Innovative Voice

更新日:2026.7.14
公開日:2026.7.9
スタートアップが価値を生み、事業会社が社会に届ける
――2人の一級建築士が語る、両輪の設計図
株式会社エリアノの共同創業者であり現CDAO鳥海 宏太氏は、業界最大手の建築設計会社で10年以上に渡り大規模建築の設計に携わってきた一級建築士です。J-POWER(電源開発株式会社)イノベーション推進部の山本 亮も、大規模発電所の設計・工事管理から分散型エネルギー事業まで幅広く経験を積んできた一級建築士。「建築」という共通言語を持つ2人が、スタートアップと事業会社という異なる立場から高機能トレーラーハウスのレンタル事業に共同で取り組んでいます。トレーラーハウスの設計哲学から機能型トイレトレーラーの開発背景、オープンイノベーションのあり方まで、建築士ならではの視点で語り合います。聞き手はJ-POWER経営企画部兼イノベーション推進部の井手 一久です。
▶ [Part1:遊休地のアップサイクルで未来へ繋ぐ――エリアノが描く「動かせる建築」とオフグリッドの可能性]
「大きく造る」への疑問から、エリアノは始まった
井手 このセッションでは「建築」というテーマの中で、トレーラーハウスをどう捉えて、どう発展させていくかについて伺います。鳥海さん、エリアノという会社を設立しようと思ったきっかけを教えてもらえますか?
鳥海氏 大学を卒業してから起業に至る10年以上、大きな建築物の設計に携わってきて、やりきったという感覚がありました。「このまま大きな建築物を造り続けていくのか」という自問があったんです。むしろ小さく、フレキシブルに、街やエリアを変えられるものが創れないかと突き詰めて考えている中で「トレーラーハウス」に出会いました。「これは面白い、ぜひ自分たちでつくってみたい」という好奇心が最初のきっかけです。

井手 その問題提起はJ-POWERにおいても共通しますね。これまで大きな発電所を建てて長期間運転することで成り立ってきた事業ですが、小さく発電して小さく届ける方向性も、時代の要請として存在するようになっていると感じています。
山本さんのキャリアについて教えてください。また、「小さく発電する」ということについてどう捉えていますか?
山本 私はJ-POWERに建築職として入社して、最初は大規模発電所の設計や工事管理をしていました。その後は、屋根上太陽光発電によるオンサイトPPA事業の検討や、「デマンドレスポンス」といった分散型事業に携わった後、イノベーション推進部に入りました。
確かにエネルギー業界は今、「脱炭素」という大きな流れの中にあります。例えば太陽光発電はまさに「小さく発電する」という分散電源の代表で、「自分が使う分の電気を自分の場所で作る」という考え方ですね。
「移動できること」がすべてを可能にする
井手 鳥海さんはもともと業界最大手の設計会社にいたわけですが、スタートアップを立ち上げようと思ったのはどういう心境だったのでしょう?
鳥海氏 「小さく、負担なくエリアや場所に変化のきっかけを与える」と考えた時に、規模の問題ではなく単体の建築士事務所だけでは絶対にできないと思ったんです。逆に言うとそういった組織の場合、小さく変えることの方が難しい。とはいえ、独立したとして少ない人数と少ない資本でできることには限りがあります。小さいプロダクトでも「面白い」「興味がある」と思ってくれる方を集めることができる器になれないか、と考えて、エリアノという器、スタートアップを立ち上げました。
井手 エリアノという社名からは、直接的にプロダクトであるトレーラーハウスを連想させませんね。
鳥海氏 そうかもしれないですね。トレーラーハウスは本当に魅力的なプロダクトです。しかしトレーラーハウスに限らず、他にも可能性があるならば小さなプロダクトを開発していきたいという思いがあります。今は1つのブランドとして、StyleCabinというトレーラーハウスの事業がある感じです。

井手 トレーラーハウスの価値として「移動できること」があります。鳥海さん、その点についてはどう考えていますか?
鳥海氏 建築物を作る時は「土を掘って基礎を造る」というように、地面に何かしらの行為が発生します。でもトレーラーの場合は、ほぼそのまま設置できるんです。地面が柔らかい場合は対処が必要ですが、基本的にはそのまま置ける。役目を終えてその場所が不要になったら、また違う場所に移動できる。本当にエコなプロダクトです。「移動できること」がすべてを可能にしている。
井手 山本さん、建築職として、最初にトレーラーハウスに接した時の印象を教えてください。
山本 最初は「建築物」という概念と「移動できる」トレーラーハウスというのは矛盾した話だと思っていました。しかしエリアノのトレーラーハウスの実機に触れ「土地に縛られずに自分らしく生きられる空間」って新しいと感じて、改めてその魅力に気づきました。
「じっくりつくる」と「速く動く」の間で
井手 少し建築から離れますが、鳥海さんは建築士として「良いものをつくりたい」という思いと「スタートアップとして生き残る」という、一見異なるベクトルについてはどう感じていますか?
鳥海氏 「時間の使い方」の観点で考えると、設計やデザインを考えることは、どうしても物理的な時間を要します。一方スタートアップとして動こうとする場合、いかに効率的に時間を使って事業をドライブしていくかが求められる。自分の中では相反していると思っていて、正直なところ葛藤を感じながら取り組んでいるとも言えます。

