Innovative Voice

更新日:2026.1.9
公開日:2026.1.13
スタートアップと築くサステナブルな関係と、長期視点で育む新規事業
スタートアップをゼロから共創し、未来を創造することを目指すスタートアップスタジオ、Spirete。同社は企業や大学が持つ事業アイデアや技術シーズと、それを実現するのに適した人材や異業種の知見・ノウハウを組み合わせることで、グローバルに展開できるスタートアップを創出するためのプラットフォームを形成しています。
J-POWER(電源開発株式会社)はSpireteと連携し、微細藻類から作られる「ソラルナオイル」を活用した高付加価値製品開発や、起業家や研究者に対する事業化支援プログラム「Sustainability Transformation Startup Lab (以下、SX Lab)」の共同主催などに取り組んできました。いずれの取り組みにおいても、J-POWERが持つアセットと、新たな事業アイデアや技術シーズを柔軟に組み合わせることで、イノベーティブな事業を生み出すことを目指しています。
スタートアップスタジオを介することで、大企業とスタートアップはどのように結びつくのか。そこからどのような未来が描けるのか。イノベーション推進部の井手 一久が聞き手となり、Spirete代表取締役の渡邊 康治氏が思い描く未来の事業創出の在り方について紐解きます。
大企業とスタートアップをつなぎ、技術や資金を適切に結ぶ
井手 Spirete(スピリート)の事業内容についてお聞かせください。
渡邊氏 Spireteはスタートアップ創出をゼロから共に目指すスタートアップスタジオです。大企業、大学研究機関、フリーランスなどの多種多様な技術と知見、経験を組み合わせることで、技術シーズを起点とするディープテックスタートアップを育み、世界に送り出すことを目標としています。
ちなみにスタートアップスタジオとは、革新的な技術や事業を成長させる人材、そしてスタートアップを後押しする多くの提携企業をつなぐプラットフォームです。日本ではまだなじみのない形態かもしれませんが、海外では広く知られている存在です。
取り組んでいるプログラムは、主に2種類です。1つ目の「スタートアップクリエーションプログラム」は、大企業が途中まで手掛けた新規事業などを企業外に出し、外部人材と連携しながら、スタートアップとして事業プランを立てていくプログラムです。そして2つ目の「スタートアップラボプログラム」は、外部から技術やアイデアを取り入れたいという大企業に対し、特定の領域の事業探索を支援し、外部の視点を加えてスタートアップ化していくプログラムです。
井手 Spireteの強みは何ですか?
渡邊氏 1つ目はオペレーションに深く入る支援スタイルです。スタートアップの支援と言うと投資家の紹介や月1回のメンタリングといったものが想像しやすいかもしれません。しかし、こうした部分的なアプローチだけでは、事業化を実現するのはなかなか難しいものです。そこで私たちSpireteは、事業プラン作成や組織づくり、MVP開発など実際に手を動かす諸業務にも加わり、立ち上げから資金調達までの道のりを一気通貫で支援します。
2つ目は支援に携わる人材が集まるコミュニティの運営です。このコミュニティには、スタートアップに関わりたい意欲と、各専門分野の豊かな知見や経験を持つ人材が、約200名登録しています。彼らはプロジェクトごとに支援に携わり、固定の人材だけで解決するのが難しい課題を柔軟にフォローしています。
ディープテックスタートアップの資金不足を解消するために
井手 VCではなく、スタートアップスタジオという形を選択したのはなぜですか?
