Innovative Voice

更新日:2026.6.17
公開日:2026.6.11
70年の誇りを次の世代へ繋ぐ──NEXUS佐久間プロジェクト【前編】
――日本一の水力発電所を、10年かけて生まれ変わらせる
1956年(昭和31年)の運転開始から70年。平均年間発生電力量13.7億kWh、国内の一般水力発電所(揚水除く)1箇所あたりで最も多くの電気を生み出してきた佐久間発電所が、いま大規模リニューアルに踏み出しています。「NEXUS佐久間プロジェクト」と名付けられたJ-POWER(電源開発株式会社)史上最大級の10年計画は、単なる設備更新ではありません。先人が築き上げた遺産を次代へ繋ぐと同時に、地域社会との共生、そして人材の育成までを射程に入れた挑戦です。本プロジェクトを発案し現場で陣頭指揮を執る、NEXUS佐久間建設所 所長代理の笹川 剛に、佐久間発電所の唯一無二性、プロジェクト発案の経緯、そして「3年でつくられたものを10年かけてつくり直す」という前例なき工事の中身を伺います。聞き手はJ-POWER 井手 一久です。
水力一筋の26年──「片鱗」から「輪郭」、そして「中身」へ
井手 笹川さんのこれまでの経歴から聞かせてください。
笹川 私は2000年入社で、ちょうど26年目です。最初の現場が北海道の上士幌町にある上士幌電力所でした。J-POWERに入社するまで「上士幌」という地名すら知りませんでしたし、北海道に住んだこともなかったのですが、大自然のなかで非常に快適に、3年半ほど過ごしました。
初めての水力の現場ですから、もう右も左もわからない状態。3年いて、当時の自分としては水力を分かったつもりになっていましたが、今思えば片鱗、輪郭くらいが見えてきたかなというレベルでした。中身はまだ全然わかっていない。3年いてなんでもできると勘違いしていましたが、今思い返せば「あのレベルでよくもまあ偉そうに話していたもんだ」と、お恥ずかしい限りです。

その後函館に移りまして、北海道管内にある水力発電所の運転・制御・監視を遠方から行う制御所に2年半ほどおりました。東京に戻って、水力発電所のプロジェクトを設計するチームに配属になって、そこでようやく「何もわかっていなかった」と気づくわけです。新入社員のときって、わかっているつもりで偉そうなことを言うんですけれども、本店に戻って一言、二言聞かれるたびに「あ、何もわかってないんだな」と思い知らされた。
本店で2年間、細かいことも含めていろいろなことに触れて、その後、田子倉発電所(福島県、阿賀野川水系、最大出力40万kW)のリパワリング工事の現場に行きました。古くなった水車発電機を最新技術で生まれ変わらせるプロジェクトで、電気の一担当として一番末席ではありましたが、初めて大きなプロジェクトの当事者として現場で工事や試験に携わったのが田子倉です。わからないことも多いですが熟練の先輩がどんどんと仕事を進めていくなかで、少しでも多くを吸収するため必死で追いかける、そんな日々を過ごしていました。もっとも実りの多い2年間だったかなと思います。
その後、本店の設計チームに戻って、ようやく「プレーヤーになれたかな」と。言われたことがわかる、自分で考えて動き出せるようになったのが、入社から8年〜9年経った頃でしょうか。10年経って、ようやく一人前への半歩か一歩を踏み込めたくらいの感覚です。電気や水車の世界は奥が深いので、いつまでたっても全容はつかめず、未だに新しい学びや気づきがある毎日です。
井手 現場で培われたわけですね。
笹川 設計チームに6年ほどいて、その後にもう一度現場に出ました。今度は秋葉第一発電所──佐久間の下流、天竜川下流にある発電所のリパワリング工事です。そのときは現場の電気部門のトップ、所長代理の立場。プロジェクトの責任者として行きました。当社で初めて「ハイブリッドサーボモーター」という新しい仕組みを採用する計画です。更新工事を進める傍らで、当社初採用にも関わらず、更にこれを応用する新技術の開発にも取り組みました。おかげ様で新規性が認められて特許を2件取得し、新エネルギー財団の「新エネ大賞」もいただきました。

