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更新日:2026.8.25

公開日:2026.8.24

「地上の太陽」は日本から灯す。京都フュージョニアリングが挑むフュージョンエネルギーの最前線【前編】

    太陽が燃えるのと同じ反応を、地上で人工的に起こす。遠い夢と思われていたフュージョン(核融合)エネルギーの社会実装に、世界中の研究機関とスタートアップが本気で挑んでいます。2019年設立の京都大学発ベンチャー、京都フュージョニアリング株式会社もその一社です。同社を率いるのは、商社からベンチャーキャピタル(VC)へ転じたのち、投資先だった京都フュージョニアリングの技術と可能性に賭けて自ら経営に飛び込んだ、代表取締役社長 兼 COOの世古 圭氏。国際協力の時代から、米中を中心とした開発競争の時代に変貌を遂げたフュージョンエネルギーをめぐる現在地と、京都フュージョニアリングが手がける独自技術について、世古氏に伺います。聞き手は、2023年から同社に出資するJ-POWER(電源開発株式会社) 経営企画部 兼 イノベーション推進部の井手一久です。

    100年先の世界を担うフュージョンエネルギー

    井手 京都フュージョニアリングの事業内容についてお聞かせください。

    世古氏 京都フュージョニアリングは、フュージョン(核融合)エネルギーの技術を扱う会社です。2019年に京都大学発ベンチャーとして設立されました。世界の誰よりも早く、ここ日本でフュージョンエネルギーを実装することを目指して技術開発を進めています。従業員は180名ほどで、アメリカ、イギリス、ドイツ、カナダにも子会社をつくって事業を展開しています。

    井手 世古さんのご経歴を教えていただけますか。

    世古氏 私はもともと、新卒で商社に就職し、グローバルにおける投資、事業開発を経験しました。その後、VCのCoral Capitalに転職し、特にディープテック分野での投資を担当していました。そのときの投資先のひとつが京都フュージョニアリングです。この会社について深く知るうちに、私自身がこの事業に飛び込んでいきたいと強く感じました。「投資をしている場合ではない。このままではフュージョンエネルギーの社会実装はとても間に合わない」と考え、飛び込みました。いまは代表取締役社長 兼 COOとして経営に携わっています。

    京都フュージョニアリング 代表取締役社長 兼 COO 世古 圭氏

    井手 J-POWERはCoral CapitalにLP(Limited Partner)出資をしていますが、世古さんとはCoral Capital在籍中からディープテック分野について議論していましたね。

    世古氏 私がVCで働いていた2020年当時はSaaSが全盛期で、「ディープテック」という言葉もほとんどなかった時代です。私はそのころ、日本がグローバルで本質的に勝てる素地のある技術や産業はなにか、スタートアップとして取り組むべきものはなにかを常に考えていました。

    世の中を大きく変革する要素には「グローバル化」と「テクノロジー」の二軸があると思います。商社にいた頃の私がやっていたのは、新技術をよりグローバルに展開していくことでした。いまでいうAI技術のように、例えばアメリカで生まれたものを世界中に持っていく動きが「グローバル化」です。ただ、私が本当にやりたかったことは「新しいテクノロジーによって世界を変えていく」ことでした。新しく登場したものを後追いするのではなく、社会を変える技術を深掘りし投資していくことが必要だという想いで、商社からVCに移りました。

    社会や世界にとって本当に必要なものは「エネルギー」と「食」だと私は考えています。特にエネルギーは、社会のファンダメンタルとして重要です。10年から20年先までは過渡期として、原子力も火力も太陽光も必要でしょう。しかし、50年、100年、さらにその先を考えると、フュージョンのようなクリーンで供給力の高いエネルギーが必要なのではないか? その想いから、いまこの仕事をしています。

