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更新日:2026.10.1

公開日:2026.9.29

事業を創り経営してきた37年の経験を携えて——菊地清貴氏がStarlight Engineで挑むフュージョンエネルギー【前編】

    三菱商事にて30年以上にわたり事業投資、PMI(Post Merger Integration)、事業再生、グローバル経営を担い、常務執行役員として、コンシューマー産業グループCEO、アジア大洋州地域代表(19か国、42拠点)を務めた菊地 清貴氏。畜産からリテールまで、川上から川下の事業をつくり経営してきた事業家が、Starlight Engine株式会社(以下「Starlight Engine」)の代表取締役社長 CEOに就任しました。同社は、2030年代のフュージョンエネルギー発電実証を目指すプロジェクト「FAST(Fusion by Advanced Superconducting Tokamak)」の事業主体で、創業は2025年4月。前編では、事業を創り経営してきた経験がフュージョンの実現にどう生きるのか、そして生まれたばかりの会社が最初に築こうとしているものは何かを伺います。聞き手は、J-POWER(電源開発株式会社)経営企画部 兼 イノベーション推進部の井手 一久です。

    「私たちが、フュージョンエネルギーを実現する」

    井手 菊地さんがStarlight Engineの代表になったきっかけは何だったのでしょうか。

    菊地氏 きっかけは、Starlight Engineのグループ社である京都フュージョニアリングで代表取締役社長COOを務める世古 圭さんが、三菱商事の後輩だったことです。前職時代に京都フュージョニアリングの事業内容を聞き、その意義を強く感じていたこともあり、私からシンガポール政府やインド政府を紹介するなど、緩やかに関係を築いていました。

    三菱商事の退任が見えてきたとき、彼から「手伝ってもらえませんか」と声をかけてもらい、そこから京都フュージョニアリングの創業者である小西 哲之さんをはじめ、経営陣の方々ともお会いしました。

    フュージョンエネルギーが地上の太陽と言われ、次世代の理想のエネルギーであるといった話は当然魅力でしたが、特に関心を持ったのは日本の産業構造に関わる話でした。原子力産業は数百社の国内企業が支えていて、国産比率が非常に高いです。フュージョンエネルギーでも同様のサプライチェーンが機能することや、そのサプライチェーンが半導体とも重なっているということを知り、強く関心を持ちました。

    当時、私はシンガポールに駐在していたこともあり、海外から日本を眺めたなかで、どこか閉塞感を覚えていました。しかし、今後フュージョンエネルギーを日本がリードする形で実現できれば、産業のパラダイムシフトが起こり得る。国外に頼っている化石燃料ではなく、海水由来の燃料を使うので、資源の地産地消ができる。すでにあるサプライチェーンを生かしながら、エネルギー技術を輸出できる国に大きく変わることができうる。そんな未来を感じました。

    井手 業界を越えた大きな転身だと思いますが、不安などはなかったのでしょうか。

    菊地氏 正直なところ、最初は本当にこれほど壮大なチャレンジを実現できるのだろうかとは思いました。ただ、私はこれまでのキャリアを通じて一貫して「次の世代に、いい事業と人材を」という想いを持ち続けていましたので、ぴったりの仕事だとも思いました。

    後輩に頼まれたことでもありますし、京都フュージョニアリングの創業者の小西さんをはじめ、私より10歳以上も年上の先輩方が、目をキラキラさせながら思い切って挑戦している。その姿を見て、自分もまだまだやらなければいけないという気持ちになりました。先輩、後輩から熱いメッセージを受け、この事業に向き合うことを決めました。

    井手 あらためて、Starlight Engineがどのような会社なのかを教えてください。

    菊地氏 Starlight Engineは2025年4月に設立された会社で、2026年4月から新しい経営体制で本格稼働しました。「私たちが、フュージョンエネルギーを実現する」というミッションは、新しい体制のもとでつくったものです。経営陣で集まって合宿をし、膝詰めで何時間も語り尽くして決めました。極めてシンプルで、絶対に忘れない言葉です。