渡邊氏 大きな理由は「VCは時間が限られている」という点です。VCはキャピタルゲインを主な目的とする以上、一定期間で投資リターンを見込まなければなりません。事業化まで時間がかかるディープテックスタートアップは、VCのモデルにはうまくはまらないことが多いのです。
もしも私たちがファンドを持ってVCとしても活動すれば、管理報酬を得ることができますし、資金提供もスムーズにおこなえるかもしれません。しかし、通常で10年という期間のある資金を預かることで、創業期の技術開発を伴うスタートアップへの出資は難しくなってしまいます。大企業から期間のないお金を投資してもらう形のほうが、イノベーティブだけど立上げに時間のかかる事業を生み出すことに挑戦するには適しています。人材や技術、企業をつなぐスタートアップスタジオでのプログラムを活用してもらうことで、時間がかかる技術やアイデアに取り組む場合でも、創業期の第一歩の資金提供から始まり、その事業化までの道のりに併走できると考えました。
井手 大企業の事業創出やCVCに対しても、Spireteは重要な役割を果たすように感じました。
渡邊氏 たしかに、私たちが相対する大企業の皆さまはCVCを設立していたり、オープンイノベーションに取り組んでいたりします。しかし、事業領域の専門性が高いため、求める技術やスタートアップ像もニッチになりがちであることが、活動を困難にしている印象があります。ニーズにぴったりはまるスタートアップを探すのは一苦労ですし、仮にいたとしても、そのスタートアップは資金調達できていないケースがほとんどです。先が見通せないスタートアップとの連携はリスクが大きいため、大企業としては決断がなかなか難しいでしょう。
そういった課題を踏まえ、私たちは面白い技術やアイデアを持つアーリーステージのスタートアップを集め、その活動支援という形で、資金提供をしてくださる大企業の方々も交えながら事業分野の選定や事業化支援に入っていきます。
大企業側はただ出資するだけでなく、資金提供を行いつつ長期的に共同開発を進めたり、スタートアップ側から得られた面白い技術を社内に取り込んでいったりと、さまざまな打ち手をより考えやすくなると思います。
J-POWER×Spirete――最適な人材活用を土壌に育む事業の芽
井手 J-POWERとSpireteが共同で運営した「Sustainability Transformation Startup Lab (以下、SX lab)」は、まさにその一例ですね。SX labではサステナブルな社会の実現を目指す起業家や研究者への資金提供を目指し、Spireteは事業化支援を、J-POWERはエントリーしたチームの審査を行い、最終審査を通過した3チームに対して5000万円の出資を行いました。
渡邊氏 J-POWERの方々にとっては、立ち上がる前のスタートアップの「カオス」を目の当たりにする機会になったのではないでしょうか。まだまだ実現性が低い状態のアイデアを紐解いていき、商品化や顧客開拓などについて対話しながら、具体化を進める。J-POWERチームには、こうしたスタートアップ立ち上げ前の重要なプロセスにも積極的に参加してもらいました。一般的な大企業であればやらないようなこともしてもらいましたから、面倒な部分もたくさんあったと想像しています。
井手 そこには本を読むだけでは学べない多くの経験があり、携わったJ-POWER社内のメンバーにとっても貴重な成長機会になったと感じています。Spireteの取り組みの背景には、大企業側の人材育成といった狙いもあると想像していますが、その点についてはいかがですか。
渡邊氏 私は北米ハイテクベンチャーに対する投資活動を長年行っており、スタンフォード大の大学発ベンチャー立ち上げを支援した経験もあります。その経験を踏まえて「日本と海外の差を生み出している違いは何だろう」と改めて考えたとき、資金規模が桁違いというのもありますが、最大の違いは「人」だと感じました。
たとえ優秀な学生が面白い事業アイデアや技術を思いついたとしても、それを事業化しようと共に歩めるアントレプレナー的な存在が、日本には極めて少ないのです。それは日本においていわゆる「サラリーマン」として企業に勤めることが一般的であり、自由な発想から事業を生み出す機会が希少だからだと思います。
特に、エネルギーや通信など古くから社会を支えてきた事業領域では、経験を重ねた高い専門性を持つ人材が、その専門性と新しい発想を結びつける場が少ないのが現状と言えるでしょう。エンターテインメントやSaaSなど、新しい技術を扱う事業領域であれば、自由な発想を活かしたビジネスで成功するケースも年々増えつつありますが。
Spireteを通じ、そういった大企業の優れた人材とアイデアをマッチングさせれば、イノベーティブな事業の創出につながるでしょう。その過程では人材育成の効果も大いに期待できますが、それよりも事業創出を主軸にしたほうが、大企業の皆さまも積極的に取り組みやすいと考えています。
