CREATING NEW FUTURES TOGETHER

Innovative Voice

更新日:2026.9.7

公開日:2026.9.8

置くだけで充電できる街をつくる——ベルデザインが目指す、ワイヤレス給電の社会実装【前編】

    飛行機や発電所をはじめとする、人命や財産に関わる産業インフラの電源を手がけてきた老舗メーカー、株式会社ベルニクス。その信頼ある技術を土台に、2019 年に社内ベンチャーとして生まれたスタートアップが株式会社ベルデザインです。ワイヤレス給電を街のイ
    ンフラとして社会実装すること、そして「エネルギーに色をつける」こと。この 2 つをテーマに掲げ、ワイヤレス給電プラットフォーム「POWER SPOT」を駅やオフィス、ゴルフ練習場へと広げています。ベルデザイン代表取締役 CEO の鈴木健一郎氏に、ベルデザインが目指す電源インフラのかたちを聞きました。聞き手は J-POWER(電源開発株式会
    社)経営企画部 兼 イノベーション推進部の井手一久です。

    産業インフラの電源に求められる高い信頼性を土台に

    井手 ベルデザインの事業内容を教えてください。

    鈴木氏 ベルデザインは、ワイヤレス給電の技術を街のインフラとして社会実装していくことをテーマにしています。もうひとつのテーマが、「エネルギーに色をつけること」です。いま使っている電気が、再生可能エネルギー由来なのか化石燃料由来なのか、分かった上で給電してもらう。そういうワイヤレス給電を使った充電スポットや機器を、世の中に普及させていくことを目指しています。

    井手 鈴木さんの経歴をお聞かせいただけますか?

    鈴木氏 私は電気工学を学んで半導体商社に入りまして、しばらく半導体ビジネスに従事していました。その後、父が経営する産業機器向けの電源メーカー、株式会社ベルニクスに入社しました。社長に就任したのはいまから10年前のことです。

    ベルニクスは、鉄道や発電所、飛行機、医療機器や通信機器など、ありとあらゆる世の中の産業インフラとして動いている電子機器の中に「電源」を入れています。電源というのは、皆さんの身近なものでいうとパソコンのアダプターですね。電車や飛行機の場合、一口で電源と言ってもそれぞれのサイズ、それぞれの用途に合わせた規格があります。その規格に合わせて我々ベルニクスが電源をつくっています。特に当社が電源を提供している施設やモビリティは人命、財産、ライフラインに関わる産業インフラですから、そのレギュレーションは非常に厳しく、高い信頼性が求められます。

    「それって便利だよね」からはじまった

    井手 ベルデザインはどのような経緯で生まれたのでしょうか?

    鈴木氏 産業機器で使われている技術に、ワイヤレス給電というものがあります。ベルニクスではそれを開発しているのですが、我々がいつも思っていたことがあります。産業機器の中ではワイヤレス給電が安定的に使われていて、どんどん技術が向上しているのに、社会や生活といった、いわゆる身の回りでは、電源といえばコンセントにつながなきゃいけないものですよね。産業インフラと生活インフラに「技術ギャップ」のようなものを感じていました。

    例えばワイヤレス給電が机の中に仕込まれていたら、携帯電話をそこに置くだけで充電できます。「それって便利だよね」というようなことを社内でよく話していました。だけど、「我々みたいな産業機器メーカーが世の中の生活インフラを変えていくのは難しいよね」とも。ベルデザインにつながるひとつの火種がポツポツと生まれたのは、そのときだったのかなと思っています。

    井手 ワイヤレス給電の仕組みについて教えていただけますか?

    鈴木氏 ワイヤレス給電にはいろいろな方式があります。光伝送、マイクロ波伝送などありますが、効率もよく一般的に使われるのは「電磁誘導方式」と言われる磁気を使った方式です。電気エネルギーを磁気エネルギーに変えて、空間を伝送します。電気エネルギーというのは電線で発電所から送電され、コンセントに電線を挿す、電線の中を電気が通ってくるわけですけども、ワイヤレス給電はそれを磁気エネルギーに変えて、空間に磁気を飛ばし、磁気で受け、電気エネルギーに変換する。磁気になると空間を飛んでいけるので、ガラスとか木材とか、プラスチックの中を送電することができます。

    井手 有線に比べて効率が落ちるということはないんですか?

    鈴木氏 実は一番効率良く安全に電力を飛ばせるのが、磁気を使った方式です。スマートフォン向けのQi規格では最大25Wですが、ベルデザインの「POWER SPOT」は50Wまで電力を伝送できます。コイル間の電力伝送効率は95%で、実は有線での充電時間とほとんど変わりません。

    井手 ちなみに、部屋の中にいたら勝手に充電されるような技術は難しいんでしょうか?

