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更新日:2025.12.29

公開日:2025.12.26

物語を編み直すのはだれ? TECH BEAT Shizuokaキーパーソンに聞く地域と産業の未来(前編)

    「静岡から世界へつながる出会いとビジネス創出の場」として、国内外から最先端テクノロジーを持つスタートアップ企業を集め、展示や講演、商談を通じて静岡県内企業との共創を促進するイベント「TECH BEAT Shizuoka」(主催:TECH BEAT Shizuoka実行委員会(事務局:静岡県・株式会社静岡銀行、以下「静岡銀行」)。2025年7月に開催した「TECH BEAT Shizuoka 2025」では延べ来場者数10,125人を記録するなど、静岡県内外での機運の高まりを示しました。
    TECH BEAT Shizuokaのプロジェクトを推進するキーパーソンである、静岡県フェローの西村 真里子氏(株式会社 HEART CATCH 代表取締役)と静岡銀行地方創生部 課長の井出 雄大氏を訪ね、静岡県内企業とスタートアップとのオープンイノベーションはいかにして成し遂げられるのか、TECH BEAT Shizuokaのこれまでとこれからについて伺いました。聞き手はJ-POWER(電源開発株式会社)井手 一久です。

    ゲスト:
    井出 雄大氏|静岡銀行 地方創生部 課長
    西村 真里子氏|株式会社HEART CATCH 代表取締役、静岡県フェロー

    バージョンアップを重ねるTECH BEAT Shizuoka

    井手 お二人のお仕事とTECH BEAT Shizuokaにおける役割をお聞かせください。

    井出氏 静岡銀行地方創生部の井出です。地方創生部では、地域の持続的な発展の基盤となる人口減少への対応や経済活性化に向けた施策の展開など、金融以外の領域で、地域の皆様に元気になっていただくための方策に取り組んでいます。その中で私は「新しいことに挑戦する事業者の後押しをする」創業・第二創業支援をはじめとした、地域にイノベーションが起き続ける仕組み、エコシステムづくりに注力しています。

    TECH BEAT Shizuokaは2019年7月から始まったイベントですが、私はその年の12月に担当として着任しました。それから現在に至るまで、TECH BEAT Shizuokaの担当をしております。

    西村氏 株式会社HEART CATCH代表取締役の西村です。HEART CATCHでは、既存の枠組みや固定観念を払拭し、新しいことに挑戦したいと考える企業のご支援を行っています。

    井手 西村さんがTECH BEAT Shizuokaに関わるようになったきっかけは、なんだったんでしょう?

    西村氏 「VIVA Technology」です。フランス・パリで開催されている、スタートアップ&テクノロジーイベントを静岡銀行が視察されるということで、しずおかフィナンシャルグループの中西会長(現職)と静岡銀行の八木頭取(現職)をアテンドさせていただいたのがきっかけです。

    VIVA Technologyは、フランスの大手企業がスタートアップと協業し、その価値を披露する、いわゆるオープンイノベーションと産業創出がテーマのイベントです。その現場を見た中西会長から「静岡でも、大企業とスタートアップが手を取りあって地域の課題を解決する事例を作りたい」という想いを伺いました。その想いが静岡銀行、静岡県など現在の実行委員会のメンバーを動かし、会長の想いに感銘を受けた私もご一緒することとなり、プロジェクトの立ち上げからプロデューサーという形で関わらせてもらうことになりました。

    井手 TECH BEAT Shizuokaは、2025年の開催で7回目を迎えました。改めて、TECH BEAT Shizuokaについて教えていただけますか?

    井出氏 ひとことで言うと、静岡県内の様々な事業者に、新しいことに挑戦するきっかけや自社の変革につながる考え方・ソリューションなどを提供する場でありプロジェクトです。国内外のスタートアップを静岡県にお招きし、県内事業者に新しいテクノロジーや価値観に触れてもらうことで、新しい一歩を踏み出す機会にしたいと考えています。また、会場内で先端技術に親しむ機会を提供することで、ビジネスパーソンだけではなく、未来世代を含む幅広い層のテクノロジーに対するリテラシーを上げたいという想いもあります。

    西村氏 TECH BEAT Shizuokaの醍醐味は、参加するスタートアップと静岡県内事業者とのマッチングです。スタートアップの多くは東京都内に拠点を持っています。都内で事業者と会うことはできても、実際に製造業や農業の現場に行く機会はなかなかありません。静岡の地で、産業の第一人者とマッチングできるのは、スタートアップにとっても大きな魅力となっています。

    井手 TECH BEAT Shizuokaを推進するうえで、どんなことを意識していますか?

