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フュージョンが灯す社会と市場は、誠実さの上に築かれる——Starlight Engineが描く、2030年代の発電実証を地域と産業に据える道筋【後編】
「太陽の原理を地球で実現できれば、人類は平和になるんじゃないか」。14歳のときの問いは、いま社会実装という現実の工程に入っています。Starlight Engine株式会社(以下「Starlight Engine」)副社長 執行役員 CSO(最高戦略責任者)を務める東 修平氏は、法律も前例もない領域で、規制当局、自治体と住民、産業界、そして電力会社を相手に、フュージョンを据える場所と順序を組み立てています。規制は誰のためにあるのか。地域とどう向き合うのか。後編では、市長として市民との対話を重ねてきた東氏に、フュージョンを社会に実装するための道筋を聞きます。聞き手は、J-POWER(電源開発株式会社)経営企画部 兼 イノベーション推進部の井手 一久です。
▶[前編:「太陽の原理を地球で」14歳の問いを、市長の8年を経て解きにいく——Starlight Engine東修平氏が挑む2035年のフュージョン発電実証]
規制は縛りではなく、信頼を築くもの
井手 発電実証には規制の整備が不可欠です。国の支援に期待する部分と、Starlight Engineからアプローチしている部分を教えてください。
東氏 規制は非常に重要です。規制というと、得てして事業者を縛りつけるものという印象を抱きがちなのですが、そうではありません。プラントを置く場所はどうしても必要ですし、その周りに住まう人々もいます。そうした皆さんに対して、「このラインだったらみんなで安心して合意できるよね」ということを示す。信頼を築き上げるものが規制なのだと思っています。
特にディープテック領域は、そもそも人類として未知のものに挑んでいるわけですから、当局と共に規制を作り上げていかなければ、当局側も判断が難しいと思うんですね。その意味では、FASTが早いステップで「こういうものが作れます」「こういう場所でこういう設計にしていきます」という具体を見せるからこそ、規制の議論も進むと思っています。
ここは「ニワトリと卵」の関係で、規制ができるのを待つのではなく、規制を進められるようにするためにも、私たちが先に進んでいく。そういう考えで、いま規制当局とも対話をしています。
井手 国民全体の理解は、どう得ていきますか?
東氏 まさにこれが、これから私たちが担っていかないといけないところです。フュージョンエネルギーが実現すれば日本にとってより良いことだというのは、総論としては賛同いただける方が非常に多いと思うんですね。ただ、物事が具体的に進むにつれて、「私たちの近くでは嫌だな」という声は出てきます。原子力発電とは異なる安全性があるとはいえ、人間心理としては起こり得ることだろうと思います。特に近年ですと、データセンターの建設などでも住民の反対運動が起こっていますよね。どんな施設であれ、理解をいただく必要があります。

私たちにとって重要なのは、不必要に「安全です」「大丈夫です」というコミュニケーションを取るのではなく、「こういう場合にはこういうリスクが考えられますが、このように対策を講じます。その結果得られるメリットとしてはこういうことがあります」と、どれだけ丁寧に説明しきれるかだと思っています。
Starlight Engineのバリューには、「揺るぎない信頼を築く」という項目があります。ガバナンス、透明性、倫理観を重要な行動指針として徹底していくことが、ひいては国民の皆さんに理解いただくことにつながると思っています。
井手 地域の方々に対しても、同じように信頼を得ていくアプローチをしていくということでしょうか。
東氏 そうですね。いわゆる消費財のような、例えば「安くて早くておいしい」というアプローチとは大きく違う。その違いは常に意識していなければならないと思います。
立地は、誠実な対話に尽きる
井手 私はJ-POWERで風力発電所の開発に携わってきましたが、地元住民の皆さんからすれば、それが自分たちに何を益するのかというところで反対が起きることはありました。最後は人と人の信頼関係です。Starlight Engineでは、どうクリアしていこうと考えていますか。
東氏 誠実であることです。私も8年間、市長を務めていましたので、「ノット・イン・マイ・バックヤード(Not In My Back Yard)」といわれる施設については、さまざま対応をしてまいりました。ごみを燃やす施設や下水を処理する施設など、本当にさまざまな施設が存在していて、それらは市民が生きるうえで欠かせないものです。それでも「私たちのところになくてもいいじゃないか」と言われる。同時に、それがなければその方々も暮らせない。
こうした葛藤を十分に理解して、組織としては丁寧に、誠実に接していく。本当にこれに尽きると思っています。立地を進めていく人材についても、誠実さを一番大切にしたいと思っています。
井手 さまざまなキャリアを経て、いまご自身が一番できることは何だとお考えですか?
東氏 私が市長時代にひとつ誇れることがあるとしたら、たくさんの市民の皆さんと対話をしてきたということです。
政策的にはいろいろな取り組みをしてきましたが、それはどちらかというと市役所職員の皆さんと一緒にやってきたことでした。現場で働いている職員の皆さんがいるわけですから、私がやったという感覚よりは、チームでやってきたことだと思うんです。
私は選挙で選ばれた立場ですが、住民の皆さんにとっては、時に負担と感じられる政策もあったはずです。でも、10年後、20年後の、まだ生まれていない子どもたちのことを考えたら、いまこれをやっていかないといけない。その説明を尽くしてきたつもりですし、私自身が見えていないことをたくさん聞かせていただいて、行政に反映させてきたという自負もあります。
フュージョンでも同じで、目に見えないことを含めて、私たちはたくさん学んでいかなければなりません。さまざまなステークホルダーの皆さんから、Starlight Engineに足りない部分を教えていただき、それをしっかり受け止める。一方で、本当にこれは必要なんだということを粘り強く説明し続けていく。そこには貢献できるのではないかと思っています。
「ものづくりの究極体」が生み出す市場をどう構築するか
井手 フュージョンの産業クラスターは、どう形成していきますか?
東氏 フュージョンは、ものすごく裾野の広いサプライチェーンを形成します。「ものづくりの究極体」のようなもので、幅広い産業連携が必要になる。巨大な企業から、限られたメンバーで運営されている小規模な工場まで含めて、すべての皆さんと連携していくことが非常に重要になると思っています。
いままさに人類が歩みを進めている段階なので、競合がどうこうというよりは、まず成功に向かってみんなで手を携えていこうと考えています。Starlight Engineの役割は、「この指止まれ」ではないですけれど、私たちが先んじてリーダーとして進むので、みんなでやっていきましょうと呼びかけること。そういう中心を作っていくことが、産業界において非常に重要になるのだろうと思います。
井手 事業の資金についてはどう考えていますか?
東氏 当然スタートアップですので、さまざまな企業やベンチャーキャピタルといった皆さんに、私たちの技術や見通しを説明して、しっかりと資金調達をしていく。その規模も、初回ラウンドとして総額60.6億円の調達を発表しましたが、今後はさらに桁の違う金額を集めていく必要があります。いただいた資金をもとに研究開発を進め、その段階を示していくことで、着実にフュージョン開発が進んでいる姿を見ていただき、出資者の皆さんの信頼を得ていく。それが重要だろうと思っています。