井手 J-POWERとSpireteの取り組みのひとつである微細藻類のプロジェクトも、事業創出を起点に始まりました。もともとはバイオ燃料を製造するために微細藻類から作られる「ソラルナオイル」の研究をしていたのですが、低廉な価格が求められる燃料を市場に出すには時間がかかることがわかり、高付加価値を生み出す別の商品に活かせないか、Spireteに相談したんですよね。
渡邊氏 ご相談を受けて、Spireteのコミュニティ内から塩原さんという方を紹介しました。化粧品メーカーで製品企画や事業責任者を経験し、化粧品業界特有の大量廃棄に強い問題意識を抱えていた彼女は、J-POWERの内部では見つけることができない経験とビジョン双方がある人材だと考えたからです。「ソラルナオイル」は石油に代わる原料として化粧品にも使えるだけでなく、プラスチックの原料にもなるため容器にも使え、化粧品から生まれる環境負荷を軽減するのに大きく貢献します。両者のニーズが合致することを踏まえ、私たちはSpireteの起業プログラムに基づいて塩原さんの創業支援を行っています。現在はスタートアップ化が実現する事業規模を目指して、研究開発を進めている段階ですね。
電力業界の変革を追い風に、新しい事業を共に生み出す
井手 Spireteは資金や技術の不足によって事業化に悩んでいるスタートアップに対して、それらを供給する役割も果たしていますよね。
渡邊氏 何かしらの課題を解決するためにスタートアップを立ち上げるならば、それを実現する人材を集める必要があり、人材を雇う資金が要ります。本来であれば、資金調達を経てようやく人材を確保することができます。
しかし、今回のソラルナプロジェクトのように、大企業がすでに研究開発に取り組んでいたものをスピンアウトする形であれば、塩原さんのようなビジョンや想いのある人材をマッチングさせることで、スタートアップ立ち上げの実現性を高めることができます。
また、SX LabでJ-POWERが出資対象として選んだ3社は、いずれもビジョンや想いのある創業者がいます。一方で、事業化にあたって必要な彼らの知識や経験は決して十分ではありません。このようなケースにおいても、適切な形で支援に入る企業の存在があれば、魅力的な技術シーズを持つスタートアップの事業化の可能性は高まります。
井手 最後に、J-POWERとの取り組みを振り返りつつ、今後の展望をお聞かせください。
渡邊氏 J-POWERイノベーションタスク立ち上げ初期はスタートアップに関わるネットワークづくりや経験値を重ねることに注力している印象でしたが、ここ数年はイノベーションに結びつく取り組みを一層本格化させつつあるように感じています。既存事業を起点とする設備や知見を活かした新しいビジネスの可能性も十分に広がっている中で、どういった基準で出資や事業化に取り組んでいくのかが今後の課題ですね。
それと同時に、電力事業を取り巻く環境も数年で大きく変化しています。業界全体がサステナブルな事業構造を目指す変革期にある今、J-POWERが目指すビジョンやスタートアップとの取り組みは、正しい方向を照らしていると思います。すぐに結果が見えない取り組みが多いのも事実ですが、1〜2年ではなく5〜10年のスパンで、可能性を秘めた事業アイデアや技術シーズを共に探索しつつ、ディープテックスタートアップの事業化に取り組んでいきたいです。

Spirete株式会社
代表取締役&Co-founder
渡邊 康治
Yasuharu Watanabe

イノベーション推進部 企画室
課長
井手 一久
Kazuhisa Ide

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About Innovation Catalog
J-POWER Innovation Catalog〜未来を共創する羅針盤
J-POWERイノベーション推進部は、「新たな未来を共に創造する」というミッションのもと、カーボンニュートラル達成と地域社会への貢献という大きな目標に挑戦しています。
この度、私たちの取り組みやビジョンを社内外の皆様と広く共有し、具体的なアクションへと繋げるためのハブとして、オウンドメディア「J-POWER Innovation Catalog」を立ち上げました。本メディアは、私たちの活動を網羅的にお届けする目録(カタログ)であり、未来への羅針盤となることを目指します。
イノベーションの最前線に立つ方々との対話、イノベーション推進部が投資し、共に社会課題の解決と新産業創出を目指すポートフォリオ各社、社内外のCVCネットワーク、そしてJ-POWERの保有するリソースやアセットといった点と点が、Innovation Catalogを通して有機的に繋がり、未来を紡ぐ。Innovation Catalogは連携を通して持続的な世界を築く、未来を照らすカタログです。