラットフォームとは何か、まず背景から話します。
最近、GHG(Greenhouse Gas)プロトコルの改定が話題になっています。その大きな柱は、「これまで『年間でどれだけ再エネを発電し、どれだけ使ったか』という年単位で行ってきた環境価値のマッチングを、『いつ発電した電力を、いつ使ったか』という時間単位で行うべし」というものです。これはアワリーマッチングと呼ばれています。ところが日本では、環境価値を定義する非化石証書に時間の情報がついていません。この時間属性をしっかり付与して、証明しなければならない。それが大きな課題です。さらにSBTi(Science Based Targets initiative)など情報開示の面でも「時間単位のマッチングを開示すべし」という流れになってきています。マーケットとして、こういう仕組みが必要になってきているということです。

つくっているものは、大きく3段階です。1つ目は、発電データと使用電力のデータをデータ証明基盤に入れて可視化すること。2つ目は、その発電データ、つまり環境価値が誰に帰属するのかを、時間帯ごとにマッチングすること。ここまでがいまつくっているプロダクトです。3つ目はその先で、「この環境価値はこちらに渡したい」「足りないからどこかの発電事業者から環境価値がほしい」といった調達と提供のところ。そこまでをこれからつくっていきたいと考えています。
データの真正性をどう担保するか
井手 今日は協業の事例紹介ですので、なぜScalarの技術を使っているのかをお話しします。
環境価値プラットフォームでは、ScalarDLというソフトウェアを活用しています。記録されたデータの改ざんを検知し、データの真正性を確認できるようにする技術です。
こうした仕組みを実現する選択肢として、ブロックチェーンがあります。ただ、企業の業務で使うには、改ざんへの対策に加えて、コストや処理性能の要件も満たす必要があります。私たちには、それらを両立するにはどうすればよいか、という問題意識がありました。ScalarDLは、その課題に応えるためのソフトウェアです。
体制としては、J-POWERがソフトウェアのオーナーという建て付けで、そこにScalarのミドルウェアを入れ、dodoAIにアジャイル開発のシステムベンダーとして入っていただいています。加藤さんもそうですが、dodoAIにはScalarのミドルウェアを扱った経験が豊富な方がいるので、クイックにScalarの技術をエンベッドしていただける体制です。
データの可視化から見えてくるもの
井手 今回は東京都にご協力いただき、都の施設における電力使用データを、J-POWERの風力発電のデータと突き合わせました。年間で並べると、夏場のマッチング率が低い。風力の発電量が夏に下がることと、夏は電力使用量が多いことが可視化されています。日ごとのデータを見ると、しっかりマッチングしている日もあれば、昼間だけ穴が開く(マッチングされていない)日もある。こういうデータを見ると、「たとえば太陽光と風力を組み合わせればマッチング率が上がる」ということが分かります。J-POWERは再エネのプロバイダーでもありますので、足りない電力を調達して提供する、あるいはJ-POWERが発電所をつくる、というところにつなげていきたいと考えています。
いまはベータ版で、可視化のプロダクトという位置づけです。この先は、より証明的なところ、つまり第三者の証明を取ること。それから最近はバッテリーで電力をタイムシフトする(昼間に余った電気を充電し、再エネが不足する夜間に放電する)動きも出てきていますので、タイムシフトした電力が本当に再エネなのかを証明できる仕組みをつくっていくこと。こういった領域で協業できる会社、スタートアップがいらっしゃれば、どんどん声をかけていただければと思います。
協業プロジェクトを進めるトリガー
――Scalarはもともと電力領域のプロダクトを手がけていたわけではなかったと思います。この協業で、J-POWERの知見はどう役立ちましたか。
加藤氏 実は個人的にエネルギー領域にはご縁がありました。私はScalarの前は商社のデジタル子会社におり、半年ほどですがエネルギートレーディングシステムの構築支援を行っていました。その時は、まさかミドルウェアの会社に行って、こういうご縁に恵まれるとは思っていませんでした。
いわゆるOSやミドルウェア領域のソフトウェアをやっていて日々難しいと感じるのは、それだけではお客様の役に立つところまで届かないということです。インフラやデータに、アプリケーションとドメイン知識が結びつくことで価値になる、お客様の役に立つ。そう考えると、自分たちのビジネスの射程を広げるには、ドメイン知識に踏み込んでいかなければいけない。その意味で、J-POWERとの出会いは非常に大きかったと思います。私自身、多少なりともドメイン知識はあったのですが、あらためて業界やマーケットを調べたり、分からないことを聞いたり、逆に「我々のテクノロジーはこういうふうにできるから、こういうことができます」と伝え返したり。この「対話と共感」を両社で泥臭くやってきたことが、一番大きなポイントだったと思います。