一方で、技術やデザインで他にはないものを生み出そうとするなら、そのための「刃」を鍛えておかないとできない部分もある。バランスを取ることが難しい反面、個人的には一番面白いとも思います。
井手 スタートアップである以上、尖った部分を見せなければならない。プロダクトの独自性、強みを高めていく必要があって、時間の概念とは確かに相反するように思います。エリアノには様々な強みを持つメンバーが集まっているかと思いますが、その中で鳥海さんはどのような役割を果たしていますか?
鳥海氏 私の役割として、量産できるようなプロダクトの素案をつくることと、技術的な課題を解決すること、そしてデザインという意味で新しい価値を創っていくことがあります。プロダクトも単体で終わらせるのではなく、その価値をいかに広げていくかも大事にしていきたいです。
井手 その地域をじっくり理解して、じっくり考えて、「こういうものがいいんじゃないか」「こうじゃないよね」と対話を重ねながら築き上げなければいけない部分は相当ありますよね。
鳥海氏 エリアノは本当に違うジャンルのメンバーが集まって作った会社ですが、目的は「エリアの価値を新しく創造する」ところにあります。その中で大事なのは、みんなが仲良くやっていくというよりも、意見をぶつけ合いながらやっていくことだと思っています。
時間の考え方を変えるレンタルトレーラーハウス事業
井手 J-POWERとエリアノで進めている高機能トレーラーハウスをレンタルする事業において、2人それぞれの役割や、建築士同士で補完し合っている部分を聞かせてもらえますか?
鳥海氏 今回の共同事業では本当に貴重な機会をいただいています。J-POWERとのビジネスの企画段階から単にトレーラーハウスをレンタルするというだけでなく、「時間の考え方を変えよう」という話があったのが印象的です。
建築物は、建てた後10〜20年をどう向き合うかという話になるんですが、レンタルトレーラーハウスはその真逆で、短期間でいかにその場所を変えられるか、価値を持たせられるかという発想です。私自身、手掛けるものを大きな建築から小さなプロダクトへ移行した時と同じように、時間がかかるものから時間がかからないものへ、という流れですね。

井手 山本さんのこの事業における役割はどういったものでしょうか?
山本 イノベーション推進部の中で唯一の建築職ということもあり、J-POWERが求める建築的・機能的なニーズをトレーラーハウスにしっかり落とし込んでいくことをメインにしています。トレーラーハウスで快適な空間を提供するには電気と水が必要です。私が持っている電気工事士の資格を最大限生かして、より良い電力システムを構成するパートも担っています。
井手 具体的にどのようにトレーラーハウスを設計、制作しているのでしょうか。
鳥海氏 具体的には、お客様の要望やニーズを汲み取った上でどんなプロダクトがあればいいかを考えながら、工場に行って実際に作っています。山本さんとは最近特に、密に議論しています。J-POWERのエネルギーに関する知見と地域の方々とのコミュニケーション力はエリアノにはない部分なので、そこを吸収しながらプロダクトに反映しています。
井手 武田さんからはグローバル展開を目論んでいるというお話がありました。「グローバル展開するならこれが必要」というものはありますか?
鳥海氏 日本のトレーラーハウスは海外にも絶対通じると思っています。日本の技術を小さなパッケージにして発信できるスモールな器だと思っているので、海外展開への思いは私も強くあります。
そのためにもっとブラッシュアップしなければいけないと考えているのは、「軽さ」です。建築物は重ければ重いほど安全でどっしりしていていいという考えですが、トレーラーは軽くないと問題が出てくる。遠くへ持っていこうとすればするほど、軽さの追求が必要になります。今も継続して取り組んでいます。
山本 海外展開を考えると、その土地、土地の文化や建築文化を反映させることが大切だと思っています。例えば日本なら純和風のトレーラーハウスがあっていいし、換気性能や断熱性能、日射遮蔽性能など、環境に合った設計の自由度をもっと増やしてもよいかと思います。

