Innovative Voice

更新日:2026.9.3
公開日:2026.9.1
育って、枯れて、燃料になる。耕作放棄地の「エリアンサス」が里山と発電所をつなぐ【前編】
熊本県玉名郡和水町(なごみまち)の耕作放棄地で、4〜5メートルまで伸びるイネ科の多年生植物、「エリアンサス」が育てられています。J-POWER(電源開発株式会社)は2026年3月、この「草本(そうほん)系エネルギー作物」をペレットに加工し、石炭火力発電所で石炭と混ぜて燃焼する試験を国内で初めて実施しました。国内で調達できるバイオマス燃料を増やし、手間を減らして遊休農地を活用するという本プロジェクトについて、技術開発部 研究推進室(戦略企画) 統括マネージャーの紺野亜紀子に話を聞きました。聞き手はJ-POWER経営企画部 兼 イノベーション推進部、井手一久です。
エネルギーの多面性に惹かれて
井手 紺野さんの経歴を教えてください。
紺野 2005年にJ-POWERに入社し、最初の配属は長崎県の松浦火力発電所でした。三交代の運転勤務で、女性職員が夜勤に入るのはJ-POWERとして初めてだったと聞いています。その後は発電所の運用保守を経験し、本店の火力発電部に移って、石炭火力の運用課題を解決する仕事をしていました。

2014年からは、広島県の大崎クールジェンに出向しています。J-POWERと中国電力が共同出資している会社で、石炭をガス化してより高効率に発電する技術の実証を行っていました。私が携わったのは、ガス化によって出る二酸化炭素を分離回収する技術の実証について、実証計画を立ち上げるところです。2021年に技術開発部へ移り、いまは技術開発の計画や戦略の立案、新しい研究領域の探索を担当しています。
井手 そもそも、エネルギーの分野に進んだきっかけは何だったのでしょう。
紺野 子どものころから、ものが動くということ、それ自体が楽しかったんです。考え方が変わったのは高校生のときで、広島原爆資料館の展示に衝撃を受けました。同じ出来事でも、日本側とアメリカ側で見え方がまるで違う。強く大きなエネルギーはそれだけ影響力も大きく、どの角度から見るかで捉え方が変わってしまう。エネルギーの多面性に強く興味を持ちました。
だったら、こういうエネルギーをコントロールできるようになりたい。エネルギーに関心を持ったのはそこからで、大学では化学工学を専攻し、原子力発電や化学プラントについても学びました。
「ゴジラススキ」と呼ばれる実証地点
井手 紺野さんはいま、エリアンサスを栽培してバイオマス燃料に利用するプロジェクトに取り組まれています。まず、エリアンサスとはどういう植物なのでしょうか。
紺野 エリアンサスはイネ科の多年生植物で、とにかく成長が速い。春に伸びはじめて、秋口には4、5メートルに達します。秋から冬にかけて地上部が枯れて乾燥するので、その状態で刈り取ります。次の春にはまた株から生えてくる。一度植えれば、長期にわたり収穫し続けられる植物です。
見た目は巨大なススキで、和水町の実証地点にはGoogleマップ上で「ゴジラススキ」という名称をどなたかが付けてくれました。最近は現地へ行く人に「ゴジラススキで検索してください」と案内しているくらいです。

