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データセンターの隣に生まれた「小さな地球」――チョウザメと野菜を同じ水で育てる、アクアポニックスの社会実装【前編】
新潟県長岡市。データセンターに隣接した敷地に、チョウザメとレタスを同じ水で育てる農業用ハウスがあります。チョウザメの排せつ物を微生物が肥料に変え、野菜がその水を肥料として吸収することで、水は浄化されて魚に戻る。株式会社プラントフォームは、この循環型の食料生産方式「アクアポニックス」で国内初の大型プラントを稼働させ、全国19か所へシステムを展開。2025年10月からは、J-POWER(電源開発株式会社)と同方式によるバニラ栽培の共同実証も進めています。
前編では、プラントフォーム代表取締役CEOの山本 祐二氏に、データセンターの余熱から始まった創業の経緯を、J-POWER経営企画部 兼 イノベーション推進部の井手 一久が聞きました。
水産養殖と水耕栽培を同時に行うアクアポニックス
アクアポニックス長岡プラントに入ると、手前の水槽ではチョウザメが底を這うように泳ぎ、隣のレーンでは白いパネルに定植されたリーフレタスが水に浮かんでいます。プラントフォーム ライフサイエンス部の八巻 慶汰氏は、この仕組みを「魚の排せつ物を、野菜の肥料として使う技術です」と端的に説明します。

アクアポニックスは、「水産養殖(Aquaculture)」と「水耕栽培(Hydroponics)」を合わせた造語で、米国で生まれた農法です。魚の排せつ物に含まれるアンモニアを水中のバクテリアが硝酸へと変え、野菜の根がそれを吸って育ちます。野菜が自然のろ過フィルターの役割を果たし、浄化された水は養殖槽へ戻るため、排水処理が不要で、蒸発した分の水だけを足せばよく、大規模な水替えを必要としません。

自然光のハウスで、キャビアとレタスを育てる
養殖の主力はコチョウザメです。キャビアが採れるのは基本的にはメスだけ※ですが(稀にオスでも卵を持つことがあります)、外観では雌雄判定が難しいため、これまでは生きている魚のお腹を割いて、生殖器を直接目で見て判定を行っていました。しかし、プラントフォームは世界的にもアニマルウェルフェアという考え方が浸透する中、この作業工程に疑問を呈し、開腹工程を廃止。魚の皮膚組織や粘液等からDNAを採取することで雌雄を判別する技術を実用化し、魚を傷つけずに選別しています。2019年にチョウザメの養殖が始まり、2023年春にはアクアポニックスとしては国内初となる養殖キャビアの生産に至りました(新潟県で生産したチョウザメによるキャビアの生産販売は新潟県初)。

水耕栽培野菜の主力はリーフレタスですが、他品目の生産も行っています。2022年からイオンで通年販売を開始し、2024年には新潟大学との共同研究を経て、アクアポニックス野菜で国内初の栄養機能食品としての発売を実現しました。

農薬も化学肥料も一切使わないアクアポニックス長岡プラントと、一般の植物工場との大きな違いとして八巻氏が挙げたのは、人工的なエネルギーへの依存度が低いこと、また苗を育てる段階から一貫して養殖水由来の肥料を使っていること。
光は基本的に自然光で、ハウス内の温度管理には、水の気化熱を利用して空気を冷却する環境配慮型の空調システムを採用しています。

プラントフォームはこのアクアポニックスのシステムを、企画・設計・施工から運営支援まで含めて外部に提供し、これまで全国19か所に導入してきました(2026年時点)。チョウザメは出荷までに数年を要します。その飼育期間は水耕栽培の野菜販売で事業を展開し、並行してキャビアの販路を開く。八巻氏は、この組み立てを「経営デザインとして提案している」と表現しました。
山本氏は、データセンター事業を手掛けてきた起業家です。リクルートなどでBtoBのマーケティングや新規事業開発に携わった後、2016年に長岡市で雪冷熱と外気を使うグリーンデータセンター企業を創業し、そのデータセンターから出る排熱などの余熱を活用して食料生産を行う事業の実現を目指して2018年にプラントフォームを設立しました。対談は、プラントの見学に続けて収録しています。
アクアポニックスという「システム」を販売する
井手 Innovation Catalogでは、カーボンニュートラルと地域社会への貢献をテーマにお話を伺っています。まず、プラントフォームがどういう会社なのか、教えていただけますか?
山本氏 プラントフォームは、アクアポニックスという循環型の新しい食料生産の仕組みを、植物工場として開発し、そのシステムを販売する事業を行っています。
アクアポニックスは国内の実績がまだまだ少ないため、市場の可能性を探りながら進めてきました。当初は農家さんや農業関係者からの問い合わせが多く集まるのではと想定していたのですが、ふたを開けてみると、農業とはまったく関係ない企業からの問い合わせが9割5分という割合でした。
井手 異業種からの新規参入ということですね。
山本氏 そういうことになります。例えば、既存事業のマーケットがシュリンクしている会社の新規事業として、アクアポニックスを検討していただくケースですね。それ以外も含めてこれまでの問い合わせ実績で言うと、製造業、不動産業、建設業が多いですね。少し意外なところでは、葬儀屋さんやパチンコホールを運営されているような企業様もいらっしゃいました。
みなさん初めて農業に参入するので、システムを購入したとしても自分たちで運営できるのか。生産できても販売網を持っていないため、そこもサポートを受けられないのか。このようなご相談が非常に多いです。ですから私たちは、システムの販売だけではなく、生産運用のサポート、生産物の買い取り、販売先の紹介や営業の指導、いわゆる営農サポートもサービスとして提供しています。