    鈴木氏 磁気では距離が伸びません。マイクロ波を使うことになりますね。ただ、マイクロ波で携帯電話を充電できるほどの電力を入れるということは、電子レンジの中に住んでいるみたいな状態になるので、非現実的かなと思っています。光に電気を乗せるという技術もありますが、これはボタン電池くらいの電力しか送電できません。

    先ほどワイヤレス給電にはいろいろな方式があると言いましたけども、例えば部屋のセンサーのような小さなものは光方式でもいいし、人間がいないような場所ではマイクロ波で飛ばしても全然問題ないと思うので、使用場所や条件に合わせて使い分けていくような感じになるかなと思います。

    ワイヤレス給電はすでに身近なところにも

    井手 もともと産業用の電源機器をつくる中でワイヤレス給電の技術があったということですね。

    鈴木氏 10年くらい前までは、効率が悪く「ワイヤレスよりワイヤード(有線)の方がいいよね」というのが一般的でした。それが技術革新が進み、劇的に送電効率が良くなっていきました。

    そうすると、本当はケーブルレス、ワイヤレスでやりたかったような場所や設備に使えるようになる。例えば防犯カメラ。ケーブルでカメラに給電しているとケーブルが断線する恐れがあるので、360度カメラを回すことができないが、ワイヤレス給電なら断線はしませんので、360度カメラは回ります。ロボットのアームなどもケーブルで可動域が決まりますので同じですね。屋外での充電や給電にも効果的です、コネクターなどの差し込みがないので、屋外での漏電や感電がありません。ドローンも、UUV(Unmanned Underwater Vehicle/無人潜水機)は無人で自走したいわけですが、ケーブルに挿す行為は人間がしなくてはなりませんが、ワイヤレスなら接地したり吸着するだけで給電されます。そういった用途でワイヤレス給電が徐々に採用され、送電電力も大電流化していき、効率も改善してきたのが、ここ10年くらいの技術の発達です。ひとつの方式として確立してきたのかなと思います。

    鈴木氏 ワイヤレス給電の主な市場は産業インフラ、社会インフラです。医療機器では、例えば内視鏡、あとはAGV(Automated Guided Vehicle/無人搬送車)と言われる、工場内で搬送するロボットですね。身近なところだと、自動車の充電だとか、電動歯ブラシだとか。あまり知られていませんが、10年くらい前からスマホには標準で搭載されています。「スマホには10年前から搭載されているのに、充電する場所がどこにもない?」ということを疑問に感じていたわけです。ワイヤレス給電は便利ですし、すでにスマホに実装されているのだから、街中で気軽に置くだけで充電できるように、ワイヤレス給電を街にインストールし普及させたいと、ベルデザインは考えているのです。

    提供するのはプロダクトからインフラへ

    井手 具体的にベルデザインで提供しているものについて教えてください。

    鈴木氏 もともとは産業機器用の電源しかつくったことがなかったんです。それを生活インフラに変えるということは、一般の消費者の人たちが手に取る製品をつくらなきゃいけない。ここが最初のハードルでした。

    まずは、「POWER SPOT」の送電部「HOME」と言われる製品と、あとは「MUG」と言われるタンブラー、これらをつくっていこうと考えました。送電部は電源なので得意分野です。タンブラーも最初は自分たちでつくっていましたが、いろいろな規制をクリアするには自分たちだけではできないねとなりまして、いくつか訪ね歩いたところ、象印さんが「一緒にやりましょう」と言ってくれた。この「MUG」が、ベルデザインで提供した最初の、生活インフラとしてのプロダクトになります。

    POWER SPOT® HOMEから給電されるPOWER SPOT® MUG

    (POWER SPOT® HOMEから給電されるPOWER SPOT® MUG)

    それがきっかけになって、「POWER SPOT」が東京ミッドタウン八重洲の中や、新横浜駅などに設置されるようになっていきました。「もっと広げたい、もっと誰もが知るような充電場所にしたい」という思いがありますので、今度は「充電スポットとしてのワイヤレス給電機」として、事業を第二フェーズに移しています。

    井手 充電スポットを普及させるというと、「POWER SPOT」の送電部が公共空間の机やベンチに溶け込んでいるようなイメージでしょうか。

    鈴木氏 そうですね。駅のベンチだとか、カフェの机だとか、あとはオフィスの中の机の中とかに埋め込んでおくということができて、そこに携帯電話を置けばすぐに充電ができる。これがインフラとしての目標です。

    インプレッション100%の広告メディア

    井手 これまでの事業には何かハードルはあったのでしょうか?

    鈴木氏 最初の構想は、「POWER SPOT」の「HOME」を商業施設などにインストールしていただいて、その上で動くプロダクトとして象印の「MUG」タンブラーがある、という仕掛けでした。新しく駅やビルを建てるときには「やろうやろう」と言ってもらえますが、すでにある施設にあとから設置するとなると、その設備投資の予算がなく。

    そこで、新しい仕組みとして「POWER SPOT」の「HOME」は無料で設置できないかと考え、生まれたのが「POWER SPOT GO(パワスゴ)」というサービスです。26年3月から順次展開を始めました。給電のための鍵がデジタル化されていて、単にスマートフォンを置いても充電されない仕組みです。Bluetooth(ブルートゥース)通信で「HOME」とスマホがやり取りをしていて、広告を専用アプリで見ていただくと鍵が開いて充電できるという仕組みです。広告を載せたい人たちから広告対価をいただいて、それによってハードウェアの設備投資を回収していくというビジネスモデルに変化させてきました。

    パワスゴ HOME / パワスゴ HOME-inside

    井手 アプリに広告を出稿する企業があって、その広告費が原資になって「POWER SPOT GO」が各地の施設にインストールされていくということですね。反響や感触はいかがですか?