エリアンサスを国内で生産できるバイオマス資源として育て、発電用の燃料にするところまで持っていく。それがこのプロジェクトの目的です。狙いは2つあります。ひとつは国産バイオマスの調達先の選択肢を増やすこと。もうひとつが、耕作放棄地という地域課題の解決です。
井手 国産バイオマス燃料の候補となる植物は他にもありそうですが、なぜエリアンサスだったのでしょうか?
紺野 最初から決め打ちだったわけではないんです。植物のなかでも通常より成長が速い、早生樹と呼ばれる木本(もくほん)系のものと畑で栽培できる草本(そうほん)系のものを、エリアンサスやソルガム(イネ科の一年生植物)をはじめ幅広く並べて比較したんです。
比べるうちに、エリアンサスの良さが見えてきました。一度植えれば毎年生えてくるから、植え直しがいらず手間が少ない。秋に枯れるから収穫時の水分量が少なくなり、燃料として使いやすい。たとえばソルガムは成長が速く、場所によっては年に複数回収穫できるポテンシャルがありますが、毎年植え直す人手がかかります。それぞれに一長一短があるなかで、人手の足りない日本の里山で遊休農地や耕作放棄地を使って栽培するのならエリアンサスが合っているのではないか。最後はそこに絞り込みました。
我々が栽培しているエリアンサスの種子は、沖縄で採種したものです。もともとはインドから中東の原産で、農研機構(国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構)が品種改良して雑草化しづらい作物になっていて、九州から北関東くらいまでのエリアなら、越冬はするけれど種子は結実しづらい。種子は広く飛ばず栽培を管理しやすいという点でも、日本の気候に向いた植物なんです。制度上は外来種として登録されていますが、栽培管理ができるものとして位置づけられています。
国産バイオマスと耕作放棄地をつなぐプロジェクト
井手 選定理由のひとつが「耕作放棄地での栽培適性」とのことですが、その観点はどこから出てきたのでしょうか。
紺野 実は、この調査は私が主語ではないんです。2021年に技術開発部内で調査が始まったときに、進めていたのは隣にいたメンバーでした。国内で、特に里山のようなところで、自分たちの手で生産できるバイオマス資源はないか。それが最初の問いです。
その調査が部内で進む一方、私は私で地域課題をビジネスにすることに関心があって、農業の課題を深掘りしていました。J-POWERの発電所が立地する地域には、発電所に勤めながら兼業で農業をされている方もいます。その方に話を聞くと、譲り受けた大切な農地だから維持していかなければいけない、でも手間はかけられない。実際のところ農業は赤字で、勤めの収入で補填しながら続けているというのです。
なんだか、いびつだなって。農地を守りたいという思いがあるのに、農業だけでは十分な収入にならずに、他の収入や年金で補いながら維持している方もいる。その一方で、中山間地域の農業人口は高齢化や担い手不足でどんどん減っていくので、耕作放棄地は増えていってしまう。個人ではなんともしづらい、農業が抱える構造的な課題だと感じました。
エリアンサスは、この課題にマッチするなと思ったんです。国産バイオマスと、耕作放棄地。この2つを、ちゃんとつなげたかった。
井手 実際の栽培はどのように進めていますか。
紺野 2022年に、福岡県北九州市の若松研究所で研究プロジェクトが立ち上がっています。エリアンサスを栽培して燃料化する研究です。和水町の遊休農地を1ヘクタールほどお借りして実証栽培を始め、いまはだいたい5ヘクタールまで広げています。長期的な影響は観察を続ける必要がありますが、今のところ想定通り、毎年成長を繰り返しています。
井手 事業モデルはどのように考えていますか。

紺野 想定しているのは、栽培されたエリアンサスをJ-POWERが買い取り、バイオマス燃料として利用するモデルです。また、栽培して収穫したあと、運搬するためにペレットにする事業主体も要ると考えています。そのプレイヤーを誰が担うのか。
いち農家さんだけで担うには、採算が合いません。そもそも耕作放棄地がなぜ放棄されるかというと、区画が小さくて生産効率が悪かったり、高齢で農業を続けられなくなったりという事情があります。区画が小さいままでは、大型の刈り取り機械が入らない。入っても動かしづらく、時間がかかる。ある程度栽培をまとまった土地 に集約しないと成立しないんです。
そうなると、事業主体は誰なのかというところから設計しなければいけませんし、刈り取ったものをペレットにする工場や、貯蔵して運ぶ場所をどうするのかも決めていく必要があります。地域の中で成立する仕組みそのものを考える必要があると思っています。いまは和水町で栽培実証の検討会を開催して、現地の農家さんや町の農業委員会、役場の方にもお話を伺いながらモデルとなるような仕組みを考えているところです。
「電源開発って何ですか」から始まる対話
井手 J-POWERが従来取り組んでいる発電所建設などの進め方と比較すると、エリアンサスのプロジェクトはかなり独特のアプローチのように感じます。紺野さんの課題に対する取り組み方は興味深いです。
紺野 難しい課題があると、私はいろいろな人を集めてしまうというのはあるかもしれません。
赴任してきた発電所や大崎クールジェンでの経験が大きいのですが、何かというと、技術者の方たちのすごさでした。例えば、データを眺めていて「何故こうなっているんだろう、改善したほうがいいのではないか」と思ったことを、同僚や関連会社の方、作業員さんにぶつけると、しっかり考えて答えを返してくれる。何なら解決までしてくれる。だから、何か「問い」があった時に自分一人ではどうにもならなくても、みなさんの知恵を集めれば解決できるということ、そこは信じていますね。
このエリアンサスのプロジェクトも同じで、研究者だけでなく、多くの方々が主体的に関わってくださって、進んでいます。それぞれの専門性とか、経験を持った人たちが、力を発揮できる場を作ることが大切だと思っています。

