Innovative Voice

更新日:2026.6.25
公開日:2026.6.25
「水は誰かに供給されるもの」を、問い直す
――eau&company 北川 力氏が描く、水と人の新しい関係
「ブラック・ジャック」に登場する「地球のお医者さん」という一言が、一人の少年を水の世界へと導きました。能登半島地震で井戸水に救われた経験、災害支援の現場で抱いた違和感、そして上下水道という「集中」の対概念としての「分散」へのまなざし──eau&company株式会社代表取締役の北川 力氏は、研究者として、起業家として、一貫して水と人の関係を問い続けてきました。一極集中ではない、適材適所のグラデーションへ。eau&companyが見据える、これからの水インフラのあり方を伺います。
▶ [Part1:職人技と暗黙知に、AIで踏み込む――J-POWER×eau&companyの浄水プラント運用最適化実証]
「地球の医者」に導かれて
——北川さんはどうして水に興味を持ったのでしょう?
北川氏 きっかけは「ブラック・ジャック」なんです。父方の親戚に医者が多くて、自分も医者になろうと思って勉強していた時期があったんです。ただ、いろいろ話を聞いていくうちに自分は医者じゃないなと思ったんですが、人の役に立つことをしたいとは思っていました。
加えて、祖父が日本郵船の船医だったことも影響しています。父曰く、もともと町医者をやっていたのに、「1年だけ手伝って」と言われて船に乗ったら楽しくなってしまい、そのまま世界中を旅して帰ってこなくなったという人という話を子どもの頃から聞かされていたんです。医者ではないけれど、世界中で、そして人の役に立てることは何なのか——その軸を持ち続けて考えていました。
その時にちょうど「ブラック・ジャック」の「友よいずこ」のエピソードを読みました。ブラック・ジャックの肌の色が違うのは、幼馴染のタカシくんという混血の男の子から皮膚をもらったから、という有名なエピソードがあるんです。そのタカシくんが、「ブラック・ジャックは人間のお医者さんだけど、僕は地球のお医者さんになるんだ」と言うエピソード。
それが僕の中で大きく響いて、「人間の医者は無理だけど、地球の医者だったら人の役に立つ」と思ったんですね。特に2000年代って環境問題が注目され、環境省が出来たりという流れの中でしたので、環境問題だったら人の役に立てるし世界中どこにでもあると思った。じゃあ水か空気のどっちかだなと思ったわけです。

当時、2000年代後半になるんですけど、総合商社中心に「世界で、水ビジネスで勝負」という時流や、また私が在籍していた石川高専で仲良くしてもらっていた先生が水の専門であった。それらが掛け合わさったとき、「水だったら世界に行けるじゃん」と思ったわけです。確かに日本の上下水道インフラの水準って世界に出せるんじゃないか、というのが、まず水に興味を持ったきっかけです。
水ってジャンルをいろいろまたいでいくんですよ。高専では土木を学んでいたんですけど、土木だけだと水の知識が足りない。農業も水をめちゃくちゃ使うので、農学の知識、微生物などのバイオの知識が欲しくて、次は筑波大に行って農学系から水の基礎研究をしました。最終的にはインフラとして水の研究をしたかったので、修士課程では、下水道研究で世界的に実績があり、国の下水道に関する有識者委員を務めていた教授がいる、東大の研究室に入りました。水処理の基礎技術を研究しながら、下水道のあり方や整備に関して両方研究できるということで、その後立ち上げる会社が忙しくなり博士課程を中退するまで在籍した、という経歴です。
——分散という視点はいつから。
北川氏 最初に分散を考えたきっかけは、水に興味を持ち始めた当時、2007年にあった能登半島の地震のときです。能登にある祖父の家にちょうど遊びに行っていて被災したのですが、断水しても家にあった井戸水が使えたんですよ。「あれ?水道なくても水が使えるって面白いんじゃないか?」ということを漠然と意識しました。その後、筑波大時代には、同じ研究グループの中に各家庭で持つ下水処理システムの浄化槽を研究されている先輩がいて、排水の分散も面白いなと思いました。それらが重なって、ずっと上下水道の研究をしながら「分散ってなんだろう」ってもやもやしていたんですね。大学院に入ったときに先生に、研究室は集中型インフラである下水道のところでしたが「集中だけでなく、今後の水のあり方として分散、両方思い切って研究したいんです」と話したら、「じゃあ自由にやってみろ」と。
そんなわけで、集中と分散、両立しないといけない世界が近い将来に来るんじゃないかと本格的に取り掛かりました。
大学院の研究と並行して、東日本大震災後だったこともあり、三菱重工が取り組む新規事業のお手伝いで、自家発電の水版としてビルの中で水を循環再生する事業の検討や特許取得とかも行いました。研究者として集中と分散の在り方を検討していくのか、それとも企業に入ってやるのかと悩んでいた時期に、孫泰蔵さんと知り合って「会社作ったほうがいい。一緒にやろう」と言われてできたのがWOTAという小型水循環再生システムの会社です。WOTAには、2020年まで在籍しました。
水への興味から始まり、大きな上下水道インフラから、分散水インフラで会社を作るところまでたどり着いた、という感じですね。
「水は誰かに供給されるもの」というマインドへの違和感
北川氏 私自身は、大きな会社を作ることに強い関心はなくて。今、人にとって水との関係は良い状態なのだろうか?という興味が常々あるんです。
WOTA在籍中に、現場に出ていろんな疑問が生じたことがあったんです。岡山の災害支援として、WOTAで開発中の水が再生循環できるシャワーを現地に持っていったときに、あるおばあちゃんが「水が使える。来てくれてありがとう、やっとシャワーが浴びられる」とすごく喜んでくれたんですね。もちろんそれは良かったんですけど、話しているおばあちゃんの隣に、きれいな小川が流れているんですよ。避難所の小学校にはプールもあって。それなのに「水がない」ってどういうことだろうと。
専門家として考えれば、「ここの水って少し浄化したら使えるじゃん」と思うわけです。同時に、「多くの人にとって、水は誰かから供給されるもの」というマインドが、結果的に水に関わる複雑な状況を作っているのではないかということに、すごくハッとさせられたんです。