その後本店に戻って2年、それから再生可能エネルギー事業戦略部に異動して水力の垣根を越えて地熱や風力に携わることができたのも有意義な経験でした。その後にまた本店の水力に戻っていま佐久間の現場にいる、という流れですね。「NEXUS佐久間プロジェクト」は、本店にいたときに自分で提案して社内の承認を得たものなので、自分で最初から計画した工事を、自分が現場で携わっているという幸せなケースです。
日本一電気を生み出す、唯一無二の発電所
井手 今日はそのNEXUS佐久間プロジェクトについて深掘りして伺いたいと思います。まず、佐久間発電所は静岡県浜松市にある発電所ですが、ここの特徴を教えてください。
笹川 有名なのはまず「佐久間ダム」ですね。ダムに興味がある方には結構知られたダムで、日本で8番目の貯水量(総貯水容量約3億2,685万㎥)を誇ります。1メートル四方の立方体が3億個ほど入る大きさ、と言ってもピンと来ないかもしれませんが、だいたい浜名湖と同じくらいの水量が貯められるダム、と言うとイメージしてもらえるかもしれません。
佐久間発電所の最大出力は35万kW。揚水を除いた一般水力では国内3番目の出力です。1位が奥只見(福島県南会津郡、阿賀野川水系)の56万kW、2位が田子倉の40万kW、3位が佐久間の35万kW。実はこの一般水力トップ3をJ-POWERが占めているんですよ。当社の大規模水力を代表する発電所です。
ただ、佐久間の最大の特徴は、大きさもさることながら、天竜川という非常に水量が豊富な川にあって、その水を最大限に使っている発電所だということです。出力は3位の佐久間ですが、この発電所が1年間に発生する電気の量は、おそらく日本一。公表している数字で言うと年間約14億kWhです。水力で有名なのは富山県にある関西電力さんの黒部第四発電所、通称「黒四」です。公表されている資料で見る限り年間9億kWhくらいですので、その1.5倍くらいの電気を佐久間は生み出している。実は佐久間はあの有名な黒四をも超える、日本で一番「水を電気に変えている発電所」というのが大きな特徴です。
井手 年間約14億kWhというと、一般家庭の年間消費電力量が約4,000kWhですから、それで割ると約35万世帯分。例えれば浜松市の全世帯(約36万世帯)の電気をほぼすべて、佐久間発電所1箇所で1年間まかなえる規模感ですね。なぜそんなに発電量が大きいのかというと、他のところと比べて水を蓄えている量が多い、ということですか。

笹川 ダム自体が非常に大きいこと、水量が非常に豊富なこと、そして地形の特徴から落差を取りやすい(出力を大きくしやすい)発電所が作れる地の利があったこと。この3つが大きなポイントでしょうか。
貯水量に対して入ってくる水がどれくらいあるか、「ダムの回転率」という言い方をするのですが、佐久間は1年でだいたい30回転近く回るんです。空っぽにして満タンになる、満タンにしてからまた空にする、これを3億㎥もある佐久間ダムで1年に30回くらい繰り返している。それくらい水量が豊富なんですね。それゆえ流量が多いときは発電だけでは使いきれず、他のダムと比べて放流の頻度も多くなる傾向にあります。
井手 大きさと発電量に加えて、他に特徴はありますか。
笹川 日本の電力系統には50Hzと60Hzという2つの周波数があって、東日本と西日本で分かれているんですね。佐久間は地理的に静岡県の天竜川にあって、ちょうど50Hzと60Hzの境目に位置している。右を向けば50Hz、左に行けば60Hz、ひとつの水力発電所にふたつの周波数の送電線があるという、珍しい場所なんです。
一般的に電力会社は「地域の電力会社」と言われるくらいですから、その地域で必要な電気を送る仕事をされています。たとえば東京電力さんなら、50Hzのお客さまに50Hzの電気を届ける。関西電力さんや中部電力さんは、60Hzのお客さまに60Hzを届ける。私たちJ-POWERは電力会社さんがお客様ですから、東京電力さんに送るときは50Hz、中部電力さんにお売りするときは60Hzと、それぞれの系統で使われている周波数の電気を送り届ける必要があります。
東京電力さん管内にある発電所は、どこを見ても50Hzの顧客向けなので、50Hzの電気を作ればいい。ところが佐久間はちょうどその狭間にあります。右から50Hzの送電線、左から60Hzの送電線が、佐久間に両方来ているんです。すべての発電所を調べたわけではありませんが、水力発電所に50Hzと60Hzの送電線が両方来ているのは、佐久間しかないんじゃないでしょうか。
そして佐久間発電所の発電機の最大の特徴は、実は50Hzでも60Hzでも回せる「両用機」だということなんです。イメージとしては、50Hzで運転したいときは発電機を50回転で回し東京に送れるし、「いやいや、60Hz側で電気が足りないんだ」となれば、60回転で回して西側に送れる。右と左、今困っているほうに全力で傾けられる、という珍しい機械を持っている。50Hzと60Hzの両用機を持っているのは、佐久間と、同じく天竜川水系にある秋葉くらいで、おそらく日本でJ-POWERしか持っていないんじゃないかと思います。周波数変換所を除けば、それぞれの電力会社さんは、よその系統に電気を送るニーズが基本的にはありませんので。
井手 たとえば東日本大震災のような災害時に、西から東に電力を融通する仕組みとも関わってきますよね。
笹川 そうですね。先ほども言いましたように50Hzで発電するというのは、雑な言い方をすると水車発電機を50回転で回している、ということなんです。60回転で回せば60Hzの電気が生まれる。50回転で回しながら同じ機械を60回転でも回すことは物理的にできないので、発電機もモーターもどちらかの周波数でしか運転できない。ですから、50Hzと60Hzは線路を直接つなぐことができないんです。