    井手 フュージョンエネルギーについて教えてください。

    世古氏 端的にいえば、水素などの軽い原子核同士をぶつけて融合させ、その時に生じるエネルギーを取り出す技術です。

    フュージョンエネルギーは、ベースロード電源としてもオフグリッドとしても使える、非常にフレキシブルなエネルギーです。二酸化炭素の排出もなく、燃料はほぼ海水から取ることができて、ほとんど無尽蔵に使うことができる。だからこそ「究極のエネルギー」と呼ばれています。

    フュージョンエネルギーは「地上の太陽」ともたとえられます。フュージョン反応は、太陽など宇宙のさまざまな星のなかで起きているものです。太陽が燃えている数千度から数万度という高温に、とても強力な重力が加わることで原子核がプラズマ状態になって反応が起こり、大きなエネルギーが発生します。

    しかし地球上には太陽ほどの重力はありません。同じ反応を再現しようとしても簡単にはできませんから、人工的にフュージョン反応を起こす必要があります。そのための方法として、有力なものがふたつあります。ひとつは、磁場を使う方式。強力な磁石の力でプラズマをギュッと閉じ込めて反応させる方法です。もうひとつはレーザーを使う方式で、燃料の周りを爆縮させて閉じ込めるというものです。このふたつを軸に、人工的にフュージョン反応を起こし、フュージョンエネルギーの実現を目指す開発が進められています。

    井手 太陽で起きているのと同じことを、環境の違う地球上でどう再現するのか、そのために必要な設備を作ることがポイントになりますね。

    35カ国のITERから、中国とアメリカの競争へ

    井手 フュージョンエネルギーについてはITER(国際熱核融合実験炉)という国際的な枠組みがあり、現在は民間のスタートアップも各国で動き始めている状況ですね。

    世古氏 国際共同プロジェクトであるITERには世界35カ国が参加しており、日本は極めて重要なポジションにあります。ITERでは物理実証を目指した建設・準備が進められていますが、この他にも大型実験装置はいくつかあって、日本のJT-60SAもそのひとつです。こうした実験装置によって、プラズマ核融合反応を地上で起こす方法が検証されています。

    近年、プラズマ核融合反応の物理実証はおそらく可能だろうと、見通しが立つようになってきました。そのため、エネルギーとしての実証、いわゆる「発電実証」をどう実現するかに、関心の軸足が移ってきています。発電実証の先には「商用化」があります。

    これまではITERを中心に、世界各国が協力してフュージョンエネルギーの研究を進めていました。しかし、物理実証の見通しが立ち始めたことで、中国やアメリカなどは自国で早く作ってしまおうと動き出しています。国際協力から国際競争へ、状況が変わった、というのが現在です。

    燃料サイクルとブランケットを一気通貫で開発する

    井手 フュージョンエネルギー開発の国際競争のなかで、京都フュージョニアリングはどのような役割を担っているのでしょうか?

    世古氏 世界にはフュージョンエネルギーを扱うスタートアップが50社ほどあります。ITERも含めた各国の研究機関と同じく、どうやってプラズマ核融合反応を起こすかということに取り組んでいます。私たちはどちらかというと逆算をしていて、エネルギーとして成立させるために必要となる「商用プラント」からアプローチしています。プラズマなど原理部分の研究開発は他社に委ね、私たちはプラントの中核となる機器やシステムを一気通貫で開発します。

    京都フュージョニアリング 代表取締役社長 兼 COO 世古 圭氏

    具体的に取り組んでいるのは、トリチウムを回収・増殖する「燃料サイクルシステム」や発生する熱から電力を取り出す「トリチウム増殖ブランケット」です。「トリチウム(三重水素)」とは、フュージョンの燃料となる水素の同位体のことです。フュージョンエネルギーの実現のためには、このトリチウムを安全に扱い、循環させるシステムが必要になります。もうひとつ大切なのが、炉を取り囲む「ブランケット」という機器です。フュージョンエネルギーではトリチウムをプラント内で自ら増殖させる必要があります。これは「最後の技術課題」ともいわれる重要なものです。京都フュージョニアリングでは、それらを一気通貫で、世界に先駆けて開発しています。