100年前は、井戸水を汲んで使うのが当たり前だった。それがいつのまにか変わってしまった。当時、話す機会があった国際的ないくつか財団とか、国連関連組織の人たちもみなさん「自分たちが水を困っている人に供給するんだ」という論調が多かったんです。
そもそも水は、近くにある水源を使うものだったわけです。だったら、その状態に戻したほうが自然なんじゃないか。さらに、水処理技術やITといったテクノロジーが発達したのだから、それをうまく使って、より簡単かつ安全に、地域に合った形で水を使えるようサポートする。そのほうが、水問題の解決を加速するんじゃないか。そういうことを、岡山の支援をきっかけに強く思いはじめました。
——我々が水道代を払っているのも、水そのものではなく、水を扱う技術の管理代を払っている、という見方もあります。
北川氏 水道代の中には、もちろん権利の整備など技術以外の要素も含まれてはいるんですけれども、実態としての大部分は技術管理代なんです。設備代以外でも、たとえば隣に川が流れていても、5km先の浄水場から水を引いてくる、その管理費用にお金を払っているわけです。だったら、浄水場経由で受け取るコストと、自分たちで水を管理するコスト、どちらが安いのか。何かあったときにどちらが強いのか。こうした問いは、実は国レベルでも議論が始まっています。地方の水インフラや災害対策のあり方として、分散も進める方向になりつつあるわけです。
一極集中ではない、適材適所のグラデーションが求められている
北川氏 勘違いされる方もいるんですけが、僕は分散推進派ではありますが、アンチ上下水道ではないです。あくまで集中と分散、適材適所の技術がしっかり整備されるべきだという立場です。適材適所。高度経済成長期に上下水道「のみ」が正しいとなってしまった状況を変えたいというのがまずあります。
例えば、東京を分散水源化して各家庭で水を持ちましょう、井戸水を持ちましょうと言っても、多分コスト的には上下水道の方が良いんですよね。決定要因は人口密度なので。
一方で田舎に行くと、もとからある井戸水を使って、浄化槽と家庭内の排水処理装置を持って分散で暮らす人たちもいます。
2024年の能登半島地震では、断水がかなり長期化しました。それに対して2007年の能登半島地震は断水被害が比較的軽微だった。震度の違いもありますが、2007年当時はまだ上下水道の整備が進みきっておらず、井戸と浄化槽で暮らしが成立していたことも、個人的には要因だと考えています。能登半島の山間部では、2000年代まで井戸水や簡易水道、浄化槽で暮らす世帯が多くありました。しかし、高度経済成長期から続く都市化の流れの中で、2010年代に分散から集中の上下水道へとつなぎ直された。その直後に地震が来て、ネットワークがシャットダウンし、被害がより大きくなったのではないか、と思います。
「分散」という言葉も、私の中では、構造的に上下水道の対概念として使っているだけなんです。個人なのか、コミュニティなのか、施設なのかは、どれでもいい。少なくとも一極集中ではない形で、それ以外のグラデーションが生まれること——それを、私の中で「分散」と呼んでいるに過ぎないのです。