    名は体を表すと言いますが、当社はフュージョンエネルギーを実現する会社です。研究に留まるのではなく、世界に先駆けて実際に発電し、その先に商用化することを目指しています。

    生まれたばかりの会社が最初に築くべきは「信頼」

    井手 先日、Starlight Engineを訪問した際、エンジニアの方々が目を輝かせながらフュージョンについて議論されていたのが印象に残っています。

    菊地氏 先ほどもお話したように当社のミッションは「私たちが、フュージョンエネルギーを実現する」。極めてシンプルです。その旗の下に集まっているから、ブレがない。そういう意味では非常に分かりやすくて、皆の熱量をひとつに集めやすいというのはありますね。

    面白いのは、当社はスタートアップではありますがフュージョン自体は何十年も研究されてきた領域でもあるので、メーカー、国立研究所、大学と、様々なところで、様々な世代の方が研究を続けてきた実績があることです。当社のシンプルなメッセージのもとに、多様な人材が集まって意見を交わす。極めてエキサイティングな毎日ですね。

    井手 Starlight EngineのCEOとしての役割を、菊地さんはどう定義され、どう実際に動かれているのでしょうか。

    菊地氏 当社は、まだまだこれから成長していく会社でもあるので、まずはステークホルダーの皆さんとの信頼を築かなければなりません。社内では、とにかく透明性のある議論をして、現実を直視して、説明責任を果たしていこうと言っています。そうすることで信頼を勝ち得ていく。信頼に一番の重きを置こうと言い続けてきました。

    そうした軸や価値観を普段の議論のなかでも口にしながら、会社全体の風土や文化をつくっていく。それは私自身がリーダーとして率先すべきことだと思っています。

    井手 副社長 執行役員 CSO(最高戦略責任者)の東さんにもお話を伺いました。「さまざまなステークホルダーに理解していただくには、誠実であることが何より重要だ」と語られていたのが印象に残っています。

    菊地氏 日々の会話のなかでも、自分たち本位の議論だけで進めるのではなく、「その説明だと理解されないのではないか」と異なる立場からどう見えるのかを考慮しながら進めていますね。

    井手 経営陣の皆さんは、それぞれの役割を互いに補完し合う関係なのでしょうか。

    菊地氏 そうだと思います。CXOだけでなく社員も皆が多様なバックグラウンドを持っています。各々のバックグラウンドと価値観を尊重し、それを自由闊達に言える雰囲気、心理的安全性を社内に置いたうえで、決めるところは決めていく。決めたことについては皆で説明責任を果たし、最後の責任は私が取る。そうやって物事を進めています。

    挑戦と失敗の連続の先に、2035年の運転開始がある

    井手 「FAST」プロジェクトの概要をお聞かせください。

    菊地氏 「FAST」プロジェクトでは、2030年代にフュージョンエネルギーの発電実証を目指しています。フュージョンの技術は、アカデミアでの研究のステージが終わり、次はエンジニアリングの段階に入ったとされています。とはいえ、個別の技術やシステムを統合して動かしたときに、本当に想定通りにいくのかは誰もまだやったことがありません。FASTで取り組むのは要素技術の開発とともにプラント技術の統合であり、そこが大きなチャレンジです。

    井手 2035年に運転を始める計画だと伺っています。あと10年を切っていますが、勝算をどのようにイメージされていますか。

    菊地氏 本当におっしゃる通りで、時間は限られています。しかし、焦ったところで仕方がない。

    まずはしっかりとした体制をつくり、計画を立てること。そしてその計画を皆で確認しながら、一歩一歩前に進めていくことが重要です。あわせてステークホルダーの皆さんに対しても透明性を持ってコミュニケーションを重ねていかなければなりません。

    プロジェクトを着実に進めていくなかで特に大事にしているのは、「挑戦し続ける」ということです。プロジェクト自体がすでにチャレンジングですが、その過程でも決断するべきことが多々あります。そこにまた新たな挑戦が生まれ、時にうまくいかないこともあると思います。ただ、挑戦、失敗、挑戦、失敗とつなげていくことで、そこから学ぶことが必ずあり、次の改善にも生かされます。それを繰り返すうちに、最後にはやり切ることができる。リーダーとしてのそのコミットメントと、皆を鼓舞していくところが大切なのだと思っています。

