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更新日:2025.9.16

公開日:2025.7.16

「風車のある村」熊本県西原村×J-POWER

――地域との長く深い関係性から生まれるイノベーション

    阿蘇外輪山の西麓に位置し、広大な原野と山林からなる熊本県西原村。阿蘇外輪山の一部である俵山の中腹には、山々から吹く強い風を利用した風力発電所「阿蘇にしはらウインドファーム」が設置され、2005年より稼動していました。
    J-POWER(電源開発株式会社)は西原村と長きにわたる関係を築いており、2016年の熊本地震の後も継続的な取り組みと支援を行ってきました。地域への貢献は風力発電事業に留まらず、交流人口の増加やテクノロジー活用への展望も広がっています。
    その関係性の中から生まれるアイディアや挑戦とはどのようなものなのか。10年前から風力発電事業に関わるイノベーション推進部の井手 一久が聞き手となり、熊本県西原村長の吉井 誠氏が思い描く地域の未来の姿を紐解きます。

    豊かな自然環境と都市圏への近さが魅力の西原村

    井手 改めて西原村がどのようなところかをお聞かせいただけますか。

    吉井氏 西原村は阿蘇外輪山の西麓、阿蘇くまもと空港からほど近い場所に位置しています。阿蘇山の大噴火によって形作られた阿蘇外輪山の一部である俵山が村のシンボルです。人口は2025年現在およそ7,000人。熊本地震の後に6,800人くらいまで減りましたが、2024年夏に熊本地震前の人口にまで回復し、過去最多人口を記録しました。豊かな自然と、熊本市内まで45分程度という利便性の高さが両立しており、近年では移住者も増えて、人口増加率は熊本県で1位、「住みたい田舎ランキング」でも全国8位にランクインするほど、上向き傾向にあります。

    2016年の熊本地震のときには全国からたくさんの方々にご支援をいただきました。復旧工事はほぼ終わり、残る大切畑ダムの復旧工事も2026年4月には試験たん水が始まる見込みです。

    井手 個人的に印象に残っているのが、J-POWERが開催にも携わらせていただいた「風の子塾」です。私も参加していましたが、子どもたちが風力発電について学び、俵山で凧揚げの体験をすることで、西原村の自然環境に対する関心を深めるものでしたね。

    吉井氏 風の子塾は、小学5年生を対象としたプログラムです。風車を通して、阿蘇の草原の大切さとその草原を維持するための野焼き(火入れ)の重要性も子どもたちに伝えることができていましたよね。高齢化が深刻化する昨今、若い世代への地域や自然環境に関する知識の引継ぎは、西原村にとってもありがたいものです。

    西原村の春の風物詩となっている野焼きは、もともとは牛馬の飼料となる植物の生長を促進するために行われていました。野焼きをして山肌が真っ黒になったあと、放牧をして営農するのに適するきれいな緑の草原に生まれ変わるのです。それが結果として草原の維持に役立ち土地保全につながっていて、今日では、野焼きは飼料のためだけでなく、観光資源となる草原景観や水源涵養(かんよう)を目的とするようにもなりました。

    阿蘇外輪山からの風が吹き抜ける、風車のある村として

    井手 俵山の中腹にある風力発電所には、西原村とJ-POWERが一緒になって建てた風車が10基ありました。現在はリプレースのため撤去中ですが、風車がない俵山の景色が少しさみしく感じてしまいますね。

    吉井氏 その気持ちはみんな一緒です。村の中でも外でも「もう風車はなくなるんですか」「いつ建つんですか」とよく聞かれます。

    私が風力発電事業に携わるようになったのは、村の職員だった2002年のことです。2つめの風況観測塔を建て、そのデータのカードを取りに行き、J-POWERに送る業務を担当していました。

