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更新日:2026.9.18

公開日:2026.9.16

「太陽の原理を地球で」14歳の問いを、市長の8年を経て解きにいく——Starlight Engine東修平氏が挑む2035年のフュージョン発電実証【前編】

    「太陽の原理を地球で実現できれば、人類は平和になるんじゃないか」。科学雑誌に見つけた問いを、大学院でのプラズマ研究、外務省、そして全国最年少市長として担った2期8年を経て、いまスタートアップで社会に実装しようとしている人物がいます。Starlight Engine株式会社(以下「Starlight Engine」)は、2030年代のフュージョンエネルギー発電実証を目指すプロジェクト「FAST(Fusion by Advanced Superconducting Tokamak)」の事業主体。その副社長 執行役員 CSO(最高戦略責任者)を2026年4月から務める東 修平氏は、法律も前例もない「未知の領域」で、フュージョンを社会へ運ぶ戦略を描いています。本稿では、研究者、そして市長の経験を携えてフュージョン業界に戻った理由と、人類史上最もチャレンジングな領域にスタートアップが挑む価値について伺います。聞き手は、Starlight Engineのグループ会社である京都フュージョニアリングに2023年から出資するJ-POWER(電源開発株式会社)経営企画部 兼 イノベーション推進部の井手 一久です。

    人類にとって未知の領域に踏み出す戦略を描く

    井手 Starlight Engineはどのような会社なのでしょうか。

    東氏 Starlight Engineが掲げるミッションは「私たちが、フュージョンエネルギーを実現する」です。これからフュージョンプラントを実装していき、人類がフュージョンエネルギーにアクセスできるようにしていく。そのために、プラント全体のシステムを設計し、すべてをコーディネートする。それが主な役割になります。

    グループ会社の京都フュージョニアリングは、世界のフュージョンスタートアップのなかでも特殊なポジションを占めています。どのフュージョンスタートアップも最終的にはプラントを作っていくわけですが、京都フュージョニアリングは、そのプラントを作るうえで重要なコンポーネントや周辺機器を開発する会社です。私たちStarlight Engineはその開発技術としっかり連携しながら、世界に先駆けて発電実証、そして商用化を進めていく。こういう役割分担になっています。

    井手 東さんの務めるCSOは、Starlight Engineにおいてどのような役割を担うのでしょうか。

    東氏 フュージョン(核融合)は人類にとって「未知の領域」です。そもそものルールもありませんし、社会実装していくうえで障壁がどこにどれだけあるのか、まだ誰にも分かっていないという状況です。そのなかで、日本国内でフュージョンエネルギーを成立させていくために、いつ頃にどういう目標を置くのかを描き、ステークホルダーを見出すところから始めて、どうアプローチしていくかまでを設計する。そして交渉を進め、皆さんに情報発信をしていく。そういうことも含めた全体の戦略を担うのがCSOの職責です。

    井手 ステークホルダーには、いろいろなレイヤーがありそうです。

    東氏 かなり幅広いですね。わが国にはフュージョンエネルギーに関する法律自体がありませんから、法律を作る主体である国会議員の皆さんや、政府、霞が関の皆さんがいます。発電実証炉をこれから設置していく自治体の皆さんもいますし、公共機関だけではなく経済団体や地域住民の皆さんとも当然コミュニケーションを取らなければなりません。電気を生み出すものですから、電力会社や需要家といわれる皆さんとも話す必要があります。

    そして、ディープテック領域はどうしても国家間のシビアな競争環境に置かれます。国が施策を進めていくうえで最も重要な理解者は国民です。どれだけ分かりやすくフュージョンを伝えていくのかも大切なことだと捉えています。

    フュージョンを通して平和な世の中を実現する

    井手 東さんのご経歴を伺えますか?

    東氏 もともと大学では、フュージョンの研究をしていました。私の専門は「プラズマ」です。核融合反応を起こす粒子がどう動くのかをシミュレーションしていました。修士課程に上がるときに、東日本大震災が起こります。福島第一原子力発電所事故を通して、政府に科学技術の深い知識を持った人間がいたほうが社会は良くなるのではと思い、国家公務員を目指すことにしました。外務省に入ったあと、野村総合研究所に移ってインドで働いていました。

    それからいろいろあって、28歳のときから、生まれ育った大阪府四條畷市の市長を2期8年務めました。2025年1月に任期を終え、2026年4月からStarlight Engineの副社長に就任しました。

    井手 プラズマの研究から外務省、そして市長を経験してからスタートアップへ。かなりの飛躍に見えます。

    東氏 もともとフュージョンを研究したいと思ったのも、14歳くらいのときに「Newton」という科学雑誌でフュージョンを知ったからです。太陽の原理を地球で実現できれば、人類が平和になるんじゃないか? 当時の私はそう思いました。「子どもっぽいな」と思うんですけど、そのときから現在に至るまで、基本的な考えは変わっていません。エネルギーであれば偏在性など、不公平な世の中が少しでも良くなる、みんなが平和に暮らせるような世の中になってほしい。それが私の根本的な考えです。

    市長の8年が、社会実装の段階で生きる

    井手 四條畷市長を2期務めたのち、大学院で研究していたフュージョンの世界に戻ってきました。

    東氏 私は研究者としては、いま会社で働いている技術者たちと比べたら、はるかに劣ると思っています。修士までしか出ていませんしね。ただ、私には政治や行政という分野に携わってきた経験があります。例えば、フュージョンがまだ研究開発の段階であれば、より優れた研究者の方が重要ということは間違いありません。いまも技術や研究は重要なのですが、社会実装の段階に入ると、技術だけが成熟しても社会に実装されることはないんですね。そこで課題を乗り越えていくうえで、私が市長をしていた経験が生きる度合いは、10年、20年前に比べて非常に上がっているのではないかと思います。