    課題を乗り越えるときには「こんなところに答えがあったのか」という発見もあるでしょう。もがいて、もがいて、もがいて、それでもやり続けることで、「ここだ」という答えが思いもよらないところから出てくる。単に計画を立てて、そのまま作り、ポンとスイッチを押したらできた、ということでは全然ないのだろうと思っています。

    37年間、事業をつくり経営をしてきた

    井手 あらためて、菊地さんのご経歴を伺えますか。

    菊地氏 三菱商事へ平成元年(1989年)に入社し、2026年3月まで37年間勤めました。畜産事業、サーモン養殖事業などを川上から川下まで手掛け、その後はローソンやライフなどのリテール事業を管掌しました。

    商社というと「ものを買って売っていく」というイメージが強いと思いますが、私は入社以来「事業を創り経営する」機会に恵まれてきました。畜産の場合なら、国内・海外で、穀物から飼料をつくり、家畜を農場で育て、処理加工して、外食チェーンやスーパーに届ける。そこまでを一貫した事業として手掛けてきました。

    最後の2年間はシンガポールに駐在し、中国からオーストラリア、インド、パキスタンに至るアジア太平洋地域の代表を務めました。

    最近は、社会全体がDX(デジタルトランスフォーメーション)、GX(グリーントランスフォーメーション)といった共通の課題を、産業横断的に持っています。これらをいかに融合させて新たな社会をつくるかが私のテーマでしたので、電力、通信、不動産、金融、さらにはリテール事業も統合的に事業構想を描く。この2年間はそうした産業横断的な取り組みに携わってきました。

    井手 フュージョンエネルギーは、何万人もの人が関わる産業になります。多様なステークホルダーを束ねる力が求められると感じます。

    菊地氏 その通りですね。経験的な例を挙げると、三菱商事は昭和40年代に日本で初めての企業養豚を始めました。家の庭先で豚を飼うのが一般的だった当時としては見たことのない大きな規模の農場を鹿児島県につくり、以来60年以上、地域に雇用と産業をつくるだけでなく、地域の夏祭りを主催したり、台風対策を施したり、地域コミュニティと相互理解と協力を積み重ねてきました。

    ローソンや、食品卸では日本でも最大手のひとつである三菱食品でも同様です。日常の食の安定供給のみならず、台風や地震などの災害があれば、社員たちがすぐに現場へ向かいます。地域の食を支えるライフラインとしての社会インフラという自覚を持って取り組んでいるのです。結果的に、私は地域コミュニティの方々とのコミットメントや共創を経験させていただきました。

    井手 商社出身のスタートアップ経営者は多いですが、なぜうまくいくのかが分かった気がします。「人をまとめて事を決める」というリーダーの役割を経験されている方が多いのでしょうね。

    菊地氏 経営の立場では、決断が求められますし、それを組織の力に変えていきます。この経営自体はずっと経験してきたことですが、このフュージョンエネルギーという分野は本当に大きなチャレンジだと感じています。私の時代で、発電実証から社会実装までできるだけ進めて、次の時代、世代にパスをしていく。その結果、「フュージョンが当たり前の社会」が出来上がるよう、尽力したいですね。

    ▶[後編: 次の世代に、いい事業と人材を——Starlight Engine 菊地清貴氏が語る、フュージョンエネルギー実現への道筋]


    Starlight Engine株式会社 https://sle.energy/
    京都フュージョニアリング株式会社 https://kyotofusioneering.com/
    J-POWER(電源開発株式会社) https://www.jpower.co.jp/

  • Starlight Engine株式会社

    代表取締役社長 CEO

    菊地 清貴氏

  • 経営企画部 兼

    イノベーション推進部

    井手 一久

    Kazuhisa Ide

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