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更新日:2026.6.25

公開日:2026.6.25

職人技と暗黙知に、AIで踏み込む

――J-POWER×eau&companyの浄水プラント運用最適化実証

    J-POWER(電源開発株式会社)は20年以上にわたり、施設敷地内に井戸を掘り、地下水を浄化処理して飲料水や雑用水として供給する「オンサイト型地下水浄水処理サービス」を全国約60カ所で展開してきました。病院、空港、離島の簡易水道など、止めることが許されない現場を支えてきたこの分散型水道インフラに、新たな取り組みが始まっています。水の研究者・起業家として「水の民主化」を掲げてきた北川 力氏が率いるeau&company株式会社とともに金沢で進める、センサーとAIを活用し、分散型浄水プラントの運用を最適化する実証実験です。北川氏に、実証実験の背景とデータから見えてきた成果を伺います。

    今、水に関わるインフラで何が起きているか

    ——J-POWERと金沢で取り組んでいる実証実験の内容について教えてください。

    北川氏 J-POWERの保有するオンサイト型の地下水浄水処理プラントに、AIやDXを駆使してコストダウン、安定供給、管理・運用のしやすさ、人手不足解消といった課題を解決できないか。プラントをデジタル技術やソフトウェアの力で改良できないか。このような文脈で実証プロジェクトを行っています。私たちeau&companyが入ってセンサーを設置し、ソフトウェア活用やクラウド連携、AI連携を行い、本当にコストダウンや管理のしやすさにつなげていくことをやっているところです。

    ——J-POWERの保有するオンサイト型浄水処理プラントは60地点ほどです。こういった分散型のプラントは全国にどれくらいの数があるのでしょうか?

    北川氏 いろんな種類があるので細かい数字は私もすぐには出せないのですが、トータルで2〜3万近くはあるはずです。国の方針としてもこれから増やしていこうという流れになっていて、道の駅などの施設を災害拠点にするというのもその一環です。

    今回の実証実験は、私が取り組んでいるテーマである「水の分散化」「水の民主化」にも紐づいています。大規模なインフラだけだと、もう維持できないんですよね。個人のレベルでもそうですし、施設ごとのレベルでも、インフラを分散して持ったほうがコストも管理も楽になるなら、より増えていく流れだと思います。

    ——大規模インフラというのは、河川等から水を引いて浄水し、各世帯や施設に分配し、それを回収するという、いわゆる水道インフラですね。

    北川氏 まさにそのプロセスそのもので、水道管を数十キロも引くような規模感のものです。一方、例えば今回の施設のように、日々1,000人から2,000人位の人が水道を使うという規模だと、実は小さな村くらいのサイズ感です。その現地で処理したほうがいいんじゃないかという話です。

    埼玉で発生した下水道管破裂事故では本格復旧まで数年かかる見通しだと報じられています。下水道のような大規模インフラでは1か所落ちた瞬間に数十万人に影響がでます。これが地震のような広域に渡る災害の場合、実際能登半島で近いことが起きています。ネットワークが一箇所切れた瞬間にそれだけの人へのインフラ供給が止まってしまうのに対して、分散であれば一部が壊れても、それ以外のシステムは利用し続けられます。加えて、人口密度が低い地域では、分散の方が総体的にコストを下げられる可能性が高く、国としても上水・下水それぞれ、地域によっては分散化を進めていこうという流れになっています。去年から今年にかけて、上下水道の分散化を進めるための法律改正だったり、委員会の立ち上げなども含めて立ち上がっています。

    ——上下水道インフラや施設浄水プラントを維持するのはどういった方々がいらっしゃるのでしょうか。

    北川氏 もともと水業界の現場は大手資本というよりは小さな事業者の方々が各地方で施工管理をされてきました。業界再編は進んでいますが、これからの時代、施設の運用を担う人手不足が課題です。

    水道は生活に関わるインフラですから止めることができません。今回の実証を進めるにあたって、センサー設置等はできるだけ水処理施設を止めずに改修工事することを意識しました。今後、他の施設で展開する際に導入しやすい方法の検証も進めているのがポイントです。

    リアルタイムのセンサーデータとAIから「見えてきた」こと

    ——具体的に、今回の実証実験ではどのような取り組みを行っていますか?

