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更新日:2026.9.10

公開日:2026.9.10

ベルデザインが切り開く、スタートアップという老舗中小企業の選択肢【後編】

    投資家には「どちらかの社長になってください」と迫られ、導入先の大企業には「実績はあるのか」と問われる——。老舗電源メーカー・株式会社ベルニクスの社長と、スタートアップ・株式会社ベルデザインの代表取締役CEO。2つの看板を掲げる鈴木健一郎氏は、その板挟みをあえて引き受けてきました。ワイヤレス給電の社会実装を聞いた前編に続き、後編では、新規事業部門ではなく「スタートアップ」という形を選んだ理由を深掘りします。見えてきたのは、日本の中小企業が次の道を探すための設計図です。聞き手はJ-POWER(電源開発株式会社)経営企画部 兼 イノベーション推進部の井手一久です。

    ▶[前編:置くだけで充電できる街をつくる——ベルデザインが目指す、ワイヤレス給電の社会実装]

    売り込む相手が、パートナーに変わった

    井手 鈴木さんはベルニクスとベルデザイン、2つの会社の経営者ですね。

    鈴木氏 そうですね。もともとベルニクスの社長をやっていたので、ベルデザインを始めるときは、「スタートアップといっても、中小企業と変わりはないだろう」と思っていたんです。けれど実際にやってみたら、全然違いましたね。

    井手 中小企業とスタートアップ、経営者の立場ではどこが違っていますか?

    鈴木氏 まず一番はマーケット、お客様ですね。中小企業は売り込みをするんですけど、スタートアップとしてお客様のところに行くと、「新しい事業を一緒につくっていくパートナー」のような形で見てもらえる。これは意外な反応で、すごくびっくりしました。

    もうひとつは、自治体などから出てくる補助金の数。スタートアップ向けの補助金は多いですね。国の政策として、スタートアップを育てて新しい産業を生み出すというところがあるので、「スタートアップです」「創業したばかりの会社です」と言うと、支援が手厚いです。もちろん補助金も大事ですけど、一番ありがたかったのはピッチイベントに呼んでいただけることです。

    スタートアップを基軸にしたいろいろなイベントを、自治体や企業、コンサルティング会社などが行っていて、「鈴木さん、ここで登壇しませんか」「ピッチしませんか」というお話をいただきます。そこで我々が話をすると、いろいろな方々がそれを見に来ているので、「こういうことできませんか」「一緒にやりましょうよ」とお話しいただける。これが新鮮ですね。

    変化するマーケット情勢で「何かやらなきゃいけなかった」

    井手 ベルデザインの母体であるベルニクスは、改めてどんな会社なのでしょうか?

    鈴木氏 生活に欠かせない社会インフラの元になる電源を設計・製造する電源メーカーです。例えば航空旅客機の機内照明に使われている電源の一部の機種は、ベルニクスが提供しています。飛行機には国際規格があって、それを満たした電源しか搭載できないんですよ。ほかにも、原子力発電所の電源や、病院の超音波診断装置などにもベルニクスの製品が使われています。

    従業員数は80人くらいです。昔は工場を持っていましたが、先代の社長が「これからの『ものつくり』は、製造より設計が中小の活路になる」と、リソースを『作る』から『創る』に変えていきました。いわゆるファブレス企業に変更し、従業員のほとんどはデザインエンジニアです。

    井手 ワイヤレス給電の事業化を始めたのはなぜだったのでしょうか?

    鈴木氏 父がベルニクスを創業してから今年で49年目になり、老舗メーカーということになりますが、技術も市場も変化し、何かしら新しいことをしていかなければいけない、という思いは常にありました。回路のデジタル化、新しい素材や最新の半導体の採用など、電源事業の中では、いろいろな新しいチャレンジを行ってきました。ただ、産業機器ではないマーケットに、弊社の電源技術を使い、社会課題に貢献できないかというようなことは、具体的に行動するところまでは進められていませんでした。

    きっかけは、世界の電気電子市場における製造業のマーケットチェンジが起きたことです。15年くらい前になると思うんですが、アジアの製品開発力や製造能力があがり、日本の最終製品メーカーは、中国や台湾や韓国のメーカーと競うことになりました。携帯電話の基地局だとか、医療機器だとか、今まで日本メーカーに強みがあった市場に、アジアのメーカーが参入してきました。私たち下請け企業への開発依頼は減らないのですが、量産のオーダーが来ないです。お客様に事情を聞きに行くと、「外国のメーカーに負けた」という説明を聞くようになりました。

    国内メーカーの市場競争力が落ちると中小企業の売り上げが減ります。何か手を打たないといけない。「弊社の社員と会社を守っていくためには、大企業からの発注を待っているだけでは駄目だ!強みの技術のマーケットチェンジをしないと」というのが、本当のところです。

    産業インフラの技術を生活インフラへ転用し、新たなマーケットに挑戦しよう。ワイヤレス給電は、これからの技術で、送電・充電をケーブルから解放できるはず、ライフスタイルを変えることができると考えるようになりました。

    井手 スタートアップではなく、社内の新規事業部門として展開していくやり方もあったと思います。別会社としてスタートアップを創業する形を選ばれた理由をお聞かせいただけますか?

