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更新日:2026.8.25

公開日:2026.8.25

10年で発電実証を実現する。世古 圭氏が語るフュージョンエネルギー社会実装と経営のリアル【後編】

    フュージョンエネルギーの発電実証を目指すプロジェクト「FAST」は、2030年代の発電実証をわずか10年ほどで実現するという目標を掲げています。資金と人材の確保、地域の理解をどう得るか、そしてベンチャーキャピタル(VC)出身の経営者が見据えるディープテックスタートアップのあり方とは? 京都フュージョニアリング株式会社で代表取締役社長 兼 COOを務める世古 圭氏に、その経営哲学を伺います。聞き手はJ-POWER(電源開発株式会社) 経営企画部 兼 イノベーション推進部の井手一久です。

    ▶ [前編:「地上の太陽」は日本から灯す。京都フュージョニアリングが挑むフュージョンエネルギーの最前線]

    1兆円のプロジェクトは1社ではつくれない

    井手 フュージョンエネルギーの社会実装に向けて、どのように課題を解決していく想定ですか?

    世古氏 これまでの数年間は、京都フュージョニアリングとして自社開発を進めることでノウハウや知財を社内に蓄積してきました。スタートアップにとって、技術の核をどこに設定し知財をどう押さえるかは重要な戦略です。そしてここからは、蓄えてきた資産を事業会社のみなさんに提供しながら、相手先からも技術やノウハウを提供していただくフェーズに入ります。

    「FAST(Fusion by Advanced Superconducting Tokamak)」はその典型事例といえるプロジェクトです。これから、日本が一丸となって「1兆円規模の発電実証プラント」を作っていくことになる。そのためには事業会社の力が不可欠です。よりアクセルを踏み込んで、さまざまなパートナーシップを組んでいきたいと思っています。

    京都フュージョニアリング 代表取締役社長 兼 COO 世古 圭氏

    井手 FASTをさらに進めていくために、いま足りないものは?

    世古氏 資金と人材です。このふたつがないとスピードを上げられません。民間からも政府からも支援をいただきながら資金を確保し、このプロジェクトを最速で仕上げていくことが求められます。

    私がスピードを強調するのは、ゆっくり進めていく時間の余裕はないからです。国際情勢を踏まえると、おそらくアメリカと中国は2027年には物理実証を行うでしょう。その実証後すぐに、発電実証フェーズに入ります。2035年の発電実証が、次の国際競争の目安になります。あと10年もないんです。

    発電所に相当する設備をたった10年でつくるのは、並大抵のことではありません。しかも、法規制やそれを建てる土地すらもまだ決まっていない。10年で1兆円規模のプロジェクトを新しく実行するのですから、時間は全く足りません。だから、とにかくスピードが重要なんです。

    井手 その通りですね。一方、J-POWERが1953年に着工した佐久間発電所は、実はわずか3年で建設されました。当時は「日本に電気が足りないから、早く建てなくては」と必要な技術と人材が集められて実現できた。現代の私たちからすると考えられないスピードなのですが、それと同じことを、フュージョンエネルギーでもう一度、やらなければならないということですね。

    J-POWER(電源開発株式会社) 経営企画部 兼 イノベーション推進部 井手一久

    世古氏 やればできると思っています。原子力の仕組みが解明されてから、原子力発電所が実用化されるまでには5年程度しかかかっていません。本気でやろうと思えば、実現できるものなんです。あとは、どれだけ真剣に、スピード感をもって取り組めるかどうか。フュージョンエネルギーは、私たちがやらなければならない最後のテーマだと思っています。

    井手 そのために、どのような人材が必要ですか?