――大手企業とスタートアップの目線合わせは大変だという声をよく聞きます。今回、大変だったこと、工夫したことはありますか?
井手 実は5年ほど前に、最初のPoC(Proof of Concept)をやっているんです。そのときはマーケットがまだなかった。マッチング状況が可視化できることは分かったけれど、GHGプロトコルの改定のような外部要因が何もない中で、「いずれ来るのは分かるが、いまつくる意味はない」という指摘があり、話がなかなか進まなかった。
当時、事業部門に興味のある方がいて、一緒に実証をやったのですが、うまくいきませんでした。自分の反省としては、伴走が足りなかったと思うところもありますし、マーケットや外部要因がまだ整っていなかったとも思います。
では、なぜいまはできているのか。1つは、PoCでの技術的な蓄えがあったこと。加えて一番大きかったのは経営層の理解です。時代の潮流や外部要因が変わってきている中で、こういうものをもう一度、ちゃんとつくるべきだろうという経営からの後押しがあります。これは事業開発を進める中で非常に大きい要素だと思っています。
――経営層へのインプットは、意識的に行っていましたか?
井手 J-POWERのCVCを担当するイノベーション推進部では、毎月、社長に直接インプットする機会があります。このプロジェクトだけではありませんが、その場で伝えていますし、必要であればプロアクティブにやっています。
自覚と学び、対話と共感で進む事業共創
――最後に、この協業から得た教訓を聞かせてください。
井手 自社がどういう立場にいるかという自覚です。伴走する立場ではなく自社で開発する立場になると、より「自分たちでやるんだ」という思いになっていく。私はScalarに投資した担当でもあり、いまプロダクトを開発している担当でもあります。大企業の中でCVCをやっていくのは悩みも多いと思いますが、この協業の形、組み方がひとつの答えなのかもしれないと思う部分があります。それが1つ目です。
もう1つは、いま、AIの時代に何が必要かという観点です。AIを活用するうえで重要なのは「ドメイン知識があること」だと思っています。私は発電所開発もやってきましたし、経営企画部としてエネルギーマーケット全体を見てもいる立場です。こうしたドメイン知識を、AIの時代にどう掛け合わせていくかが大事だと考えています。
加藤氏 スタートアップの目線からお話しします。まず1つ目は、「諦めないこと」です。スタートアップが狙うマーケットは、現在よりも先にあります。「まだ時期が来ていないじゃないか」という話は必ず出てくる。それでも諦めずにやり続ける。この環境価値プラットフォームの取り組みも、かれこれ2年半、3年弱になりました。心が折れそうになったこともありますが、一貫してやり続けることが大事です。すぐにうまくいかないとピボットしてしまうケースもあると思いますが、諦めない、やり続けることの大事さもあると思っています。
2つ目は、大手企業とスタートアップの協業はうまくいかないという話をよく聞きますが、私はそうではないと思っています。多くの場合、「足りないのはスタートアップ側の踏み込み」だと思います。大手企業がどう意思決定するのか、ステークホルダーをどう巻き込むか。ちゃんとスポンサーを見つけて、きちんとデザインをしていけば、回っていきます。
もう1つ大事なのは、「経営層と現場を両方行き来すること」です。これがなければうまくいきません。dodoAIの立場で、金融、製造、保険などの大手企業各社とAIをどう活用していくか、AIと人と組織と文化をどう扱っていくかを議論しています。結局、自分たちスタートアップだけが分かる言葉ではなく、相手先が分かる言葉にして、それがどう価値になるかをデザインできるか。こういったことを粘り強くやったスタートアップが、最後に大手企業と大事な協業ができる。そこはスタートアップがもっと踏み込まなければいけないところだと思っています。先ほど「対話と共感」という言葉にしましたが、それをいろいろな方とやっていくことが、今回のLessons Learnedだったと思います。

J-POWERは、今後もBLUE MISSION 2050の実現に向け、多様なパートナーとの共創を通じて、カーボンニュートラルの達成と地域社会への貢献に挑戦してまいります。
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AI時代を支えるScalarの挑戦――データ基盤で環境価値を可視化する:https://innovation-catalog.jpower.co.jp/articles/innovative_voice-005
Portfolio|Scalar:https://innovation-catalog.jpower.co.jp/articles/scalar
Author
Innovation Catalog 編集部
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J-POWER Innovation Catalog〜未来を共創する羅針盤
J-POWERイノベーション推進部は、「新たな未来を共に創造する」というミッションのもと、カーボンニュートラル達成と地域社会への貢献という大きな目標に挑戦しています。
この度、私たちの取り組みやビジョンを社内外の皆様と広く共有し、具体的なアクションへと繋げるためのハブとして、オウンドメディア「J-POWER Innovation Catalog」を立ち上げました。本メディアは、私たちの活動を網羅的にお届けする目録(カタログ)であり、未来への羅針盤となることを目指します。
イノベーションの最前線に立つ方々との対話、イノベーション推進部が投資し、共に社会課題の解決と新産業創出を目指すポートフォリオ各社、社内外のCVCネットワーク、そしてJ-POWERの保有するリソースやアセットといった点と点が、Innovation Catalogを通して有機的に繋がり、未来を紡ぐ。Innovation Catalogは連携を通して持続的な世界を築く、未来を照らすカタログです。