    開発した機器や素材をトリチウム環境下でテストするため、カナダの原子力研究施設での実証試験も予定しています。プラズマ核融合反応を起こすためにはおよそ1億5,000万度まで温度を上げる必要があるのですが、それに必要な、電子レンジのようにマイクロ波を使って加熱する「ジャイロトロンシステム」は、私たちの独自技術です。

    エンジンだけでなく、飛行機ごとつくる

    井手 世界各国のフュージョンスタートアップについて教えてください。多くは、まずは炉を作ることに注力しているように見えていますが、すでに周辺機器までを一気通貫で作るようなスタートアップも出てきているのでしょうか。

    世古氏 これは各社さまざまですね。たとえば、5,000億円規模の資金調達をしているアメリカのCommonwealth Fusion Systems(CFS)は、プラント全体をすべて自分たちで作ろうとしています。ただし、CFSは資金力でも人材の集め方でも特別なポジションの企業です。多くのスタートアップや研究機関は、まずは炉心に注力していますね。炉心開発はプラズマの物理現象ですが、プラントエンジニアリングは工学であり、両者は似て非なるものです。私たちの強みはプラントエンジニアリングです。顧客の多くは炉心に強みを持っているので、相性の良いパートナーシップとして成立しています。

    なぜ、当社以外のスタートアップは炉心に取り組んでいるのか。炉心が重要なのはもちろんですが、ほとんどの国では物理実証がまだこれからのフェーズなのです。日本には、世界最大の超伝導トカマク型核融合実験装置であるJT-60SAがすでに存在します。世界がこのマシンを追いかけている状況で、日本は一歩も二歩も先を行っている。だからこそ私たちは、その先の工学分野における技術開発をしているというわけです。

    井手 2024年11月には、京都フュージョニアリングが主体となった大規模プロジェクト「FAST(Fusion by Advanced Superconducting Tokamak)」が立ち上げられました。燃焼プラズマからフュージョンエネルギーを取り出し、そのプラズマの維持と工学的課題を統合的に実証する、世界初のプロジェクトですね。

    世古氏 FASTは、「フュージョンエネルギー開発を加速度的に進めていかなければならない」という強い危機感と期待を込めたプロジェクトです。私たちは炉そのものを手掛けずに、その周辺で中核となる機器を開発しているとお話ししました。ただ、それだけでは最終的に下請けやサプライヤーに回ってしまう懸念もあります。

    日本政府は国策としてフュージョンエネルギーを推進していますが、それは日本が自国だけでエネルギーを賄える装置を作れる可能性があるからです。国内のサプライチェーンを巻き込んで、必要な装置をすべて製造できるところに日本の強みがあります。周辺装置の製造事業はビジネスとして成立する。しかし、やはり最終的には炉を含めたプラント全体を仕上げられるプレイヤーが必要です。

    航空機に例えるとわかりやすいでしょう。世界最高性能のエンジンはあるけれど、飛行機は作っていないし作れない。そういう状態だと、いざというときに飛行機を自由に使えないかもしれません。フュージョンエネルギーも同じです。炉周辺の装置はあるけれど実際のプラントを自分たちで作れないのでは、なんのために研究開発してきたのかわからない。日本国内の誰かが炉全体を作れるようにならなければ、世界と戦えません。その強い想いから、FASTを推進するための新会社としてStarlight Engine株式会社を立ち上げました。産学連携を加速し、2030年代のフュージョンエネルギー発電実証を目指しています。

    ▶[後編:10年で発電実証を実現する。世古 圭氏が語るフュージョンエネルギー社会実装と経営のリアル]


    京都フュージョニアリング株式会社 https://kyotofusioneering.com/

    J-POWER(電源開発株式会社)イノベーション推進部 https://www.jpower.co.jp/innovation/

  • 経営企画部 兼

    イノベーション推進部

    井手 一久

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