    世古氏 フュージョン産業全体で必要とされる人材と、私たち京都フュージョニアリングやStarlight Engine(FASTを推進するための新会社)が必要としている人材は、少し違ってきます。産業全体については、経営者、土木工学、プラントエンジニアリング、土地の環境評価、安全衛生、ファイナンスなど、ありとあらゆる層の人材が必要です。フュージョンエネルギーにはさまざまな技術が使われます。ケミカルプラントのエンジニアリングも重要ですし、素材、物性、ポンプや真空装置、同位体分離まで、非常に広範な産業の方が活躍することになります。

    Starlight Engineが取り組むのは、フュージョン産業全体を取りまとめてひとつの大きなプラントを作ることです。自社で人材を集めることもサプライチェーンの方々に関わっていただくことも必要になります。一方で、京都フュージョニアリングの強みのひとつは、プラントの設計から素材までを統合エンジニアリングでつなぎ合わせるところです。プラント全体を設計し、システムレベルに落とし、コンポーネントに落とし、コンポーネントとマテリアルの整合を取っていく。この一気通貫の統合エンジニアリングの旗振り役や、そこで自ら技術開発ができる人が求められます。ケミカルプラントや重工メーカーでの実績を積まれている方、ものづくりを実践されてきた方が、いま当社に集まってきています。

    井手 新しいことに挑戦できる人でなければ難しそうですね。

    世古氏 やったことのないことを「面白い、自分がやるんだ」と思えるような強いエネルギーとパッションをもっている方が、フュージョンエネルギーの領域には合っていると思います。

    「本当に安全なのか」という問いに真摯に向き合う

    井手 実際に発電所を建設する段階では、地域の方にどう受け入れていただくかも論点になります。現地では建設反対の声が上がることも考えられますが、どのようにアプローチしていきますか。

    世古氏 そもそも、「フュージョンエネルギー」や「核融合」という言葉を認識している方は、日本ではまだほんの数パーセント程度ではないかと思います。市民権を得ている状況ではありませんから、まずはフュージョンエネルギーの特性や可能性、そして日本が抱えているエネルギー問題への危機感を、もっと世の中に伝えていかなければなりません。

    日本はいま、年間25兆円ものエネルギーを輸入しています。2026年現在、ホルムズ海峡で起きている問題のように、海外からのエネルギー供給が止まれば日本の経済も止まりかねません。では、エネルギーを自給自足することは可能なのか?フュージョンエネルギーならば、サプライチェーンをほぼ自国で完結できるし、海水から燃料を得ることができる。二酸化炭素も排出されないし、環境への影響も小さい。こうしたことを丁寧に説明していけば、納得していただける方は多いです。だからこそ、私たちには説明していく責任があります。

    そのうえで、「本当に安全なのか」という問いに真摯に向き合わなければなりません。フュージョンエネルギー固有の安全性は、トリチウムと放射化物のふたつの点に限定されます。あえて原子力発電と比較するなら、原子力の安全確保の三原則は「止める・冷やす・閉じ込める」です。2011年の福島第一原子力発電所の事故では「冷やす」ことができなくなり、その結果「閉じ込める」こともできなくなりました。一方、フュージョンエネルギーの場合は、トラブルが起きたとしても反応は連鎖しませんので、原理的に暴走することはありません。重要なのはトリチウムを「閉じ込める」ことだけです。これがフュージョンエネルギー固有の安全性の問題です。逆にいえば、ここまで明確にわかっているのです。あとは時間をかけて、国や地域の方々に対して丁寧に説明していくことに尽きると思います。

    「10年かかっても仕方ない」では、資本市場と合わない

    井手 世古さんはもともとVCとしてディープテックスタートアップに投資する立場でした。いまのディープテックの状況について、どう見ていますか?

    世古氏 ふたつの観点でお話ししたいと思います。

    ひとつは、ディープテックだからといって売上や利益を度外視していいわけではない、ということです。「ディープテックは売上が立つまでに10年以上かかることもあるが、仕方ない」と語られがちですが、本当にそうなのか、私はいつも疑問に思っています。

    経営者が真剣に事業を考えて、技術開発だけでなくマネタイズまで練り上げて経営していかなければ、ディープテックに将来はないと私は思います。技術開発に注力して10年後に形になればOKといった風潮は、資本市場とは合わないと考えています。

    もうひとつは、VCの役割です。VCは本来、次の社会に何が必要になるかを見極めて、リスクマネーを供給し支援していく存在のはずです。しかし、日本政府が発表した「戦略17分野」にある業界を見ながら、投資先をいま探しているVCが多いという実情があります。「AIがすごい」「防衛テックが伸びる」と言われてからその分野を探している。果たして、VCとして正しいあり方でしょうか。政府のお墨付きや資本市場の風潮を確認してから動くのはCVC(Corporate Venture Capital)の領域と言ってもよいかと思います。

    井手 同意です。事業会社がCVCを通してスタートアップに投資するのは、事業会社にはゼロイチ、すなわちどの市場でどういう製品を作ればいいかを探すことが難しいからだと思います。「この方針に沿って事業をやりましょう」と言われて動くのであれば、スタートアップよりも事業会社の方が得意分野のはずですよね。

    技術と事業の両輪を数年ごとに組み替える

    井手 京都フュージョニアリングは研究開発だけでなくビジネスも大切にされていますが、将来的にはIPO(Initial Public Offering)を目指しているのでしょうか?

