Innovative Voice

更新日:2025.11.20
公開日:2025.11.20
新たな成長機会に挑み、社内に新しい風を吹かせる
――立ち上げ当事者が語る、イノベーション推進の必要性
スタートアップへの投資と連携を通じて、発電事業にとどまらず、地域社会の課題解決を目指すJ-POWER(電源開発株式会社)イノベーション推進部。投資機能だけではなく、新たなビジネスアイデアの発掘から社会実装までを実行しています。
多様なパートナーとの共創から生まれるオープンイノベーションや新しい価値とはどのようなものなのか。イノベーション推進部の井手 一久が、ともに同部の前身であるイノベーションタスクを2018年に立ち上げ、現在は広報・地域共生部 広報室長代理を務める遠藤 二郎に、J-POWERにおけるイノベーション推進の必要性を聞きました。
J-POWERが認知度向上のための施策に力を入れる理由
井手 はじめに、遠藤さんのこれまでのキャリアをお聞かせください。
遠藤 2010年にJ-POWERに中途採用で入社し、3~4年間は環境エネルギー事業部で水道事業、バイオマスの燃料化などのプロジェクトに携わり、その後火力発電所の現場勤務となりました。
その3年後に本社の経営企画部に配属され、中期経営計画における新しい事業の種を探索するため、2018年にイノベーションタスクを立ち上げました。それから5年ほど、社会課題の解決を目指すスタートアップやベンチャー企業との関係を深め、電力事業にとどまらない新たな領域の事業の創出に向けた活動に携わりました。
現在は広報・地域共生部でJ-POWERの認知度向上やインナーコミュニケーション強化のための施策などに取り組んでいます。

井手 広報・地域共生部の役割と、現在力を入れていることを教えてください。
遠藤 従来のJ-POWERはBtoB、かつ限られた販売先のビジネスモデルであり、広く社会全体への認知度向上に対するニーズはほとんどありませんでしたが、電力の自由化によって販売先や販売手法が多様化しました。さらに、デジタル化の加速やサステナビリティへの配慮が不可欠となっているほか、人財不足、個人株主数の増加などの株主構成の変化、市民が情報を取得するメディア媒体の多様化など、J-POWERを取り巻く事業環境は大きく変化しています。こうした背景を踏まえ、J-POWERとしてもより広範に認知度を向上させる必要が出てきました。
認知度向上のための施策として、テレビCMなどの広告出稿のほか、スポーツ協賛などを通じて、これまでJ-POWERと接点がなかった層に対するアプローチを行っています。テレビCMを出せば全世代から認知を得られる時代ではないので、SNSやYouTubeなど、それぞれの世代に合わせたメディア媒体を組み合わせ、効果を最大化させることを意識しています。
キーワードは「分散化」――持続可能なビジネスへの道筋
井手 イノベーション推進部の前進となるイノベーションタスクを立ち上げた当時、J-POWERの課題はどのようなものだったのでしょうか。
遠藤 国内のみならず、全世界で環境問題に対する意識が急速に高まり、発電事業への視線が厳しくなってきていました。我々の事業を社会情勢の変化に応じながら継続させるためには、カーボンニュートラルの取り組みが喫緊の課題でした。
とはいえ、既存事業を改善するだけでは持続可能なビジネスモデルになりませんし、大規模な事業だからといって何十年も安定的な収入を得られる時代でもありません。今までのやり方に固執せず、新しいことを考えながら事業ポートフォリオを入れ替えていかなくてはならないと判断して、イノベーションタスクの立ち上げに至りました。

井手 立ち上げ当時のディスカッションの中で、どのような話題が印象に残っていますか。
遠藤 印象的だったのは「分散化」というキーワードです。分散型電源である太陽光や風力といった再生可能エネルギーの普及が進む中、大規模集中電源という従来のビジネスモデルが崩壊していくとは言えなかったものの、送配電網を含めた社会インフラが老朽化して維持が難しくなると考えると、そこへの投資優先度や占める割合は現在よりも下がると確信していました。
住民が少ない地域において大規模集中電源は投資に見合うリターンが期待できないため、分散型のインフラに置き換えていくことになるでしょう。であれば、分散化に関わる技術やビジネスは必ず求められるようになり、その投資対効果も増えていくはずだと初期から感じていました。
井手 スタートアップに注目したきっかけを教えてください。