    西村氏 静岡県内の事業者が、自社だけではできないことをスタートアップと組んで挑戦すること。方向性を模索しながら「知の探索」ができることを意識しています。とはいえ、DXやAIの波を受ける変化の早い時代です。TECH BEAT Shizuokaのスタート時の気持ちを大切にしながら、もとの企画にしがみつかず変化し続けることも大切です。

    井出氏 私は「誰でもアクセスできること」を重視しています。スタートアップのカンファレンスではコミュニティが固定化される、いわゆる「ムラ」化しがちで、外部から入っていくことが難しかったりしますよね。その利点ももちろんあると理解しつつ、私たち銀行の強みは、地域のいろいろな方と繋がっていることにあります。「スタートアップのことはよくわからない」という方々もこの場にお連れして、スタートアップと気軽に交流できる空間を作っていることに、TECH BEAT Shizuokaの価値があると思っています。

    多様な人や産業、領域と触れ合うことで共創の事例が生まれる

    井手 静岡県で開催するメリットは、地理的背景による部分も大きいとお考えですか?

    井出氏 そうですね。静岡県は製造業の集積が厚いことに加え、東部、中部、西部とそれぞれの地域に特色ある産業が育まれています。首都圏のスタートアップの方々は、TECH BEAT Shizuokaで様々な産業に触れるとともに、その担い手である県内からの来場者と出会うことができると考えています。

    西村氏 加えて静岡県では産業ごとに共創を促す仕組みが、TECH BEAT Shizuokaが立ち上がる以前より存在していました。例えば農業向けのアグリオープンイノベーション機構(AOI機構)、水産・海洋産業向けのマリンオープンイノベーション機構(MaOI機構)、医療向けのファルマバレーセンター等が挙げられます。農業や水産業のテクノロジーを強みとするスタートアップがいれば、ピンポイントで同分野の県内事業者に来場を促すようなアプローチが、それらで培われてきたネットワークから可能です。「TECH BEAT Shizuokaに来れば望んだ出会いがある」というのは大きな魅力といえるでしょう。

    また、スタートアップの視点からすると、老舗企業やその跡継ぎの方々が多いことも魅力的です。特に静岡県内には、意欲のある跡継ぎの方々が多い印象を持っています。

    井出氏 私もそう感じています。静岡の跡継ぎは、一度県外に出て経験を積んだ後、静岡に帰ってきて自社を継ぐというケースが少なくありません。彼らの中には県外での経験とローカルのビジネスのギャップを感じる方も多くいらっしゃるのですが、地域に根付いたビジネスをアップデートしようと奮闘しています。

    そうしたスタンスって、私はまさにスタートアップそのものだと感じます。個人的にも応援したい気持ちで、「静岡アトツギベンチャー100人組手」(https://techbeat.jp/tech-beat-shizuoka-2025/pickup/007/)というプロジェクトもスタートさせました。

    井手 TECH BEAT Shizuokaが跡継ぎの方々とスタートアップとの出会いの場になったり、行動変容やイノベーションが起こったりした実例はありますか。

    井出氏 毎年7月のイベントでは「TECH BEAT Shizuoka AWARD」という、県内事業者とスタートアップとの共創プロジェクトの中から特に優れた取り組みを表彰する機会があります。そこでは跡継ぎの方々が代表を務める企業が何社も選ばれています。

    一例をあげると、静岡県焼津市の、食品・医薬品関連製造機械をオーダーメイドで企画・設計・製造するメーカーである株式会社イシダテックは、TECH BEAT Shizuokaの出会いを通して県内スタートアップとの協業を実現し、新たなソリューションを開発しました。それだけではなく、富士通・東海大学と協業して、ソノファイ株式会社をスタートアップとして設立し、冷凍ビンチョウマグロの脂のり判定を非破壊で可能にする世界初の超音波解析AI搭載自動検査装置を設計・製造するなど、ローカルの枠を飛び越えるようなチャレンジを続けています。