    世古氏 会社である以上、資本市場からきちんと評価されることは大切だと思っています。ゆくゆくは株式公開という形で社会に出ていくことを視野に入れています。ただ、フュージョンエネルギーはやはり時間がかかる。実際に社会に電力として届けられるのは10年以上先になりますから、資本市場がどんな状況であっても会社を存続させていくのが経営者としての私の務めだと考えています。その観点では、フレキシブルに資金を調達できる体制であることが重要であり、必ずしもIPOにこだわる必要はありません。フュージョンエネルギーの開発を加速することにフォーカスしたいと思っています。

    井手 売上や利益を出すという会社の方針は、技術開発をしている方たちと衝突することもあるのではないでしょうか。

    世古氏 フュージョンエネルギーの分野では開発すべきものはまだたくさんあり、発電実証フェーズと商用化・量産フェーズで必要なものも違います。今すぐやらなければならないことと将来的に必要なことを整理し、どれだけアクセルを踏み込んで、どこでブレーキをかけるのかを見極めるのが大切です。

    だからこそ、私はビジネスを成立させることを意識しています。研究者やエンジニアには開発したいことがたくさんある。いつ、どの顧客がその新技術を必要とするのか。市場として成立するのはいつになるのか。それが見えていれば、より加速度的に開発を進められます。一方で、顧客のニーズがないものを開発してしまって誰にも使われないという事態は、スタートアップではよく起こることです。

    企業が常に問うべきは、マーケットであり顧客です。技術開発と事業の両輪を回していくことが大切なんです。

    京都フュージョニアリング 代表取締役社長 兼 COO 世古 圭氏

    井手 子会社の設立なども含め、組織体制を柔軟に変更している印象があります。

    世古氏 技術開発ばかりがタコツボ化してしまわないように、かといってビジネスばかりが先行しないように、技術とビジネスのバランスを取りながら組織を運営しています。ときにはビジネス部門が技術開発部門の中に入ることもありますし、両部門が並列になることもある。数年ごとに組織をつくり変えることで、有機的な組織を目指しています。

    フュージョンエネルギーが必要とされる社会のために

    井手 この数年の世界情勢についてはどう見ていますか。

    世古氏 アメリカのトランプ政権の影響もあり、クリーンエネルギーやグリーンエネルギーといったワードが急速に後退していますね。「クライメートテック」という言葉も同様です。ただこれは、これまでの盛り上がりに対する「揺り戻し」なのだと思います。振り子のように、また戻ってくるはずです。投資トレンドや政治情勢といったマクロな情勢に振り回されるのではなく、地球にとって本質的に大事な課題に目を向ければ、フュージョンエネルギーが必要とされる社会は確実に訪れると考えています。

    井手 少なくとも、国土が狭く資源を持たず、それでいて大量に電力を消費する日本にとって、フュージョンエネルギーは絶対に必要だと考えています。そもそも多くの人に知られていない状況を解消すれば、あとはお金と人を集めてスピード感をもって進めていく。そういう事業だと再認識しました。

    世古氏 新しいエネルギーですから、さまざまな課題がありますし、社会への説明責任もあります。J-POWERのこれまでの経験に学びながら、社会の信用に足る器へと成長し、フュージョンエネルギーを実装していきたいと考えています。

    ▶ [前編:「地上の太陽」は日本から灯す。京都フュージョニアリングが挑むフュージョンエネルギーの最前線]


    京都フュージョニアリング株式会社 https://kyotofusioneering.com/

    J-POWER(電源開発株式会社)イノベーション推進部 https://www.jpower.co.jp/innovation/

  • 経営企画部 兼

    イノベーション推進部

    井手 一久

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