井手 直営のプラントで生産し、その稼ぎだけの事業ではないということですね。
山本氏 長岡の直営プラントで、お客様より先に運用ノウハウを蓄積し、さらには販路を開拓する。これから参入する企業や農業法人の事業の成功確率を1%でも高めるために、各々の領域でできることを模索し、それをサービスとして提供できるように形作るビジネスモデルです。したがって、長岡だけでなく、立地を問わず日本全国で事業が行えるよう、流通まで含めて私たちが営農をサポートする形を目指しています。
重要なのは循環を保つバランス
井手 今日は、ここアクアポニックス長岡プラントにお邪魔しています。先ほどはチョウザメとレタスを育てている現場を拝見しました。魚と野菜の量は、どのように決めているのですか?
山本氏 アクアポニックスは、基本的にエネルギーのバランスが重要です。魚の排せつ物を植物が肥料として吸収して成長する。実はこの仕組み、視点を変えると植物が水を浄化してくれているとも言えるんですよ。
一般的な養殖では、魚の排せつ物が水槽に蓄積していくと毒素となり、水を汚していくため、最後は魚自身がその水で死んでしまいます。それを避けるため、通常はプールの水替えをしたり、大規模なろ過装置を導入したり、お金と時間をかけて水をきれいにするんですけれども、アクアポニックスの仕組みでは、そのろ過機能を植物が担ってくれる。植物が栄養を吸った後の水はきれいになっているので、また魚のプールに戻すことができるんです。
井手 循環型と言われるゆえんですね。その循環を保つバランスというのは。
山本氏 養殖している魚の量と、そこから出てくるエネルギーの量、そしてそれをしっかり吸い切ってくれる植物の量。このバランスを保つことが、アクアポニックスの最も大事なところです。オーソドックスなアクアポニックスの場合、比率は魚が2、野菜が8くらいになります。視覚的に分かりやすく表現すると、圃場の面積比で2:8になる感じです。
データセンターと食料生産を結びつける
井手 山本さんがアクアポニックス事業を始めたきっかけを教えてください。
山本氏 きっかけは、まったく別の事業でした。もともと2015年頃に、地方でデータセンターの事業を始めようというところからスタートしています。当時は生成AIという言葉も知られていなかった時代で、「ビッグデータ」という言葉が流行っていた頃です。すでに動画やブロックチェーンなどの高速演算処理のためにハイスペックなサーバーが必要になり、そういった設備がものすごく電気を使うことになると理解していました。