    鈴木氏 最初は皆さん普通のデジタルアプリ広告みたいに捉えていましたが、ちょっと違います。掲載場所が「POWER SPOT」があるところに限定されているので、駅の看板広告のような側面もあり。また、広告はアプリを介して、利用者の属性にあった広告が流れます。駅の看板広告とアプリ広告をミックスしたような、新しいメディアとも言えます。特許出願してから営業をしていたのですが、最初はこの2つの広告媒体をミックスしていることが広告業界の人たちに分かっていただけませんでした。いわゆるアプリ広告のような「インプレッション数がいくつだから価格はいくらで販売する」というやり方ではなくて、「この設置場所に広告が出せる」という発想です。「最初に広告を見ないと充電できないようになっているので、インプレッション100%のデジタル広告です。それをどう使いますか?」という形の売り方にしました。徐々にですが、いろいろなところに設置が進んでいます。

    井手 今、どれくらい設置されているんですか?

    鈴木氏 ゴルフ練習場にPoC(Proof of Concept/概念実証)で入れていますが、すごく好評です。ゴルファーの方は富裕層も多いですし、ユーザー層も非常に広い。この対象に広告を出したい人たちがいる。これが反響になって、今、ゴルフ練習場でかなり広がっています。あとはシェアオフィスで、トータルで今、500カ所くらいですね。どんどん増設していくので、年内には1,000カ所くらいには増えるかなと思っています。

    見分けがつかない電気に、色をつける

    井手 将来の展望として、まずはインフラを整備することが必要かと思いますが、その先に描いているものを教えてください。

    鈴木氏 「POWER SPOT GO」の取り組みにいろいろな企業が参加し始めています。これをいろいろなところに設置して、どこへ行っても無料で充電できるという環境をつくりたいと思っています。ユーザーも無料で充電できるし、設置する側も無料で設置できる。この仕組みができてくると面白い。

    その後には、いくつか展望があります。そのうちのひとつは、冒頭にお話しした「再生可能エネルギーと組み合わせること」です。

    課題として感じていることが、再エネのタッチポイントって分かりにくい。電気って「色がない」ですよね。発電する場所は当然分かれていますが、送電網に乗った瞬間に色がなくなるので、コンセントにどんな電気が来ているか分からないわけです。施設としては再生可能エネルギーが何%来ているか分かっていますが、実際に来店しているユーザーにとっては、再エネをどれだけ使ったのかは分からない。ユーザーが今使っているのは再エネだと感じてもらえるような、タッチポイントとしてのワイヤレス給電というのが、次に取り組むソリューションかなと思っています。

    井手 J-POWERでも今、「環境価値プラットフォーム」というプロダクトを開発しています。GHGプロトコルという国際標準の改定に向けて、発電した電気と使っている電気をマッチングする仕組みです。親和性が高そうですね。

    鈴木氏 もともとベルデザインは、J-POWERから出資を受けて事業をスタートさせました。電気の出口をワイヤレス給電化するところから始まりましたが、今後は再エネを可視化する技術を含め、発電と出口をさらにつなぎ合わせていくことができればいいと思っています。


    株式会社ベルデザイン:https://www.bell-design.co.jp/
    J-POWER イノベーション推進部:https://www.jpower.co.jp/innovation/

  • 株式会社ベルデザイン

    代表取締役CEO

    鈴木 健一郎 氏

  • 経営企画部 兼

    イノベーション推進部

    井手 一久

    Kazuhisa Ide

  • この記事をシェア

    株式会社ベルデザイン

    代表取締役CEO

    鈴木 健一郎 氏

  • 経営企画部 兼

    イノベーション推進部

    井手 一久

    Kazuhisa Ide

  • 関連記事

    About Innovation Catalog

    J-POWER Innovation Catalog〜未来を共創する羅針盤

    J-POWERイノベーション推進部は、「新たな未来を共に創造する」というミッションのもと、カーボンニュートラル達成と地域社会への貢献という大きな目標に挑戦しています。

    この度、私たちの取り組みやビジョンを社内外の皆様と広く共有し、具体的なアクションへと繋げるためのハブとして、オウンドメディア「J-POWER Innovation Catalog」を立ち上げました。本メディアは、私たちの活動を網羅的にお届けする目録(カタログ)であり、未来への羅針盤となることを目指します。

    イノベーションの最前線に立つ方々との対話、イノベーション推進部が投資し、共に社会課題の解決と新産業創出を目指すポートフォリオ各社、社内外のCVCネットワーク、そしてJ-POWERの保有するリソースやアセットといった点と点が、Innovation Catalogを通して有機的に繋がり、未来を紡ぐ。Innovation Catalogは連携を通して持続的な世界を築く、未来を照らすカタログです。