以前はコンテナのように作って持っていけばいいと思っていたのですが、シャーシだけ持ってその場でつくるというやり方の方が、現地に受け入れられやすいのかなと思っています。
鳥海氏 本当にそう思います。
現場の「見えない課題」に応える、女性用トイレトレーラーの開発
井手 J-POWERのニーズから生まれたプロジェクトとして、トイレトレーラーの開発も進めていますね。J-POWER側の背景から教えてください。
山本 J-POWERの発電所は日本全国、特に山の上や僻地に多くあります。J-POWERとして女性も活躍できる職場にしていこうという流れがある中で、そういった現場には女性が安心して使えるトイレや休憩スペースが整備されていないという課題がありました。そのような課題を解決するため、エリアノのトレーラーハウスをベースに、女性用トイレトレーラーの開発を鳥海さんと一緒に進めています。
鳥海氏 建築の現場はよく知っているのですが、女性が安心できるスペースというのは少ないなと、大規模建設を手掛けている当時から感じていました。J-POWERのいろいろな施設をご一緒する中で、今回の女性用トイレトレーラーをスモールに、自然の中や現場の中につくっていくというプロジェクトは、たとえ小さくとも女性が安心できるようなスペースが有るだけで、心理的負担がだいぶ減るのかなと感じています。
今回はダム施設での展開ですが、同じような環境は他にもたくさんあるはずですよね。このプロダクトで、そのような課題を解決できると良いなと思います。
スタートアップの価値を事業会社がデリバリーする
井手 J-POWERとエリアノ、事業企業とスタートアップの関係性にあって、オフグリッド型のトレーラーハウスを一緒に設計している中で、二人の意見が対立する部分はありますか?
山本 全くないと思っています。正直なところ、どちらかというと私は機能に対する興味関心が強く、全体のデザインやストーリーというところは得意ではないんです。一方で鳥海さんはプロダクトにストーリーを持たせることがとても上手なので、お互いしっかりサポートし合えていると思っています。
鳥海氏 そうですね。J-POWERとエリアノで、コラボレーションしていくことがお互いの技術を掛け合わせながらできているなと感じています。エリアノだけでは、今やっているオフグリッド型も、女性用トイレトレーラーも、つくりきれなかったのではないでしょうか。
井手 J-POWERは機能をとことん突き詰めて施設に収めることを得意としています。今回のプロダクト開発では「その空間・場所に合ったものをどうつくるか」という鳥海さんの設計思想とJ-POWERの強みがうまく掛け合わさっているように感じます。

これって、事業会社とスタートアップがどう組んでいくべきかというテーマにも通じると思っていて、事業会社はきっちり仕事をするのは得意だけれどゼロイチを生み出すのが苦手。スタートアップは新しい価値を提案するのが得意だけれども、デリバリーに課題がある。今回J-POWERが担う役割はそのデリバリー部分で、その関係性がうまく取れている。
鳥海氏 まさにそうありたいと思いながら聞いていました。ここ数か月は特に、山本さんとまさに一体となって開発を進めている感じがありますし、そう思っていただけていることがエリアノの存在価値なんだろうなと思います。
エリアノは、なんらかの「きっかけ」を社会に実装しなければいけないという思いが非常に強いです。デリバリーまでスピード感を持ってやれるか、そこにエリアノの価値があると思っています。
山本 エリアノのすごいところは、関係者を巻き込んで、社会全体を良くしていこうという動きにあると思っています。J-POWERとしても、今回の協業を通じて学んだことを生かして、地域の発展により寄与できる事業をやっていきたいと思っています。
井手 エリアノは、小さなプロダクトから入るんだけれど、そこにいろんな方が関わることで守備範囲がどんどん広がり、できることが増えていく。「エリア」と謳っているけれど、そこにいる人がどんどんつながっていくことこそがエリアノの強みであり、これからの展望につながっているのだと思います。一緒に盛り上げていきましょう。
▶ [Part3:「実行の現場」に飛び込んで――「掛け算」で新規事業をドライブする、若手2人の現在地]
株式会社エリアノ https://areano.jp/
電源開発株式会社(J-POWER)イノベーション推進部 https://innovation-catalog.jpower.co.jp/