    統合発電プラントを実際に地域に置いていくという段階になれば、受け入れる自治体がどういう発想になり、どういう手続きが必要になるのか。それは自分自身が市長時代に経てきたプロセスです。受け入れる側の気持ちに立って取り組みを進められて、かつフュージョンの技術的な説明も一定はできる。その両方を担うという意味では、役に立てるのではないかと思ったんです。

    井手 Starlight Engineが本格的に立ち上がるタイミングと、ちょうど重なったということでしょうか。

    東氏 そうですね。フュージョンの社会実装に歩みを進めていくという発表を新聞で読みました。Starlight Engineとして新体制を組んで進めていくというところで、タイミングがたまたま重なったということかと思います。

    井手 中学生のときにフュージョンを知り、さまざまな経験を経て、いまの立ち位置で実現に取り組んでいる。特異なポジションだと思います。

    東氏 特異かどうかは分からないですけれども、熱中してできる仕事ではありますね。子どもの頃はあまりよく分かっていませんでしたから、将来いまのような仕事をしているとは思っていませんでした。

    エネルギーは「国家の背骨」

    井手 東日本大震災以降、日本のエネルギー政策は大きく変わりました。原子力発電が担ってきた部分を今後どれだけ確保できるかは不透明です。そのなかで、フュージョンをどう位置づけていますか。

    東氏 エネルギーは「国家の背骨」だと思うんですよね。エネルギーなくしては何もできませんから、常に万が一に備える必要があると思っています。化石燃料から自然エネルギー、原子力発電、フュージョンエネルギーまで、現実的なポートフォリオをしっかりと組んで、国民の生活が毀損されたり、産業が成立しなくなったりすることが決して起こらないようにしていく。これは非常に大事だと思っています。

    ただ、そういう国家としての視点とは別に、地球はひとつです。グローバルな視点で見れば、温暖化のような問題も別途発生している。世界に対する責任と、日本を守っていくという観点の両方から見ると、フュージョンは「クリーンでグリーンなエネルギー」で、地政学的影響も受けづらい。そうした要素を踏まえると、今後の日本にとって有力な選択肢になり得るというのが、いまの私の考えです。

    井手 そもそもなぜ日本はここまでエネルギー安全保障の弱い国になってしまったのか。政治の分野にいらっしゃった立場から、どう見ていますか。

    東氏 なぜ弱くなったかという問いよりも、「ずっと弱い」のだと思います。歴史を遡れば、日本はエネルギーの欠乏によって、戦争という誤った道に突入していきました。戦後も産業が発達するにつれてエネルギーを使う量は増えていくなかで、わが国はどうしてもエネルギーを国外に依存しつつ、世界が連携して発展していくというモデルのなかで、経済大国になっていったわけです。

    ただ、現在は世界秩序がかなり壊れてきています。それによって日本のエネルギー問題が顕在化しただけで、構造は以前から変わっていない。それがいまの状況だろうと思います。

    井手 フュージョンは、燃料を自国で確保できる点も特徴です。

    東氏 おっしゃる通りです。わが国のエネルギーの輸入額は莫大で、国家としての赤字要因になっています。フュージョンの燃料は基本的に海水由来なので、自国で燃料源を確保していけるのが大きな特徴のひとつだと思います。

    チャレンジングであるからこそスタートアップで挑む価値がある

    井手 社会実装の時期は、どうデザインされていますか?

    東氏 これまで研究に携わってこられた皆さんの積み重ねがあってこそ、ようやく人類は社会実装と言える段階まで来ました。これが10年、20年前だと、フュージョンに対して社会実装という単語は使えなかったと思うんですよね。ようやくいま、何年後にどうなるというタイムスケールが引けるようになりました。

    先人が築き上げてきた物理的な実験結果をもとに、それらを統合して発電実証をしていこうと、FASTプロジェクトを進めています。2035年に運転を開始し、2038年から発電を始める。その知見をもとに、2040年代には商用化していく。これがいま、私たちが見ているタイムスケジュールです。

    井手 2035年の運転開始まで10年を切っています。発電所を作ることを考えると、かなりチャレンジングな目標です。

    東氏 タイムスケジュール的には、もちろんチャレンジングです。チャレンジングであるからこそ、私たちスタートアップが挑む意味があると思っています。

    世界を見ると、AIをはじめとして電力需要がどんどん高まっています。日本は資源国ではないので、きっちりと積み重ねて「いつできる」と言えることは大事なのですが、肝心なときにエネルギーがないというのは国家的損失です。チャレンジングであったとしても、必要な段階でエネルギーを生み出せる環境にいかに挑むか。そこが大事だと思っています。解決すべき課題はありつつも、2035年の運転開始は達成できるという思いのもとで、いま進めています

    ▶[後編:フュージョンが灯す社会と市場は、誠実さの上に築かれる——Starlight Engineが描く、2030年代の発電実証を地域と産業に据える道筋]


    Starlight Engine株式会社 https://sle.energy/
    京都フュージョニアリング株式会社 https://kyotofusioneering.com/
    J-POWER(電源開発株式会社) https://www.jpower.co.jp/

  • Starlight Engine株式会社

    副社長 執行役員 CSO

    東 修平氏

  • 経営企画部 兼

    イノベーション推進部

    井手 一久

    Kazuhisa Ide

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