東西で電気のやり取りをより増やせるよう、当社でも新しい「周波数変換所」を建設しています。60Hzの電気を一度直流にして、そこから再変換で50Hzにするという仕組みです。当社では30万kWの佐久間周波数変換所を持っていますが、30万kWでは小さすぎるということで、いま増強工事を進めています。
ちなみに、東日本大震災の直後、50Hz系統で電気が不足し輪番停電などがあったことを覚えておられる方もいると思います。この時、60Hz系統には我慢していただきながら、佐久間発電所にある4台の発電機は全て50Hzで全力運転し、1kWでも多くの電気を東に送っていました。
また、震災後に供給力が不足する東の電力系統を支えるため、何かできることはないかと皆が知恵を絞り多くの電力会社が協力し、周波数変換所を使わず、通常ではありえない奇想天外な方法で、60Hzから50Hzへ電気を送るという裏技をやってのけました。マニアックな話なのでなかなか理解し辛いのですが、この裏技を少しご説明させてください。
J-POWERには新豊根発電所という揚水発電所があります。ここには5台の揚水発電機があり、両用機ではないのですが、50Hz専用機が2台、60Hz専用機が3台あります。交流の電気の周波数を変換するには、一度直流にする必要があるため大規模な設備がいります。その建設には10年前後かかりますが、震災直後のまさにその瞬間に電気が欲しいので新設を待つ余裕はなく、既存設備でなんとかするしかない。
そこで考え付いたのが50Hz・60Hzの揚水機を持つ新豊根の活用です。60Hzの電気を直流に変えるのではなく、60Hzの電気を新豊根の60Hz専用機で揚水し位置エネルギーに変える。周波数とは関係のないダムの水≒位置エネルギーにしたことで、再び50Hz専用機で発電でき、結果として60Hzの電気を50Hzの電気に換えることができた。既存設備を何らの改造もすることなく、今ある揚水機を使って位置エネルギーを介すことで周波数変換を実現し、西から東へ電気を送るということをやってのけました。
多くの関係者のご理解とご協力があって初めて実現できる裏技ですね。この話を思い出す度、日本の電力に携わる人たちの底力と、絶対に何とかしてやるという使命感・責任感の強さを感じます。また課題に直面する度に、「本当にそれ以外に解決策はないのか?」、「今の自分はベストを出せているのか?」と身が引き締まる気持ちになります。
「老体に鞭打って働き続けている」発電所
井手 国内でも唯一無二の佐久間発電所を、次の世代に繋いでいくのがNEXUS佐久間プロジェクトだと理解しています。プロジェクトの概要を教えてください。
笹川 先ほどお話しした秋葉第一発電所のリパワリングですが、60数年経った発電所であちこちが老朽化・高経年化していたものを最新技術でリニューアルした仕事でした。古かった機器が最新のものになって、効率も良くなって、きれいになって、設備信頼度も上がった、メンテナンス性も改善した、という工事です。
工事完了のその足で、当時の佐久間電力所長へ報告に上がりました。同時にあらためて佐久間発電所を見てみると、まあ、あちこちが「老体に鞭打って働き続けている」という感じだったんですね。日本で一番電気を生み出している佐久間が、老体に鞭打って無理やり動かしているような状態で、しかもこの先どうやって設備を維持していくかという計画も簡単に検討できるものではない。先人が死力を尽くして作り上げてくれた佐久間発電所は、文句も言わずに日本で一番多く電気を作っている最大の功労者にもかかわらず、この扱いはなんだ、このままでいいはずがない、と。