    井手 その業務を自治体の方が行っているケースはかなりレアですよね。

    吉井氏 役場としては、そのデータが村の宝になるのではないかと考えていたのです。カードを取りに行く代わりにデータを共有してほしいと依頼していたかと思います。

    井手 阿蘇外輪山からの風が吹き抜けるところにあって、北海道や東北と比べると強風ではないけれど、一年中安定した風が吹いてくれるので、風車も壊れにくく、安定した収入をもたらしてくれる地点だったと記憶しています。風力発電所ができて、西原村としてよかったのはどんなことでしょうか。

    吉井氏 よかったことはいくつもあります。その中でも「風車がある村」として知名度が上がったのが一番大きいですね。阿蘇くまもと空港で飛行機を降りたら見えますし、熊本市内からも、高速道路からも見えるので、「風車がある村」として西原村を知ってくれる方が増えました。

    熊本地震では西原村の6割の住宅が半壊以上の被害を受け、風車がすべて止まっていた時期が長くありました。水道が復旧し、電気が復旧して、風車が再び回り出したときは本当にうれしかったです。風車が回ると、また次に頑張ろうというエネルギーが出てくるのですよね。風車は西原村のシンボル的な存在だと感じます。

    井手 空港が近い立地なので、風車を建てるまでも、航空法の規制など様々な課題を乗り越える必要がありました。

    吉井氏 そうですね。建設に至るまで、J-POWERと一緒に毎日のように遅くまで仕事をしていました。航空法や屋外広告物法など、1つハードルを越えると、また次のハードルが目の前に現れて。クリスマスや年末年始というとJ-POWERと一緒に仕事をしていた思い出がありますね。風車ができあがって落成式を迎えた際は、本当にうれしかったです。

    井手 風車が建った後も親交関係は続き、J-POWERとして村の行事にも招いてもらいました。私は地域との関わり方を西原村で教えてもらったと思っています。役場の方だけでなく区長さんたちも、顔を合わせると「こんにちは」「昨日はお疲れさま」と気軽に声をかけてくれるのがとても嬉しいですし、この事業に携われたことは自分の財産になっていると感じています。

    吉井氏 ありがとうございます。私個人としても、J-POWERの歴代の先輩方に仕事を通していろいろなことを教わり、今があると思っているのですよ。

    井手 熊本地震は大変な災害でしたが、後の復興支援で少しはこれまでの恩返しができたのではないかとも思っています。この関係性は個人的にも大切にしたいですし、後輩にも受け継いでいきたいと強く思っています。

    継続的な関係性の中から生まれるイノベーション

    井手 吉井さんは、熊本地震の震災復興に役場職員としてご尽力され、2022年に西原村村長に選出されました。村長として、今後どういったことに力を入れていきたいと考えていますか。

    吉井氏 2022年7月に村長に就任してから、何度かアンケート調査を実施しています。住民の皆さんから最も要望が多いのは交通施策、次いで量販店の誘致です。その2つの要望が4割を超えているので、優先的に対応していきたいと考えています。

    交通施策に関しては、西原村は自家用車が1人1台ないと生活しづらい環境ですが、高齢ドライバーの方は運転免許証を返納する世の中になっており、交通手段が不足しています。そのため、阿蘇くまもと空港までの鉄道整備や、復興のシンボルである西原村総合体育館から空港、そして地震被害の大きかった益城町をつなぐバスの実証運行を具体的に計画しています。大きな拠点と拠点を鉄道やバスでつなぎ、拠点まではタクシーやライドシェアといった交通手段を整備できたらと考えています。

    量販店の誘致に関しては、出店する側としては人口が1万人を超える自治体でないと採算が取れないようで、現状ではなかなか厳しいと言わざるを得ません。とはいえ、西原村は住みたい田舎ランキングで上位にランクインしており、近隣にはTSMCや大企業の生産工場があるなど見通しは明るいので、興味を持ってくれる量販店もあります。今後、人口が増えればおのずと出店の話も進むでしょうし、お店ができればさらに人口も増えることが期待されます。少しでも良い方向に行くように進めていきたいと思います。