昭和初期と現代技術のリミックスで、サステナブルな水の多様性をつくる
——eau&companyとして取り組みたいことは?
北川氏 今、私たちeau&companyで取り組みたいのは、いろんな形の水の多様性。水のアクセスとクオリティの多様性をつくりたい、ということです。地域性に合った水のあり方をつくりたいということと同義です。
では誰がそれを作るのか。eau&companyはあくまで支援の会社だと謳っているんです。デジタルテクノロジーを使った支援もあれば、設計のお手伝いに入ることもあるかもしれないですが、基本的には主役はそこにいる地場の事業者さんたちだと思っているんです。今回のJ-POWERの施設も、間にいくつか業者さんが入っていたりはありますけど、実際に回しているのは地場の事業者さんなんですよね。
その地場の事業者さんとか、地域のコミュニティとか——いざとなったらお金を払わずに、能登半島の一部や田舎の一部で起きていることなんですけど、コミュニティ内で、自分たちで井戸を管理するということをやっていたりする。そういう人たちが「実現したい、でも手が足りない、知識が足りない」ということを支援することによって、地域に合った水のあり方を作っていく。それが商業的なのか、コミュニティのみんなで進めていくのかは、どっちでもいいと思っているんですけど、そういう多様性が生まれる支援をしていきたいんです。
結果的に、水を一極集中で誰かが与えるものから、グラデーションがいろいろ生まれたらいいな、と思います。私の中で、水のあり方に対して、絶対的な正解の形があるとは、特に思っていません。
——ハードをつくるのではなく、支援することでグラデーションを実現する。提供するのは技術やナレッジということですね。
北川氏 水に対する知識について、情報の非対称性も問題です。上下水道って日本においてとてもうまく成立しているんですけど、それが反面、良くなかったこともあったと私は思っているんです。戦後、水は空気のような思想があった。国の決定官僚の中で、水はインフラだから当たり前に使えるべきだというものです。
パナソニック松下幸之助さんの「水道の哲学」も同様です。家電を水道のように供給するんだ、という有名な比喩ですが、経営の神様である松下さんがそう例えるほど、当時、水は空気のようにじゃぶじゃぶ、しかも安い値段で使えるべきものだ、という感覚が前提として共有されていた。それくらい象徴的な話だったわけです。

しかし、それゆえに水は情報としてブラックボックス化しすぎてしまった。地方に行くと、地域で守ってみんなで使っていた水源があるのに、ここ10年は誰も管理しなくなった、使わなくなった——そんな話があったりするんですよね。
結果的に、文化、生活の後ろを支えていたライフラインを壊してしまったと私は思っているんです。実際、震災後の能登半島でヒアリングしていくと、山の湧き水を水道と並行してずっと使っていたお家が給水所になっていた、という話もありました。そういう文化をいかに残していくか。ひとつしかないインフラに依存しないことで、個人も、行政も、楽になるはずなんです。
昭和初期と現代技術のリミックス的なものができると、結構サステナブルになるんじゃないかなと思っています。
私自身、大学院のころからセンサーを含む技術に十数年触れてきました。10年ほど前、IoTという形で盛り上がった時期も、やれることは確かに増えたのですが、「データサイエンティストが足りない」と言われていましたよね。データを食べさせれば何か返してくれるだろうと言われていたけれど、当時のAIのレベルでは、実際には何も起こらなかった。IoTの幻滅期のような時期があったと思うんですけど、それは単純に、分析する人が足りなかったからなんです。
実は今、生成AIのおかげで、10年前にいろんな人が夢見たIoTの形——センサーで集めたデータをAIが解釈する世界が、やっと現実になると思っているんです。実際、今回の実証実験でも、センサーを活用した費用対効果がきちんと出せますし、導入のメリットをなんとなく語るのではなく、はっきりと数字で示せるシステムが作れるようになった。これはとても大きいな、と思います。
任天堂の「枯れた技術の水平思考」と、中国の台頭
——水処理の技術そのもの、業界全体としてはどうご覧になっていますか。
北川氏 これは日本のほぼすべての業界に言えることですが、中国の台頭は大きい。半導体や家電、自動車業界ですらそうで、今は台湾や中国のほうが進んでいる部分が多くあります。水処理に関わるフィルターも、産業用の品質面ではまだ日本のほうが強いところはありますが、数を作って安く作るというところになると、圧倒的に中国に強みがあります。
中国側にも業界課題はあるのですが、量的にはとにかく圧倒的で、内需を取り込みながらどんどん伸びていく。一方、日本側は産業構造として官需寄りなので市場原理が働きづらく、コストを下げるインセンティブがありません。中国は民需も取り込みつつ、しかも需要が日本の10倍ある。必然的に品質を良くしないといけないし、需要があり、競争も起きるからコストが下がる。結果として技術コストも下がっていく。これは他の業界とほとんど同じ構造です。
その一方で、この20年、水処理業界の水処理そのものには大きなイノベーションは起きていないんですよ。だからこそ私が技術開発の参考にしているのが、任天堂さんです。任天堂さんが言うところの「枯れた技術の水平思考」——他の業界で培われた技術を水処理と組み合わせ、水処理を多くの人にとって扱いやすいものに変えていく。そういう発想で取り組んでいます。
eau&companyが見据える3年後
——eau&companyの今後数年をどう考えていますか?
北川氏 まず1年は、今の取り組みをしっかり横展開していく時期です。初めての現場でも結果が出はじめていますので、これを他にも応用できる水技術として広げていきたい。規模感も調整しながら、他のプラントにも順次展開していきます。並行して、排水の領域でも他社さんと連携を進めていますので、上下水道それぞれについて、いろんなシステムのグラデーションの基礎を作っていく。これが、ここ1年でやることです。
そこから3年の間に、しっかりインフラとして認知される存在になっていきたい。加えて、水業界の方々と業界外の方々のそれぞれが、「水ってこうあるべきだよね」と自分なりの考えを持てるような情報発信や技術提供を行っていきたいと考えています。

