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更新日:2026.9.28

公開日:2026.10.1

次の世代に、いい事業と人材を——Starlight Engine 菊地清貴氏が語る、フュージョンエネルギー実現への道筋【後編】

    2030年代のフュージョンエネルギー発電実証を目指すプロジェクト「FAST(Fusion by Advanced Superconducting Tokamak)」の事業主体であり、その先の商用化に取り組むStarlight Engine株式会社(以下「Starlight Engine」)。2026年4月、三菱商事の常務執行役員として、コンシューマー産業グループCEO、アジア大洋州地域代表(19か国、42拠点)を務めた菊地 清貴氏が代表取締役社長 CEOに就任しました。70年続いてきた研究を、どう社会実装に切り替えるのか。誰も見たことがないものを、誰と組み、どこで決めて前に進めるのか。後編では、「次の世代に、いい事業と人材を」を軸に据える菊地氏の経営について伺います。聞き手は、J-POWER(電源開発株式会社)経営企画部 兼 イノベーション推進部の井手 一久です。

    ▶[前編:事業を創り経営してきた37年の経験を携えて——菊地清貴氏がStarlight Engineで挑むフュージョンエネルギー]

    研究と社会実装では、求められるモメンタムが違う

    井手 これまでのフュージョンエネルギーの研究は、コンポーネントごとに進められてきました。それを実際の発電所として統合していくうえで、菊地さんが重視されていることは何でしょうか?

    菊地氏 「実現性にこだわる」と、私はいつも言っています。その背景にあるのは、「私たちが、フュージョンエネルギーを実現する」というミッションを決めたときの議論です。フュージョンは70年もの間、研究が続けられてきました。研究をしているモメンタムと、社会実装を本当に行うモメンタムは違います。その意識を変えなければいけない。これまで携わってきた方々には研究の領域でやってきた方が多いので、当社ではあえて「実現性」という言葉を掲げて、日頃の行動様式にも反映させたいと考えています。

    井手 ディープテックのシーズが研究から生まれるのは間違いありませんが、そのうえで、研究者の意識を社会実装へと変えていくことが重要なんですね。

    菊地氏 そこは、私のキャリアも含めて、様々な方々のキャリアの融合が力になるところです。バックグラウンドが異なる人間が自由闊達に議論するのはタフですが面白くて、私は研究の先のマネタイズ、ビジネスモデルをすぐに考えてしまいますが、研究者、エンジニアの方々は、専門分野の細部に喧々諤々こだわります。このように事業と研究開発・技術について具体的な議論を重ねて方向性を定め、修正しながら進むことで社会実装に行き着くと考えています。そういう意識で皆がフラットに各々の経験・知見から意見をぶつけ合う、また教え合う多様性に富む良いチームだと思います。

    AIの進化がもたらす変革のスピード

    井手 ITER(国際熱核融合実験炉)の計画の遅れもあり、フュージョンはまだまだ先だと思っている方もいます。私は話を聞けば聞くほど実現に近づいていると感じるのですが、異業種から入ってこられた菊地さんはどう感じますか。

    菊地氏 そもそもこの業界に入る前から簡単に実現できるとは思っていませんでしたし、今でも相当のハードルがあると認識しているので、そこにギャップはありませんね。乗り越えなければいけないハードルはいくつもありますが、長年にわたる研究の成果もあってそれぞれに打ち手の方向性があります。ただ、ひとつ乗り越えてもこちらが課題というトレードオフが必ず起こる世界なので、バランスを見ながら全体を統合していくことが求められます。相当の苦労と時間がかかりますが、社内外の英知と絶対に成し遂げるという情熱を結集すれば、必ず実現できると信じています。