    あとは、賑いの創出ですね。昨年4月に、熊本地震からの復興として、西原村総合体育館及び西原村運動公園にて西原村復興祭を開催しました。コロナ禍も落ち着き、村のイベントが活発になって、12月の大相撲冬巡業西原場所には3,000人ものファンが集まりました。これからも村の住民で力を合わせ、いろいろなことをやっていきたいと思っています。

    井手 ありがとうございます。私が所属するイノベーション推進部は、スタートアップと協業したり、新しい技術を取り入れたりして、社会の課題を解決することを目指しています。西原村では、新しい技術やアイディアを使って挑戦してみたいことはありますか。

    吉井氏 例えば役場と空港の間で自動運転バスを運行させたり、農家さんがドローンを使って薬剤散布したりといったことが実現したら良いですよね。西原村は熊本県有数のからいも(サツマイモ)の産地ですが、農家さんが高齢化して農薬散布が大変という現状があります。温暖化によるからいもの高温障害も出ているので、データを活用して営農支援なども考えられます。AIに関しても、条例を学習させて活用できないかと検討しているところです。

    井手 当社もさまざまな社内規定をAIに学習させて、自動応答できるチャットボットとして活用しています。会社のルールと自治体のルールは、中身は違いますが、同じようにできる部分もあると思うので、何か共通化できたら面白いですね。

    吉井氏 西原村は熊本で最初に風車を設置した自治体ですし、適度な規模感の自治体ですからいろいろなことがやりやすい。ぜひ西原村でいろいろな実験をしてください。

    井手 ありがとうございます。スタートアップにはハードシングスがつきものですが、西原村は空港の近くに風車を建てるという誰もやったことがない挑戦をして、苦労を乗り越えてきたので、その経験はきっと若い人たちの参考になると思います。

    吉井氏 風車の設置に加えて、熊本地震のときも目の前のことに向き合って、正解がない中でとにかく頑張ってきました。そういった経験から学んだことを活かしながら、今後も新しい挑戦をしていけたらいいなと思います。

    J-POWERが選択すべき貢献の形とは

    井手 近年は人口が増えているとのことですが、若い方の移住が多いのでしょうか。

    吉井氏 そうですね。西原村から近隣の菊陽町まで車で30~40分なので、同町に拠点を置く大企業に勤める若い方の移住が増えていると思います。近隣市町村の地価はかなり上がっていますが、西原村はまだそれほど上がっていないので、買うなら今ですよ(笑)。

    井手 空港にも都市部にも近いのに、自然が豊かで良いところなので、私もいつ移住しようかと思っているくらいです。

    吉井氏 関係人口が増えると、定住人口も増えますからね。西原村を訪れ、住民と交流するなかで村を気に入って、家を建てる人も多いのです。

    井手 最後に、J-POWERに期待することを教えてください。

    吉井氏 風の子塾のような活動を通して、今までと変わらずお付き合いいただければありがたいです。また、阿蘇全体で住民の高齢化や核家族化に伴い、野焼きをする集落や人手が減っており、草原の維持と管理が課題となっています。これから水源涵養とともに草原を維持する取り組みをしていきたいので、そちらにもご協力いただけたらと思っています。

    井手 当社では東京など各地で勤務する社員を募集して、地域のお祭りや行事のお手伝いに行ってもらう取り組みをしているので、そういった取組で連携できるといいですね。

    吉井氏 あとは、ふるさと納税における体験系の返礼品の人気があるので、小学生だけに限らない環境教育のプログラムを実施してもらえたらありがたいですね。

    井手 当社では、未来のエネルギーや社会について考えるエコ×エネ体験ツアーを実施しているので、それを参考に何か企画できたらと思います。本日はありがとうございました。

  • 熊本県西原村

    村長

    吉井 誠 氏

    Makoto Yoshii

  • イノベーション推進部 企画室

    課長

    井手 一久

    Kazuhisa Ide

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