「ああ、水って上下水道だけじゃないよね。こういう水のあり方もあるよね」というアイデアが今より自然に出てくる雰囲気ができていて、「それだったら私たちがやれますよ」と地方企業さんやコミュニティの中からも手が挙がる——そんな世界観がベースとしてでき上がっていて、そこから世界中に広がっていくきっかけになるところまで、3年で持っていきたいと思っています。
——水に対しての情報って、我々は実は、あまり持ち得ていない?
北川氏 その通りだと思いますね。アクセシビリティの話はわかりやすいんですけど、ここ数年実験してきたのは、水質によって文化も変わるんじゃないか、ということなんです。料理はわかりやすくそうですよね。水質はアートや食、宗教観にも影響しますし、肌荒れにも関わってくる。お茶が硬水と軟水で味が変わる、というのもよく聞く話です。
最終的なエビデンスまでは取れていないのですが、知り合いと議論していて「その可能性は高そうだよね」となったのが、たとえば日本で水墨画が発展したのは軟水だから、という仮説です。一方、ヨーロッパで油絵が中心なのは、硬水ゆえに繊細な色使いがしづらく、結果として濃い色を重ねる油絵の方向に進んでいったのではないか、と。そうならざるを得ない文化的な違いが、水によって生まれているのかもしれない。
食文化でいうと、たとえば紅茶を温かいうちに飲もう、という慣習にも理由があります。水中のカルシウムなどのミネラル分が紅茶のポリフェノールと結合して、冷めると白く濁って風味が落ちる——「クリームダウン」と呼ばれる現象です。硬水文化圏では、紅茶は冷める前に飲み切るのが自然な選択になる。一方、軟水の日本では、お茶は少し冷めても飲めるよね、という感覚がある。こうした水質の違いが及ぼす影響は、思っているより大きい。文化や生活の隅々に効いてくる部分が大きいなと思います。
「水と人をつなぐ」会社——水に知能を実装する
——eau&companyは、自分たちをどう位置づけているのでしょうか。
北川氏 私たちは「水の作り手と使い手の支援」を掲げていますが、一言でいえば「水のつなぎ手」です。水と人をつなぐ会社。
ここでいう「人」とは、まず作り手のことです。実は作り手も、意外と水のことを深くはわかっていません。フィルターのことは知っていても、デジタル技術で水の状態を見える化するところまでは手が回らない。だから私たちが、まず見えるようにする。
作り手が水とコミュニケーションしやすい状態をつくる——これは、技術を使えば実現できます。見えるようになれば、これまでやれなかった、できないと思い込まれていた水管理の手法にも、可能性が開けてくる。これが、作り手側への支援です。
使い手としては、飲食店さんや建設会社さんから、「こういう水の使い方はできませんか」と相談をいただくこともあります。だから最近、社内では「私たちはものづくりメーカーではない」と言っているんです。メーカーではなく支援者。自分たちでソリューションを作るのではなく、使い手と作り手をつなぐ。人と水、あるいは人と人の、水に関わるインターフェースをつくる会社になりたい。
そのために使う武器がデジタル技術です。最近は「水に知能を実装する会社」という言い方も、作り手側に向けた表現として使っています。
私も含めて、eau&companyの役員はみんな、これまでスタートアップで資金調達をやってきた人間です。けれども、特にJ-POWERの井手さんとここ1年じっくり話す中で、考え方が変わってきました。
水というインフラに関わる企業である以上、スタートアップ的なJカーブで赤字を掘ること自体は仕方ない部分があるにせよ、企業が長く続けられる状態を作ることのほうが、もっと重要なのではないか。「eau&companyはスタートアップだから、会社がなくなってサービスも止まりました」では、絶対に許されないわけです。