井手 例えば農業系の展示会にも出展されたそうですね。
紺野 出展したのは、農業関係で日本最大と言われる「農業WEEK(通称:J-AGRI)」です。根っこは同じで、「まず聞かないとな」というところなんです。
エリアンサスのプロジェクトで訴求したい価値は、先ほどの2つです。J-POWERの社内で議論している分には「そうだよね」となるのですが、この取り組みが本当に耕作放棄地問題の解決につながるのか、本当のところ、私には全然自信がありませんでした。
だったら、聞いてみるしかない。一番「手っ取り早い」方法が展示会でした。私たちのコンセプトを伝えて、本当にその課題を持っている人がいるのか、エリアンサス栽培というアプローチは効果的なのか、ブースに来られた方に直接伺う。それをやらないと、何を研究開発するかが曖昧になってしまう。研究は、出口を想定した時に具体的に決まっていくものだからです。
「放棄地が生きる。脱炭素で生きる。」というキャッチコピーを掲げて、こういうコンセプトでエリアンサスの研究をやっています、という展示をしました。来てくださったのは、農家さんだけではなく、自治体の方も多かったですね。J-POWERは農業分野ではまったくの無名で、「電源開発って何ですか」という世界です。それでも「耕作放棄地」のキーワードでチェックして、足を運んでくださる方がいた。耕作放棄地は、農業の世界では非常に大きな課題なのだと肌で感じました。いまのモチベーションの源泉は、そこにあるんです。
私たちの電気代を、里山に戻す
井手 今年(2026年)3月には、石炭火力発電所で石炭とエリアンサスの混焼試験を実施したことが発表されましたね。
紺野 はい。石炭火力では、石炭を細かい粉にして一瞬で燃やしています。エリアンサスもペレットに加工して、石炭と同じプロセスで同じように燃やせる状態をつくり、石炭に混ぜて焚けることを確かめることができました。

井手 エネルギーの量としては、どれくらいのインパクトになるのでしょう?
紺野 エリアンサス0.07ヘクタールの栽培で、一般家庭の1世帯分の電力量です。率直に言って、石炭全体の代替にはなりません。それでも、一助になればいいと思っています。マーケットとして成り立つこと。エリアンサスを栽培することで里山にきちんとお金が戻る仕組みがあること。この取り組みが、耕作放棄地を減らし、国内の里山の維持につながっていく。そういう形をつくりたいんです。
ただ、技術の実証はそこまで来ているのですが、制度の壁があります。FIT(Feed-in Tariff/固定価格買取制度)の認定を受けている発電所では、エリアンサスを燃料として使えないのです。木質バイオマスと呼ばれる林業由来のバイオマスはFITの対象ですが、畑で栽培する草本系のエネルギー作物は対象外になっている。J-POWERにバイオマスをハンドリングする設備があっても、焚けないというのが現状です。
ニーズもマーケットも、制度しだいで変わっていきます。私たちが所属する技術開発部の役割には、制度へのアプローチと、そのための技術を積み上げることの両方があります。技術と社会と制度を、うまく回して行けたらと思います。ここはイノベーション推進部とも連携しながら進めていきたいですね。
紺野 亜紀子(こんの・あきこ)
電源開発株式会社
技術開発部 研究推進室(戦略企画) 統括マネージャー
井手 一久(いで・かずひさ)
電源開発株式会社 経営企画部 兼 イノベーション推進部

電源開発株式会社
技術開発部 研究推進室(戦略企画)
統括マネージャー
紺野 亜紀子
Akiko Konno

経営企画部 兼
イノベーション推進部
井手 一久
Kazuhisa Ide

電源開発株式会社
技術開発部 研究推進室(戦略企画)
統括マネージャー
紺野 亜紀子
Akiko Konno

経営企画部 兼
イノベーション推進部
井手 一久
Kazuhisa Ide
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