株式会社エリアノ
CDAO
⿃海 宏太 氏
Kota Toriumi

電源開発株式会社
イノベーション推進部
山本 亮
Ryou Yamamoto

経営企画部 兼 イノベーション推進部
井手 一久
Kazuhisa Ide

株式会社エリアノ
CDAO
⿃海 宏太 氏
Kota Toriumi

電源開発株式会社
イノベーション推進部
山本 亮
Ryou Yamamoto

経営企画部 兼 イノベーション推進部
井手 一久
Kazuhisa Ide
関連記事
Innovative Voice
2026.7.14
Article
「実行の現場」に飛び込んで
――「掛け算」で新規事業をドライブする、若手2人の現在地
株式会社エリアノ
千葉 雅史 氏
電源開発株式会社
小傳良 政希
Innovative Voice
2026.7.7
Article
遊休地のアップサイクルで未来へ繋ぐ
――エリアノが描く「動かせる建築」とオフグリッドの可能性
株式会社エリアノ
武田 晃直 氏
Innovative Voice
2026.7.2
Article
GPUを「使いたい時に使える」社会へ
――AI時代の計算基盤を支えるモルゲンロットの現在地
モルゲンロット株式会社
中村 昌道 氏
Innovative Voice
2026.6.25
Article
「水は誰かに供給されるもの」を、問い直す
――eau&company 北川 力氏が描く、水と人の新しい関係
eau&company株式会社
北川 力 氏
Innovative Voice
2026.6.25
Article
職人技と暗黙知に、AIで踏み込む
――J-POWER×eau&companyの浄水プラント運用最適化実証
eau&company株式会社
北川 力 氏
Innovative Voice
2026.6.17
Article
70年の遺産を、次の世代へ繋ぐ──NEXUS佐久間プロジェクト【後編】
――480トンの重さに込められた、先人の意志
電源開発株式会社
笹川 剛
Innovative Voice
2026.6.11
Article
70年の誇りを次の世代へ繋ぐ──NEXUS佐久間プロジェクト【前編】
――日本一の水力発電所を、10年かけて生まれ変わらせる
電源開発株式会社
笹川 剛
Innovative Voice
2026.4.28
Article
電力の「いつ」を証明する
——環境価値プラットフォームが切り拓く、AI時代の新規事業開発
株式会社Scalar
加藤 哲裕 氏
58株式会社
村上 仁 氏
Innovative Voice
2026.4.2
Article
電力自由化が変えたビジネスの地図——卸売から環境ソリューションへ、エネルギー企画部の挑戦
電源開発株式会社
園田 大祐
電源開発株式会社
菅原 拓樹
Innovative Voice
2026.1.13
Article
スタートアップと築くサステナブルな関係と、長期視点で育む新規事業
Spirete株式会社
渡邊 康治 氏
Innovative Voice
2026.1.9
Article
「100の失敗」を越えていけるか――10年先を見据える2026年の羅針盤
Carbide Ventures
芳川 裕誠 氏
Innovative Voice
2025.12.29
Article
物語を編み直すのはだれ? TECH BEAT Shizuokaキーパーソンに聞く地域と産業の未来【後編】
株式会社静岡銀行
井出 雄大 氏
株式会社HEART CATCH
西村 真里子 氏
Innovative Voice
2025.12.26
Article
物語を編み直すのはだれ? TECH BEAT Shizuokaキーパーソンに聞く地域と産業の未来【前編】
株式会社静岡銀行
井出 雄大 氏
株式会社HEART CATCH
西村 真里子 氏
Innovative Voice
2025.11.20
Article
新たな成長機会に挑み、社内に新しい風を吹かせる
――立ち上げ当事者が語る、イノベーション推進の必要性
電源開発株式会社
遠藤 二郎
Innovative Voice
2025.9.23
Article
AI時代を支えるScalarの挑戦
――データ基盤で環境価値を可視化する
株式会社Scalar
深津 航 氏
Innovative Voice
2025.9.11
Article
文化が交わる場所をつくる
――「MoN Takanawa: The Museum of Narratives」が描く100年先の出会い
MoN Takanawa: The Museum of Narratives 開館準備室
内田 まほろ 氏
Innovative Voice
2025.7.16
Article
「風車のある村」熊本県西原村×J-POWER
――地域との長く深い関係性から生まれるイノベーション
熊本県西原村
吉井 誠 氏
Innovative Voice
2025.7.16
Movie
「創造的な計画」で拓く未来
――地域とともに築く新しい価値創出にできること
株式会社エムテド
田子 學 氏
Innovative Voice
2025.7.16
Movie
挑戦の先にある「青い地球」
――J-POWERが希求するイノベーションの先に
電源開発株式会社
菅野 等
About Innovation Catalog
J-POWER Innovation Catalog〜未来を共創する羅針盤
J-POWERイノベーション推進部は、「新たな未来を共に創造する」というミッションのもと、カーボンニュートラル達成と地域社会への貢献という大きな目標に挑戦しています。
この度、私たちの取り組みやビジョンを社内外の皆様と広く共有し、具体的なアクションへと繋げるためのハブとして、オウンドメディア「J-POWER Innovation Catalog」を立ち上げました。本メディアは、私たちの活動を網羅的にお届けする目録(カタログ)であり、未来への羅針盤となることを目指します。
イノベーションの最前線に立つ方々との対話、イノベーション推進部が投資し、共に社会課題の解決と新産業創出を目指すポートフォリオ各社、社内外のCVCネットワーク、そしてJ-POWERの保有するリソースやアセットといった点と点が、Innovation Catalogを通して有機的に繋がり、未来を紡ぐ。Innovation Catalogは連携を通して持続的な世界を築く、未来を照らすカタログです。