J-POWERはまさに電力会社、インフラ会社として、その視点で会社を運営されている。そこで働かれている皆さんから刺激をもらい、私は2つのことを感じました。
1つめは、eau&companyという会社を、私だけではなく、いろんなパブリックな人が出てきて運営できる状態にするには、どうしたらいいか、ということ。
2つめは、それでも会社がなくなる可能性はあるわけで、そのときに「会社がなくなったからインフラが止まりました」は許されない、ということです。私たちが水に関わる知能と技術を提供したのに、会社が潰れたから動かなくなった、動きがおかしくなった——これは絶対にあってはいけない。
だから、「先を見据えた支援」を意識する。これは私にとってはリスクヘッジでもあります。社会、私自身、そしてeau&companyが関わる事業に対して、仮に会社がなくなっても、技術移転がある程度進んでいる、内容を理解している人たちが同時に育っている——その状態こそが、インフラとしてのサステナビリティをつくる。会社の持続性によって担保できるものと、できないものがある。だからこそ個人として選択肢を持っていることが、結果的にサステナビリティに繋がるのかなと思っています。
J-POWERとの取り組みが生み出すもの
北川氏 水事業に対して、J-POWERは「ある程度採算性が取れる領域」や「インフラとしてビジネスを展開している地域」に対して、利益の追求だけではなく、責任を持った事業として取り組まれているかと思います。
もちろん、あまりに不採算で社会貢献に寄りすぎる条件では手が出せないというラインはありますよね。けれどもJ-POWERが他社と違うのは「数十年続けるために事業をやる」というのが当たり前のカルチャーになっていることです。数十年どころか100年スパンかもしれない。しっかり作って、回しやすくする。そして、それを続けやすくするにはどうするか?その部分を、J-POWERのミッションである「BLUE MISSION 2050」と並走しながら、eau&companyとして形にしていく支援ができればと思っています。
一方で、この取り組みから生まれた技術やノウハウを、先ほどコミュニティと表現したような人たちへも届けていきたい。お金は出せないけれど人手は出せる、自給自足的にやれるといった人たち。商業的には小さい規模でも、そこに人々が暮らしていて、絶対に水が必要だという場所。そうした場所に対しては、安価に、もしくはオープンソースで技術を提供していく。
eau&companyとしては、この2軸を作りたいと考えています。私たちの側でノウハウを事業として整理し、形にしていく。同時に、必要に迫られている場所には横展開させてもらう。この両輪で、よりサステナブルな状態を作っていけたらと思っています。
新しい水のあり方をつくる
——北川さんはずっと「水の民主化」ということをおっしゃっています。仮に自分たちの存在が消えてしまったとしても、技術や知識をしっかりと残すというのは、まさに民主化と言えると感じました。そこは一貫して取り組まれているということですね。
北川氏 そうですね。社会に対して新しい水と人のあり方を示せるのであれば、会社としてどうなるかは、場合によっては優先しなくてもいい——そう思っているところがあります。
ただ、自分たちが関わったものやつくってきた水のあり方が、数十年後、あるいは100年後に「ひとつの新しい水のあり方として、自分たちがつくったよね」と言える——そういう仕事をしようと、社員にも伝えています。会社の存続そのものよりも、しっかりと社会に対して、新しい水のあり方を普及させていきたい。想いとしては、その部分が一番強いです。
(本記事は北川氏へのインタビューを元に再構成しています)


eau&company株式会社
代表取締役社長/Chief Research Officer
北川 力
Riki Kitagawa
Author
Innovation Catalog 編集部

eau&company株式会社
代表取締役社長/Chief Research Officer
北川 力
Riki Kitagawa
Author
Innovation Catalog
編集部
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