我々は道楽息子のように、先輩たちが残してくれた遺産を食いつぶして電気を作ってきたけれども、ろくに手をかけてやれていない。このボロボロの状態のままで「日本一の発電所です、あとよろしくね」と次の世代に渡すことはできない。相当な覚悟と決意をもってこの現状にメスを入れなきゃいけないんじゃないか──というのが、その時直感として思ったことです。
そこからいろいろな検討をしていく中で、課題を整理し計画を立案するためのプロジェクトチームを組織すべきだと訴え社内の理解を得て、なんとか動き出すことができた、というのがスタートです。
井手 ちなみに佐久間発電所は、これまでどれくらい運転を続けているのですか。
笹川 今年(2026年)で70年です。1年間8,760時間うち、佐久間の運転時間は8,600時間以上。1日のうち止まっているのは1時間ないくらい、ずっと動き続けているんですね。全4台ある発電機の全てではありませんが。
ちょっと誤解されるかもしれないので言っておくと、ずっと発電しているわけではないんです。系統安定上、電圧を上げたり下げたりする機能もあって、これを「調相運転」というんですけれども、夜中に電圧が上がらないように、電気は生み出さないけれども電圧調整のために運転する、というような役割もある。それで運転時間がめちゃくちゃ長くなっているんです。
系統からすごくニーズがあるので、止められない。本当はある程度のまとまった期間運転を止めて、重点的に悪い部分の点検や交換をしたいんだけれども、止められない・交換できない・代替手段がない、ということで、ズルズルとここまで来てしまったというジレンマがあります。
井手 発電だけにとどまらない価値を生み出してきた発電所だからこそ、止められなかったというわけですね。
3年で作ったものを、10年かけて生まれ変わらせる
井手 NEXUS佐久間プロジェクトでは具体的にどんな工事を、どれくらいの期間で進める想定ですか?
笹川 佐久間発電所が作られたとき、何もない状態から作り上げたわけですが、当時の最新技術を導入してはいましたが、それでもありえない速さで建設されています。たった3年で、ダム・発電所・開閉所などを完成させた。今回のリニューアルは、先に言ってしまうと10年かかります。戦前・戦後いろいろなものが不足するような状態でも、わずか3年で作れたのに、現代の技術で10年もかかるのか?という感じですが、実際10年近くかかります。
何をやるかというと、まず老朽化・高経年化した水車発電機を一度全部バラします。通常のリパワリングなら、そこに最新の水車発電機を据え付けて終わりなのですが、今回は建物自体も見直さなければいけない。水車発電機をバラして発電所の中を空にした状態で、発電所の建屋を半分に割って、建屋を取り壊して、新しい建物を作って、そこにようやく水車発電機をつける。
建物が半分切り欠かれた状態でも残りの建屋で既設の2台を運転しながら、新しいものを作り上げていく。日本の水力発電所でこんなことをやるのは、おそらく初めてではないかと思います。今ある機械を使い続けながら建屋の建て替えと設備を入れ替える工事をするということが、一番大変なことのひとつです。
それから、ダム側に「取水口」という、水を取ってくる塔のような設備があります。佐久間ダムは水量が多い関係で、大雨が降ったときにダム湖が濁った水になってしまう。ダムがあるおかげで大雨が終わってもなかなか綺麗な水に回復せず、雨は降っていないのに下流には濁った水が続いてしまう「濁水長期化」という問題があって、下流の方々に多大な影響を与えている。これは水力発電所が持つネガティブな要素です。
ここに対して「表面取水設備」というものを付けます。湖の濁水は表層から清水に回復するので、湖全体が綺麗になるのを待たず、その前に表層だけ綺麗になったらその綺麗な水を優先的に取水し下流に供給する、という設備です。これも大水深での潜水作業を伴う大きな工事ですが、NEXUS佐久間プロジェクトの特徴です。
井手 今回のプロジェクトに、笹川さんはどう関わっていますか?
笹川 いま私はNEXUS佐久間建設所という組織にいます。電気、土木、建築、事務といったチームがあって、その中で私は電気の所長代理、電気の総まとめのポジションです。
それに加えて、このプロジェクトを検討・提案してきた経緯もあって、私一人でやっているわけではありませんが全体のプロマネ的な役割も担っています。部門間の調整、他社との協議、グループ間の調整、いろいろな作業がひしめき合っているので、工程や作業場、停止のタイミング、設備の取り合いといった、全体を調整し計画をレビューしながら必要なマイルストーンを守りつつ、計画を着実に前に進めるための仕事です。設計・製造・施工のそれぞれで何かしらのトラブルやエラーが発生しますので、その度に全体への影響や工程・作業範囲の干渉、設備停止の予定などを見極めながら解決策を模索しつつ関係者と調整する日々です。