遠藤 前提として、ニーズがなければ商売は成り立ちません。スタートアップは、社会課題を解決すること、人々が豊かに心地よく暮らせることを目指しているので、ニーズを起点にした事業を考えています。持続可能なビジネスを目指し、新しい技術やアイデアを取り込み、短期間で立ち上がるスタートアップの姿は、我々にとっては希望の光にも見えました。
スタートアップは限られたリソースと時間の中で成果を出していかなくてはならないため、仮説に基づいたニーズを想定して市場にアプローチしていきます。我々のように長い時間と多額の予算を投じるのではなく、まずやってみる、検証してダメなら直していくというスタンスです。そのようなアジャイル的なアプローチは、先が見えにくい不確かな世界においては非常に効果的だと感じました。
スタートアップと関係を築く上で心がけていること
井手 準備期間からわずか半年でスタートアップへの出資を決断したわけですが、スピード感のある決断の裏にはどのような思いがあったのでしょうか。
遠藤 他の大企業からアプローチを受けたことがあるスタートアップからいろいろと経験談を聞いてみると、「話を聞いてくれるのはありがたいが何をするにも非常に時間がかかって、協業や出資という具体的な話にたどり着かない」という本音を明かしてくれました。
流れる時間の速度が異なることが原因で大企業とのやりとりに辟易としているスタートアップが多いのであれば、迅速な投資判断をすることが我々の存在感を高めるためには重要だと考えました。
井手 遠藤さんがスタートアップの方々と話すときに心がけていたことがあれば教えてください。

遠藤 相手に対して敬意を払うことが第一です。大企業とスタートアップという立場の違いはあっても、対等に語り合うことを強く意識していました。また、面識がない状態でいきなり話をしても深い関係性を築くのは難しいので、スタートアップとつながりの深いコミュニティなどを通じて積極的に仲間を作り、そこで知り合った人たちからスタートアップを紹介してもらうといったアプローチを取り入れました。紹介が起点であれば、そのスタートアップの情報やCEOの人柄が事前にわかり、スムーズに話を始められます。
実際に対話する場面では、相手のことをもっと知りたいという気持ちから、彼らが取り組んでいる事業だけでなく、事業環境や関係がありそうな技術についても予備知識を入れた状態でコミュニケーションを取るようにしています。また、自身の再エネ事業や火力現場の経験だけではなく、水力や送変電事業そしてコーポレート部門などの当社のあらゆる事業課題や業務ニーズ、関連する制度や法令なども語れるように常に勉強していました。そうすればストレスなく会話の幅を広げていけますし、相手との関係も深められます。
対面で話す機会を積み重ねていくと、点と点がつながって線になるように、未知の分野に対しても何らかの接点を見つけられるので、それを突破口に話を広げていけるんです。これを繰り返すことが、単なる名刺交換では得られない、社外コミュニティでの仲間づくりにもつながります。
井手 たしかに、我々に会話を広げていけるだけの知識やケイパビリティがないと、相手にも何もメリットを残せませんよね。
遠藤 そうですね。スタートアップの方々は、発電事業以外も含めたJ-POWERの幅広い事業ポートフォリオの背景にある、ニーズや社会課題への関心が強いです。J-POWERの事業の強みや課題について網羅的に語れることは、スタートアップとのコミュニケーションを深める上で重要だと思います。
また、不確かなことでも仮説を立てて議論を前に進めていくことも、イノベーションをもたらすコミュニケーションにおいては大切です。J-POWERのメンバーは誠実だからこそファクトに基づく話をする傾向がありますが、その先にあるまだ見えない可能性について言及することも、ときには意識したいところですね。
腹を割ってたくさん話すことで、お互いに信頼が生まれる