    しかも、現在はAIという驚くべき進化を遂げる強力なサポーターがいます。当社のエンジニアやリサーチャーも、AIを積極的に活用し、目を輝かせながらシミュレーションを重ねており、そうした姿を見ていると、世界が変革するスピードが変わるだろうと感じます。人とお金が集まってくることがまず大事ですが、今はそこにテクノロジーも加わり、さらには、国家間の競争が熾烈になり、国家レベルで絶対に実現する、というコミットメントが加わっています。フュージョンエネルギーは「30年先のエネルギー」と言われ続けてきたことにピリオドを打つ、そんなタイミングに、いまこそ来ているのだと思います。

    井手 海外には、デジタルツインでプラントをつくると掲げているスタートアップもありますね。そうした手法も視野に入れていますか。

    菊地氏 デジタルツインで回すことで、変革のスピードを圧倒的に上げられますし、何より多くの失敗ができます。失敗を重ねられることが非常に大きいので、挑戦していく領域であると考えています。

    テクノロジーの前に、大義とコミットメントがある

    井手 例えばJ-POWERのような電力会社から、「FAST」プロジェクトへどのような人材が参加してほしいですか?

    菊地氏 そもそもJ-POWERは、その成り立ちからいっても大義のもとで進んできた会社ですし、社員の皆さんも、大義や意義のもとで入社された方が多いと思います。「地域とともに歩み、社会に安心安全を届ける」という意思が、皆さんの根っこにある。そういう使命を持った方と、まず共通項があると思います。

    加えて、フュージョンエネルギーはまだ世界で誰もやったことがないので、非常にチャレンジングです。そのため、「チャレンジしたい」「何が何でも成し遂げるんだ」という強いコミットメントを持ち続けられる方に参画していただきたいですね。

    井手 テクニカルな能力よりも、想いのほうが重要ということでしょうか。

    菊地氏 もちろんテクノロジーは非常に大事なので、専門家を多く集めたうえでの話ではあります。しかも発電所の建設となればプラズマや燃料サイクルといったフュージョンの専門性だけでなく、土木もあれば、地域社会との対話も必要です。様々な領域の皆さんが力を合わせて、このプロジェクトをつくっていく。誰も見たことがないものを、多様な専門性を持った人材が集まって挑戦し、実現する。これらに取り組む「FAST」は非常にやりがいのある事業だと思います。

    「この指とまれ」と旗を立てるエコシステム

    井手 (前編で)原子力のサプライチェーンがフュージョンにも重なるというお話がありました。フュージョンの産業クラスターにしていくこともお考えでしょうか。

    菊地氏 大それたことを言うつもりはないのですが、当社が中核企業として「この指とまれ」と、皆さんを集めてけん引する存在となっていきたいです。フュージョンの新しい産業を立ち上げます、皆さんでこの産業をつくっていきましょう、と呼びかける役割が大事だと思っていますので、そこを担っていきたいと考えています。

    「FAST」は1社、2社で完結できる事業ではないので、様々な方にお会いしてビジョンと勝ち筋を語り、深く得心の上、リソースを投入いただく必要があります。エコシステムをつくって、皆さんの英知と情熱でこのエネルギーを実現し、その先の産業化や日本から世界に輸出していくことを成し遂げたいですね。ありたい地球の姿に向かって、世界に貢献していきたいと思います。

    井手 こうした国家的な取り組みを、スタートアップが担う理由をどう考えていますか。

    菊地氏 もちろん、大企業はリソースもありますので実現できないとは思いません。一方で、大企業には過去からの成功の積み上げがあり、その延長線上に未来を考えがちですので、そこから大きく離れた選択がなかなかとりづらいという力学が働きます。

    比較してスタートアップは、「フュージョンエネルギーを実現します」という旗のもとに集まっていますので、ストレートにその目的に向き合っていけるのが強みですね。だからこそ、リソース豊富な大企業とスタートアップがうまく融合できたらいいと考えています。スタートアップだけで成し遂げるものではないので、スタートアップに大企業の皆さんのリソースを注入いただいて、エコシステム全体で前進させていくのだと思っています。

    井手 ステークホルダーを巻き込むために、いま工夫されているところはありますか?