    鈴木氏 プロダクトを開発して、いざリリースする段階になったときに、「これって社会の電気の配り方が変わる」「デジタル化したことで、再生可能エネルギーと化石燃料を色分けできるようになる」と。「スタートアップとして創業して、この事業の可能性をもっと広げたほうが良い、スケールできるかも」という話を、いろいろな方々からいただきました。その方々から出資を受け、スタートアップとして創立した、ということですね。

    信頼の裏付けとしてのベルニクス

    井手 VC(Venture Capital)から出資を受ける交渉をする中で、ベルニクスとベルデザイン2社の社長を兼ねる、いわゆる「ダブルハット」について、何か言われませんでしたか?

    鈴木氏 VCと話していると「鈴木さん、どちらかの社長になってください」という話になります。「どっちもやります」と言うと、「ダメ」と言われ、VCが出資するのはベルデザインですから、「ベルデザインに集中してください」となる。

    ただ、実際に提供する製品は、駅とか大学とか、重要なインフラの中に組み込まれます。最初はベルデザイン、つまりスタートアップとして打ち合わせしていますが、いざ導入する段階になると問われるのが技術の信頼性です。「ベルデザインの製品は、ベルニクスという老舗メーカーの原子力発電所や航空機で使われている電源のノウハウで管理しています」とお伝えします。すると「それなら大丈夫ですね」となるわけです。

    社歴の短い、実績も少ないベルデザインのプロダクトは採用されていない場所も多かったでしょう。何かあったときに誰もリスクが取れない。それがビジネスの現実ですよね。VCは「ダブルハットではなく、ひとつの会社に集中してください」と言いますが、導入するのは大企業です。「ベルニクスの実績がないと、ベルデザインの採用は進まない」と言っても、投資する側にはなかなか理解してもらえませんでした。

    井手 スタートアップが出資を受ける場合、VCからは「何年で成果を出す」といった期限も求められますね。

    鈴木氏 それもVCと話していて揉めた点です。だから最終的に、ベルデザインは独立系のVCからの出資を受けず、個人のエンジェル投資家とCVC(Corporate Venture Capital)に絞りました。

    井手 CVCを選択したのはなぜですか?

    鈴木氏 事業の性質上、共に共創できる事業シナジーを重視したいからです。例えば鉄道会社から出資を受けて、その駅に「POWER SPOT GO」を設置しましょう、といった観点です。

    培ってきた実績が、優れた技術を実装に結びつける

    井手 日本の産業構造の中で、ベルデザインの取り組みはどのように位置づけられるとお考えですか?

    鈴木氏 私がスタートアップと中小企業の両方を経営していて思うのは、日本にはスタートアップが少ない、成功しないと言われますが、日本には大企業を支えてきた、たくさんの中小企業が存在します。これらはスタートアップの卵です。土木、建築、化学、電気、他にもいろいろな業界に大企業があり、その下に、中小企業が無数に紐づいています。系列企業や大企業によって育て鍛えられた技術と品質が、日本の財産です。

    資源が少ないこの国においては、信頼性の高いものづくりができることは強みです。ものづくりの中心にいる中小企業が自らの立つマーケットを変えることができれば、スタートアップはもっと生まれます。産業向けの電源技術を生活の中で気軽に充電できるインフラに変えるみたいに、例えば自動車向けの技術を違うことに使うこともできるはずです。

    しかしスタートアップとして留意しなければならないのは、「まだ実績はないですが、この技術を電車に使ってください」とか、「まだ実績はないですが、この装置を東京駅に入れてもらえませんか」と言って簡単に認めてもらえるほど、日本はチャレンジャーに優しくない、ということです。結局、「実績はあるのか」「他社は使っているのか」と聞かれる。そこで例えば、「僕たちは大手自動車メーカーの下請けでやっていました」とか、「電力会社と開発し、生まれた技術です」と実績を伝えることで、認められやすいかもしれない。それは経験的に学んだことでもあります。

    中小企業の、次の道をつくる先駆者に

    井手 中小企業のままでは機会が限られるし、大企業の影響を受けやすい。スタートアップという形をとることで機会が広がる。中小企業としての実績は、大手との交渉材料になる。こうした構造に気づいていない中小企業は多いのではないでしょうか。

    鈴木氏 そうだと思いますね。特許庁の「中小企業のためのデザイン経営ハンドブック2」にベルデザインの事例が載っています。ハンドブックに載ってから、いろいろな自治体や経済団体にお声がけ頂き、中小企業の経営者を集めたセミナーの講師に呼ばれます。当社もまだ全然成功していませんが、成功するかしないかじゃなくて、まずはチャレンジしてほしい。中小企業に対して「新規事業でもスタートアップでもいいから新しいことをやってほしい、デザイン経営してほしい」と、自治体や行政が声をかけています。そういう流れが、今、日本では生まれてきているのかなと思います。

    井手 あらためて、スタートアップという形を選ぶ意義はどこにあるとお考えですか?

    鈴木氏 出資を受けるというのは、一緒にマーケットをつくる事業パートナーを得ることでもあり、これが大きな意義です。あとは、創業XX年の中小企業ではなく、スタートアップには多くの場が与えられる、チャンスの多さです。ここが一番大きいかもしれない。下請構造から脱却し、中小企業の次の道をつくる。その先駆者に我々ベルデザインがなれたらいいなというのが、私の思いです。

    ▶[前編:置くだけで充電できる街をつくる——ベルデザインが目指す、ワイヤレス給電の社会実装]


    株式会社ベルデザイン:https://www.bell-design.co.jp/
    J-POWER イノベーション推進部:https://www.jpower.co.jp/innovation/

  • 株式会社ベルデザイン

    代表取締役CEO

    鈴木 健一郎 氏

  • 経営企画部 兼

    イノベーション推進部

    井手 一久

    Kazuhisa Ide

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