井手 発電機を取り替える工事もあれば、建屋を建て直すところもある。一方で地元の方への説明、川を使う権利の取得などいろいろなことがある中で、全体を上から俯瞰してプロジェクトを動かしているということですね。
笹川 NEXUS佐久間プロジェクトでは、使用水量を増やすことにも取り組みます。発電所で使う水の最大値を、現在の306 m3/sから350 m3/sに広げるんです。これによって35万kWから40万kWへ、出力を5万kW増やせる。5万kWというのは中規模水力発電所の新設に相当する出力で、発電機の更新だけでそれだけ出せるというのは非常に大きな効果になります。またダムから放流するしかなかった水を発電に回すことができるので、国内の再エネ由来の電気をより多く生み出せるという点でも大きな意義のある計画と考えています。
一方、川から引っ張って発電に使う水を増やすので、下流で水を使っている方への影響があります。その辺を丁寧にご説明する、工事の影響を説明する、いろいろな許認可手続きを進めるといったことを、チームと一緒に、総合的にやっています。
パッチワークの改修では立ち行かない
井手 社内でこのプロジェクトを提案していくときに、どんな機会やチャンスがあったのですか。
笹川 課題認識は、秋葉のリパワリングをやっていたときに、新しくなった秋葉と、70年前のままの佐久間とのギャップから生まれていました。「どうしようか」と思っていたところに、たまたま社内で「創発塾」という研修があって、各受講生が自分の考える経営課題を1つ設定し、それに対する解決策をセットで提案する、という内容だったんです。
そこで、佐久間の課題をより見える形にして、「これだけ頑張っているけれども、こんなボロボロですよ」「なんとかしないと持続可能ではないですよ」ということを、データや資料を織り交ぜて提案しました。すると「やってみなさい」と採用してもらえて、今に至るという形です。
井手 この提案制度を経て、社長を含めた役員からも「これはやらないといけないね」と認知されて進んできた、ということですよね。
笹川 そうですね。当時20名くらいの社員がいろいろな経営課題を設定・検討した結果を発表し、最後に社長を含めて投票でトップに選んでもらった、ということです。なんでも好きなように言っていいというからみんなが手を挙げたんですが、いざ手を下ろそうとするとトップに選んでもらった私は最後まで手を下ろせず、ダチョウ倶楽部さんみたいに「どうぞどうぞ、あとはお願いします」と言われてしまって。笑い飛ばすわけにも、逃げるわけにもいかず(笑)、「大切な佐久間を頼むぞ」という期待と共に、これはもしかしてとんでもない仕事では? と気づいた瞬間からが大変でした。
井手 プロジェクトの規模が大きすぎて、プロマネとおっしゃっていますが本当に大変だと思います。やってよかったと思う部分と、すごく大変だなと思う部分、両方どうですか。
笹川 大変な部分は──提案当時は当事者感がなく、一歩引いて「あるべき姿」「目指すべき姿」を理想論で積み上げて「こうあるべきでしょう、これには誰も反論はありませんよね、だってこんなダメな現状なんですから」と提案できたので、いい点数がもらえた。「本当に大事な問題だ」と思ってもらえた。けれども、実際にやるとなると、誰もやったことのないさまざまな問題が出てきました。水を約50トンも増やすとはどういうことか? 利水者からどう言われるか? 水利権の更新はできるのか?
菅野社長(当時)が「いろいろなところに半歩踏み出していきなさい」と言っておられましたが、半歩どころか、用地、建築、土木、系統、運用、営業、いろいろな分野に武器もロクに持たず、全身で突っ込んでいくような感覚でした。何度も協議を繰り返しながら少しずつ理解していただき、「土木部門でいけるよ」「用地部門でいけるよ」と一つひとつ課題をクリアし最終的な計画の提案にまとめるまで、3年ほどかかりました。提案するまでが本当に大変でしたね。