    県内の製造業が、こうした形で自らスタートアップとして世に出ていくことは、非常に誇らしいことだと感じます。

    西村氏 毎年、TECH BEAT Shizuokaにお招きしている入山章栄教授(早稲田大学大学院経営管理研究科)も、昨年の「TECH BEAT Shizuoka 2024」で跡継ぎの可能性について言及されていました。そして、今年のセッションでは、「日本の未来を拓く『アトツギベンチャー』」というタイトルで、静岡県を含めた東海の後継ぎの方々とどのような形でイノベーションを起こしていけるかというディスカッションにも参加いただきました。「アトツギ」の大きな可能性を、聴講者の皆さんにも感じていただけたのではないかと思います。

    TECH BEAT Shizuokaが、新しい領域に挑戦している「アトツギ」を支援し「挑戦する人がカッコいい!」という機運を醸成する装置となっている。多様な人や領域とが混ざり合うことでいろいろな事例が生まれているのを肌で感じております。

    井手 そう考えると、イベントを継続されていること自体に大きな価値がありますね。静岡銀行さんが長期的なコミットメントをされることで積みあがっているものも多そうです。

    共創の在り方として注目される「静岡モデル」

    井手 静岡県全体の課題感や方向性については、どのように感じていますか。

    井出氏 人口が減り続け、それに伴う弊害があることは事実です。とはいえ、人が足りないから補充しようと単純に考えるのでなく「我々はこうありたい」という意志がもっとあってもいいと感じています。

    課題に向かってチャレンジしていくという意味でスタートアップの方々に学ぶところは多いと感じますし、今後、静岡が静岡らしくあり続けるうえでの方向性がTECH BEAT Shizuokaから出てくるのであれば素晴らしいと思います。

    例えば「ON-SITE X」という、日本全国地場の建設会社とスタートアップとのオープンイノベーションを模索するコミュニティが、TECH BEAT Shizuokaを契機に生まれました。同じような動きが、静岡ではこれからますます増えていく予感がしています。

    西村氏 静岡県は豊かで、県内事業者の皆さんは地域に対する愛を持っており「歴史と自然のある静岡をどうやって守っていけばいいか」を真剣に考えています。私自身は静岡県出身ではありませんが、こういった形で関わらせていただいて、静岡が大好きになりました。

    だからこそというわけではないかもしれませんが、TECH BEAT Shizuokaのプロジェクト開始当初は、県内事業者の皆さんから「外の力はあまり必要としていない」というスタンスを感じ、困りごとも表には見せてくれないという印象を持つこともありました。

    井手 当時は「なぜやるのだろう」と懐疑的な方も多かったと思います。

    西村氏 そう思います。しかし回数を重ねるにつれて雰囲気が変わってきました。自分たちだけでやろうとするのではなく、TECH BEAT Shizuokaに来場してヒントを見つけたり、意欲的にビジネスマッチングをしたりと、活用されるケースが増えてきています。

    2024年5月の静岡県知事選で鈴木康友氏が当選し、「スタートアップ先進県」を目指す取り組みがスタートしました。静岡県と静岡銀行が主体となってこれまで続けてきたTECH BEAT Shizuokaも、スタートアップ先進県の取り組みの中で、共創の受け皿や原動力として機能していると感じます。

    また、いくつもの事例ができてきたことで「静岡モデル(TECH BEATモデル)こそ、これからの私たちの共創のあり方だ」という、光栄なお声もいただいています。2025年7月に開催した「TECH BEAT Shizuoka 2025」が延べ来場者数1万人を突破したことからも、今の時代に必要なことを発信できているという確かな手ごたえを感じています。

    人手不足への対応、新しい産業を生み出すこと、スタートアップとの共創といった「点」が「線」となり、静岡全体のムーブメントになりつつあるのではないでしょうか。

    井手 地域が変わっていくと、県の枠を超えた動きも生まれそうですね。

    西村氏 最近は都内の企業やスタートアップと仕事をしていて「TECH BEAT Shizuokaに行きたいです」「関わる方法はありますか」「面白い取り組みがあれば教えてください」と言われることが増えています。これは県の枠を超えた動きがあちこちで生まれ始めている兆しと言えるかもしれません。

    愛知県で開催された地球の未来を拓くテクノロジーの祭典「TechGALA Japan」にTECH BEAT Shizuokaとして参加させていただいたり、他県の地銀関係者が静岡銀行の取り組みの視察としてTECH BEAT Shizuokaに来てくださったりと、地域の枠を超えてエッセンスが循環しはじめていると感じますね。

    後編へ

  • イノベーション推進部 企画室

    課長

    井手 一久

    Kazuhisa Ide

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