井手 これまで十数社のスタートアップに出資してきましたが、そのなかで特に印象に残っているスタートアップを教えてください。
遠藤 2019年に出資(その後2023年に追加出資)したGITAI Japan(https://innovation-catalog.jpower.co.jp/articles/gitai)です。GITAIは宇宙において安全で安価な労働力を提供し、そこでの作業コストを100分の1に削減することを目指す、世界有数の宇宙ロボットスタートアップです。
CEOの中ノ瀬氏は非常に個性的な方で、ずば抜けた技術力があることに加え、事業を拡大させるためにフォーカスすべき領域を明確にし、そこにリソースを集中投下していく戦略が印象に残っています。いち早く海外に目を向け、海外で収益化をスタートさせたことは、我々事業会社だけでなく、ベンチャーキャピタルの目にも魅力的に映ったに違いありません。ちなみに、中ノ瀬CEOは当社の磯子火力発電所を視察した際に、定期点検期間短縮のロボット開発の提案をいただいてはいますが、今は宇宙産業ロボットが盛んな海外(米国)での収益化に注力しています。
また、新日本繊維(https://innovation-catalog.jpower.co.jp/articles/nfc)も印象的です。新日本繊維は資源とエネルギーをより身近にすることをビジョンに掲げた、ディープテックスタートアップです。火力発電所で生じる石炭灰を原料とした長繊維を生産する技術を持っています。
代表取締役の深澤氏の技術的な知見の深さは卓抜しており、自分の知識で世の中に貢献することを真剣に考えて技術開発をしている方なので、安心して一緒に仕事をやっていけると感じました。私たちは腹を割って語り合い、互いの事業成功を見据えて緊密に連携しており、強い信頼関係を築けていると思います。
井手 両者が「本音で語る価値がある」と認め合えることが大切なんですね。

遠藤 そうですね。ダメなものをダメと言えなかったり、苦言を呈することができない関係のまま進むのは、ビジネスをつくるパートナーとしてリスクがあります。一朝一夕に信頼関係を構築することはできませんが、たくさん話をして、仲良くなっていくことが必要だと感じています。スタートアップの経営陣からは昼夜問わず、相談や雑談の連絡が来ます。そこに真摯に耳を傾けています。お互い平日昼間は業務でてんてこ舞いで、少し落ち着いた時間の雑談から気づきが得られたり、経営陣の素顔に触れられることができ、それが事業推進の判断材料にもなります。
オウンドメディアが新たな領域や人々と繋がる入り口に
井手 広報・地域共生部として、イノベーション推進部をどのように位置付けていますか。
遠藤 市場変化や価値観の刷新が激しい昨今、企業がずっと同じ事業を続けていくのは難しくなってきています。変化に対応できなかったり、新しいことに挑戦できない企業の行く末は、決して明るいものではありません。
J-POWERは一定の安定した事業基盤を有していますが、そのような変化の激しい環境下で不安を抱える社員が増えてしまうことも事実です。また冒頭に、当部のミッションのひとつとしてJ-POWERの認知度向上といいましたが、せっかく当社の存在を知りアクセスしていただいても、当社に魅力ある事業やコンテンツがなければ関心なく去っていくだけですよね。J-POWERとビジネスを一緒にやりたい、J-POWERで働きたい、J-POWERの株を購入したいといった、J-POWERを好意的に感じていただける、いわゆるファンが得られません。その中で、新たな成長機会に挑み、明るいニュースをもたらしているイノベーション推進部は、大きな役割を担っていると感じます。
井手 オウンドメディア「J-POWER Innovation Catalog」に対しては、どのようなことを期待していますか。
遠藤 オウンドメディアでイノベーション推進部の活動をしっかり打ち出していくことが、これまで関わりが少なかった領域や人々と繋がるための入り口になるでしょう。私は広報の立場からその情報発信を支援することになりますが、メンバーの顔が見える形でビジョンや取り組みを発信していくことで、誠実で親しみやすい存在感を出していけたらよいなと思います。


電源開発株式会社
広報・地域共生部
広報室長代理
遠藤 二郎
Jiro Endo

イノベーション推進部 企画室
課長
井手 一久
Kazuhisa Ide

電源開発株式会社
広報・地域共生部
広報室長代理
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この度、私たちの取り組みやビジョンを社内外の皆様と広く共有し、具体的なアクションへと繋げるためのハブとして、オウンドメディア「J-POWER Innovation Catalog」を立ち上げました。本メディアは、私たちの活動を網羅的にお届けする目録(カタログ)であり、未来への羅針盤となることを目指します。
イノベーションの最前線に立つ方々との対話、イノベーション推進部が投資し、共に社会課題の解決と新産業創出を目指すポートフォリオ各社、社内外のCVCネットワーク、そしてJ-POWERの保有するリソースやアセットといった点と点が、Innovation Catalogを通して有機的に繋がり、未来を紡ぐ。Innovation Catalogは連携を通して持続的な世界を築く、未来を照らすカタログです。