    北川氏 まずは、リモートで見える化することです。オンサイト型の地下水浄水処理プラントでは常時、人が張り付けるわけではないので、何かトラブルが起きたときにすぐに対応が難しい可能性があります。何もトラブルが起きていないということを改めて可視化する、というのが1点目です。

    2点目はコストダウンですね。きれいな水を作るための装置ですが、定期的にそのフィルターを洗わないといけません。その洗浄水を捨てるのにかかる下水道代が、水処理のランニングコストの大きな部分を占めている。フィルターに逆から水圧をかけて洗浄することを「逆洗浄」といいますが、その洗浄頻度が例えば半分になったら、コストを大きく削減できる可能性は十分あるよね、というのをデータで確認しています。

    現状は、人が行かずに管理するために、問題が起きないようにバッファをかけて、少し過剰かもしれないがやっておこうとなっている。それに対してAIによるフィルターの洗浄コストや薬品のコスト削減するための最適化判断の提案をする。そこが今回の実証実験です。

    大規模インフラの場合、現場に人が張り付いて、プラントに合わせてチューニングできるわけですが、今回のような分散プラントの場合、そうはいきません。一般的なプラント管理事業者さんの場合、常時他拠点の施設を管理されていて、その数は1,000を超えることもあります。実は水源って地下水ですから1,000箇所あれば1,000通りの水質の違いがあります。それぞれにチューニングを行うというのはもちろん難しいので、安全係数を掛けて、それまでの経験値の中で、ある程度マージンを持たせて設計します。定期的に、ある程度の水量を使うわけです。利益率が下がっても管理工数を減らす必要がありますので、個別にチューニングするよりも最適化のためにユニバーサルな設計思想になっているんだと思います。

    ——ここが今回の実証実験のポイントになる。

    北川氏 フィルターが汚れていると逆洗浄をしないといけない。その汚れる可能性を「えいや」で決めていたものを、数値を見て「フィルターが汚れているよね」となったタイミングに逆洗浄をすれば、無駄を減らせますよね。タイマーで回数が決まっていたものを、数値を見ながらリアルタイムで考えることに切り替える。職人技や暗黙知だったものが、データを見て、しかも生成AIも活用するとかなりの精度でロジカルに自動化できると考えています。

    加えると、私たちeau&companyの強みの1つは安価なセンサーシステムの開発に取り組んできたところにあります。今回設置したかった箇所には、手動で水を採取して分析するための蛇口がすでに付いていました。おそらく、本来であればセンサーで常時計測したい場所だけれど、コスト面で設置が難しく、人手で代用していたのだろうと思います。これまでセンサーのコストが高くて設置できなかった場所に、私たちのセンサーを置くための準備が、いわば結果的に整っていたわけです。これは他のプラントでも十分に起こり得ることだと考えています。

    今回の実証場所は、私たちの研究拠点から近いこともあり、通い詰めながら進めています。全国に浄水プラントを持っているJ-POWERの中でも、今回の実証場所は比較的原水の水質がきれいなので逆洗浄やフィルターコストがかなり安い部類だと聞いていますが、今後、全国に展開していくと、より高い利益率を出せるという推察がありますね。

    ——この3か月の実証実験で、それ以外にセンサーからわかったことはありますか。

    北川氏 大きな異常値については、そもそもしっかり管理されているので起きていないというのが正直なところです。ただ、細かい部分でいうと、フィルターの逆洗浄の水の際に、他のフィルターへの消耗させている可能性が見えてきまして、配管設計をより改善できるかもしれません。大きなトラブルにつながってはいないので改修するかどうかはコストバランスで決めていけばいいと思う程度ですが、人の目で見えていなかった部分がリアルタイムで見えること、データを集計することで「ここの配管、大きなトラブルではないかもしれないけれど、ちょっと改善できる」が可視化できてきたことは大きい成果です。次のプラント設計の改善にもつながりますね。

    ——苦労した部分はありましたか?

    北川氏 1つ目は、今回スケジュールがタイトだったこともあって、業者さんとの打ち合わせが十分とれず、一番苦労したのは段取りですね。この部分は経験で修正できるかなと思っています。

    2つ目は、通信環境ですね。今回の実証場所は地下に作られた施設なので、クラウドにデータを上げるための通信環境が良くなくて、その調整にも苦労しました。

    3つ目は、機器類が結露で壊れるかもしれないということ。これは懸念材料であり、今回の実証期間で検証できていない点です。長期で実証実験を行い、確認しないといけないポイントもあります。課題が見えれば対策できますが、1年を通して実証実験をやっていくと、更に精度が上がったフィードバックが得られます。

    電子部品で一番怖いのは結露などの水なんです。今回の実証場所は日本一雨が多い地域と言われているほど湿度が高く、原水が地下水で冷却されやすくプラント周辺が結露しやすい場所です。結露に対する耐久性の検証という意味で、今回の場所は過酷で、結果的に面白い環境ですね。実際に、夏になるとプラントの床が結露で水没するらしく、その対策に排水ポンプが置かれているほどです。そういう意味では、センサーシステムの検証環境としては理想的でした。

    ▶ [Part2:「水は誰かに供給されるもの」を、問い直す──eau&company北川 力氏が描く、水と人の新しい関係]

    (本記事は北川氏へのインタビューを元に再構成しています)

  • eau&company株式会社

    代表取締役社長/Chief Research Officer

    北川 力

    Riki Kitagawa

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    Innovation Catalog 編集部

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