井手 本社は長岡ですね。なぜ長岡に?
山本氏 データセンター事業は特殊な原価構造をしていて、原価の8割が電気代なんです。内訳としては、サーバーなどのIT機器を動かす電気代が4割、そのIT機器を稼働させると放出される熱を冷却するために、空調代としてまた4割の電気がかかっています。
長岡は寒冷地で雪も多い。データセンターを長岡に置けば、低い外気温に加えて、冬に雪をためて夏場の空調に使うことで、1年を通して自然エネルギーだけでデータセンターの冷却を賄えるのでは、と考えました。
井手 データセンターから、どうアクアポニックスにつながるのですか?
山本氏 今、データセンターって、都市部になければいけない理由があまりないんです。昔はいざというときにエンジニアがすぐに駆け付けられるように都市部に集中していたんですが、現在ではクラウド利用により、ほとんどのケースで遠隔メンテナンスが可能となり、現地に行かなければいけないという場面はほとんどなくなりました。であれば首都圏にある必要はないし、電気を大量に使うなら地方に持ってきた方が効率もいい。
加えて、東京でデータセンターの余熱を活用しようとすると、土地代と場所の問題で実現が難しいのですが、長岡であればそれらは融通が利く。
つまり、地方であればデータセンターの余熱を回収して、食料生産に結びつける新しい循環型のビジネスモデルを実現することができるのではないか。そういったことまで想定をしていました。生活の中のイメージとしては、私たちが日々仕事をしたり家に帰ってスマートフォンで動画を見たりするエネルギーが、回り回って食料生産につながっている。この仕組みはものすごく面白い。植物工場をデータセンターに隣接して建てれば実現できるのではないか? これがプラントフォーム創業のきっかけです。
アクアポニックスの現場で受けた衝撃
井手 植物工場といえば、閉鎖環境の中で大量のLEDを照射する多段式のものが一般的なイメージかと思います。それらとアクアポニックスとは、どう比較されたのですか?
山本氏 当時の私は農業に関する知見は持っておらず、植物工場の仕組みにも詳しくありませんでした。データセンターの余熱を食料生産に結びつけようとリサーチを始めたことで、初めて植物工場のことも学んだのですが、調べてみると植物工場はデータセンターの事業構造とすごく似ていることが分かりました。植物工場は勝手なイメージで中を「温める」ものだと思っていたのですが、多段式LEDの閉鎖型の工場は実はその逆で、中ではずっと冷却を行っていたんですよ。LEDとはいえ、大量に密集させて使用すると熱を発するため、その熱で植物がやられてしまいます。そのため、植物工場の中は常に冷房を効かせている。つまりデータセンターのエネルギー構造と同じなんです。
したがって、データセンターの余熱活用と植物工場は相性がすごく悪い。余熱をダイレクトに使えないので、フィットしない。これが大きな課題になりました。

もう1つ、これは課題というか私個人の思考に近い話になりますが、日本の植物工場の歴史は古く、世界的にみても早い時期から取り組んでいて、1980年頃にはすでに実現していた技術なんです。産業として成立しており、事業者もたくさん存在しているマーケットのため、せっかく新しいことをやるのに、そこに参入するのはもったいないし、面白くないと思ったんです。
そのような状況の中で、やはり誰もやっていないことをやりたい。「従来型の植物工場と違う形で食料を作る仕組みはないのか」と調べていたときに、出会ったのが、アクアポニックスという循環型の技術でした。その仕組みを聞いた瞬間、「何これ?」と。しかもすでに日本でアクアポニックスをやっている方が埼玉にいるという情報があって、それを聞いてすぐに連絡を取りました。これが、私がアクアポニックスに引き込まれていったきっかけです。
井手 それは、余熱を活用する循環型の農業と理解すればいいですか?
山本氏 正しく伝えると、できるだけ自然の形を再現して食料生産をするという仕組みであり、思想ですね。アクアポニックスは「小さな地球」と呼ばれることもあるんです。まさに、自然に近い形で生産する技術です。埼玉で視察したのはビニールハウスと養殖のシステムを組み合わせたもので、当時はまだ植物工場と言える規模ではなかったんですけれども、実際に魚の排せつ物を使って野菜を育てていました。その現場を目の当たりにして、その瞬間に「絶対これをやろう」と思ったくらい感銘を受けましたね。
データセンターのエネルギーとアクアポニックスの循環というストーリーが見えた瞬間でもありました。
井手 アクアポニックスの会社は国内にもいくつかあると思いますが、その中でプラントフォームの強みを教えてください。
山本氏 実は、私が初めて見学したその埼玉のプラントを運営していたのが、当社のCTOのワイコフ尚江です。私はアクアポニックスの技術をまったく持っていなかったので、埼玉の彼女のもとに2年くらい通いました。その中で「一緒に事業を立ち上げませんか」とお誘いをして、一緒に作った会社がプラントフォームです。ワイコフは川越の蔵の再生などを手掛けてきた、何百年と続く大工さんの後継ぎでありながら、当時、国内で最もアクアポニックスに詳しい、この領域の第一人者でした。2011年から日本国内で試験栽培を続けてきており、その知見に基づいてこの仕組み、技術を組み上げているところが、プラントフォームの強みになっていると思います。
株式会社プラントフォーム https://www.plantform.co.jp/
J-POWER(電源開発株式会社) https://www.jpower.co.jp/

株式会社プラントフォーム
代表取締役CEO
山本 祐二氏
Yuji Yamamoto

経営企画部 兼
イノベーション推進部
井手 一久
Kazuhisa Ide

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