    菊地氏 私自身がステークホルダーの方々に直接お会いして、皆さんの見方をお聞きし、私が考えている世界観をお話しするという対話を積み重ねているところです。

    電力会社の経営層の方々にもたくさんお会いしていますが、皆さん社会インフラ企業としての矜持をお持ちです。私たちも同じ思いを持って事業に取り組むのだと、強く感じます。

    役所の方々やルールを決める方々とも意見交換をしていまして、「良い社会の実現に向かって、同じボートに乗っている」と分かり合うコミュニケーションに、一番時間を使っていますね。

    サプライチェーンの皆さんも同様です。2040年や2050年というと、ともすると「もう自分の時代ではない」となる方が多いのですが、皆さんに共通しているのは「こういう社会であってほしい」「こういう地球であってほしい」「それを次の世代に伝えたい」という想いです。その想いのもとで「一緒にやってみよう」とおっしゃっていただきます。日本にはITERでの経験も国立研究所での取り組みもあり、他の国と比べてもフュージョンの研究や産業基盤は先んじているので、それをこれから加速していくところだと思っています。

    次の世代に、いい事業と人材を

    井手 いま一番の課題は何だとお考えですか?

    菊地氏 言うまでもありませんが、フュージョンエネルギーの社会実装は誰も実現できていません。皆が様々なバックグラウンドのもとで多くの引き出しを持っているものの、引き出しとは過去の経験によるものですよね。私たちがやらなければいけないのは未来のことなので、「やったことがない」ことの連続なのです。

    それでも、どこかで決めて、「これで行こう」と進めていく必要があります。この「決めるタイミング」が非常に重要です。決断に基づいて一斉に動き出すので、もし間違っていたら、間違っていたことを認めて、手戻りさせてでもやり直さなければなりません。こうしたことの連続になるだろうと、社員との対話を通じて強く感じていますし、チャレンジの連続となると捉えています。

    この課題を乗り越えていくためにも、更に多様な、多くの経験・知見を積んだ情熱に溢れた人材に集まってもらいたいです。ぜひチームに入って、このワクワク感をともに感じ、力を貸してもらいたいですね。

    井手 どこで決めるかというのは、まさにCEOの仕事ですね。すごく難しく、そして面白い仕事だと思います。

    菊地氏 最後は結果が出ますから、「責任を取る」という話になりますが、そこに至るまでのプロセスで皆の力をどれだけ引き出せるのかが、私の役割だと思っています。「上が言っているから」「こんな空気だから」とつい言いがちですが、メンバー各自の言葉で議論をしつくした上で、決断して前に進めていく、そのプロセスを大事にしたいと思います。

    井手 菊地さんが大切にされている信条を教えてください。

    菊地氏 「次の世代に、いい事業と人材を」という軸を、これまでもずっと持ってきました。その軸をぶらさずに、第二の職業人生を歩ませてもらっています。

    井手 最後に、今後の展望をお聞かせください。

    菊地氏 様々なところで「私たちが、フュージョンエネルギーを実現する」という話をするなかで、共感をいただくことが圧倒的に多いです。普通なら「そんな夢みたいなことを言っても」という反応が返ってくることもあると思いますよね。ところがこの仕事を始めて4カ月、どの方も真剣に話を受け止めて、こんな世の中ができたらいいな、頑張ってくれ、何か応援できることないか、というあたたかい気持ちとエールを皆さんからいただいています。こうした想いをチームの総力に変えながら、私はフュージョンエネルギーの実現に120%全力投球していきます。

    ▶[前編:事業を創り経営してきた37年の経験を携えて——菊地清貴氏がStarlight Engineで挑むフュージョンエネルギー]


    Starlight Engine株式会社 https://sle.energy/
    京都フュージョニアリング株式会社 https://kyotofusioneering.com/
    J-POWER(電源開発株式会社) https://www.jpower.co.jp/

  • Starlight Engine株式会社

    代表取締役社長 CEO

    菊地 清貴氏

  • 経営企画部 兼

    イノベーション推進部

    井手 一久

    Kazuhisa Ide

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