良かった点は、電気職として言えば、これがなかったらどうなっていただろう、ということです。設備の課題は余りにも多く、数年先には袋小路になるのは目に見えていたにもかかわらず通常の長期保守計画といったアプローチでは提案できないような工事規模であり、簡単には解決できない設備の不具合や課題がいっぱいあった。この点は全関係者を巻き込んで、それぞれの課題を明らかにし、これを解決できる計画にまとめ提案できたことが良かったなと思います。
井手 日本の社会インフラ全体を見渡しても、水道なども含めてどんどん老朽化していくなかで、パッチワーク的にちょこちょこ直してきていたものが、どこかで大手術をしないと立ち行かないというところに来ているように見えます。
笹川 そうですね。当社の水力発電で生み出す電気の年間90億kWhのうち、14億kWhを佐久間1箇所でつくっている。良し悪しは別にして「こけてはいけない場所」が大手術をしなければいけない状況になっていた。どのインフラもそうなのですが無限にお金があるわけではないので、濃淡をつけて大事なところから優先的に突っ込むという判断も時には必要だと思います。そういう時期に来ているという取っ掛かりとして、このプロジェクトは重要かと思います。
NEXUS佐久間プロジェクトには、設備更新と並ぶもう2つの重要な軸があります。「地域・流域」、そして「人」──。なぜ70年動き続けた発電所のリニューアルが、地域への恩返しであり、スタートアップとの共創であり、そして次の世代へのバトンになるのか。後編では、笹川氏が語る「3つの軸」と、プロジェクト名「NEXUS」に込められた意味を伺います。
▶ [後編:480トンの重さに込められた、先人の意志](Coming soon)
笹川 剛(ささかわ・たけし)
電源開発株式会社 NEXUS佐久間建設所 所長代理
2000年に電源開発株式会社に入社(電気職)。北海道・上士幌での水力現場勤務を皮切りに、函館の制御所、本店の水力設計部隊、田子倉発電所のリパワリング、秋葉第一発電所のリパワリング(電気部門所長代理として、ハイブリッドサーボモーターを使った新技術開発で2件の特許を取得し、新エネ大賞を受賞)、再生可能エネルギー事業戦略部などを経て、NEXUS佐久間プロジェクトを社内提案。現在は建設所の所長代理として、全体のプロマネと電気部門の総括を担う。
井手 一久(いで・かずひさ)
電源開発株式会社 経営企画部 兼 イノベーション推進部
NEXUS佐久間プロジェクト:
https://www.jpower.co.jp/bs/renewable_energy/hydro/nexus_sakuma/
J-POWER イノベーション推進部:
https://www.jpower.co.jp/innovation/

電源開発株式会社
NEXUS佐久間建設所
所長代理
笹川 剛
Takeshi Sasakawa

経営企画部 兼 イノベーション推進部
井手 一久
Kazuhisa Ide

電源開発株式会社
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About Innovation Catalog
J-POWER Innovation Catalog〜未来を共創する羅針盤
J-POWERイノベーション推進部は、「新たな未来を共に創造する」というミッションのもと、カーボンニュートラル達成と地域社会への貢献という大きな目標に挑戦しています。
この度、私たちの取り組みやビジョンを社内外の皆様と広く共有し、具体的なアクションへと繋げるためのハブとして、オウンドメディア「J-POWER Innovation Catalog」を立ち上げました。本メディアは、私たちの活動を網羅的にお届けする目録(カタログ)であり、未来への羅針盤となることを目指します。
イノベーションの最前線に立つ方々との対話、イノベーション推進部が投資し、共に社会課題の解決と新産業創出を目指すポートフォリオ各社、社内外のCVCネットワーク、そしてJ-POWERの保有するリソースやアセットといった点と点が、Innovation Catalogを通して有機的に繋がり、未来を紡ぐ。Innovation Catalogは連携を通して持続的な世界を築く、未来を照らすカタログです。