ただ、それ以上に重要になってくるのは、プラントを作ったあと、その電気がどう売られるのか、そもそもプラント自体は誰が引き取るのかという、市場の仕組みを構築していくことです。電力会社や需要家の皆さんと、販売単価は何円くらいになるのか、それをどう使っていくのかを具体的にしていけば、そこに取引が生まれ、見通しも高まってくる。私としては、そこが一番進めていきたいポイントです。
井手 ステークホルダーのなかで、最も注力すべき相手はどこだと見ていますか?
東氏 これは、同じくフュージョンを実現していこうと思っている方々だと思います。
フュージョンは非常に難しい技術ですから、人類はまず何を選択したかというと、フランスにITER(国際熱核融合実験炉)を7極35か国で発足させ、これだけはみんなでやろうと決めました。何があってもアメリカもロシアも中国もインドも一緒にやる、という取り組みはおそらくこれくらいしかない。それほど難しい問題を、みんなでやっていこうと選択したのがITERなんですね。科学技術が進展して、いまはそれぞれが自国でやっていこうとなっていますが、あまりに巨大で、あまりに難しい技術であることは事実です。やりたいと思っている人同士がいろいろな方向を向いていると、うまくいくものもうまくいかない。
フュージョンをまだ知らない方に注力していくことも大事ですが、まずはフュージョンを実現したいと思っている人たちが、未来に向かって全力で走っていけるようにする。それがなければ、いかに皆さんに知ってくださいと言っても、成功することはない。私はそこが一番難しく、重要ではないかと思います。
速さには意味がある
井手 各社が、商用のフュージョンを最初に実現することを目指していると思います。あえて伺えば、「一番乗りを目指す必要はない」という考え方もあるのではないでしょうか。

東氏 たしかに、フュージョンの社会実装に一番乗りしたからといって、その後のすべてを握るとは限らない。その点は、おっしゃる通りだと思います。一方で、私たちが速さを重視している理由は、それだけではありません。
いま日本には、日本が長年運転してきたJT-60、それが進化した量子科学技術研究開発機構(QST)のJT-60SAといった実験装置や、ITERに重要コンポーネントを納めてきた企業のものづくり技術があります。でも、そうした装置に関わる仕事は、しばらく途切れがちになっているんです。フュージョンに関する具体的なプロジェクトが存在しなければ、ITERを含めフュージョン産業を担ってきた皆さんが、設備を抱えることも投資することもできません。そうなると技術継承も滞り、いざ本当にやろうと思ったときに作れないんです。
最終的に日本が勝つことを考えた場合、この複雑なサプライチェーンをいかに抑えられているかが非常に大事です。速さのみが重要ではないですけれども、最終的にシステムインテグレーターとして全体のコーディネートができるように、サプライチェーンを形成していかなければならない。そのために、スピード感をもって、資金が流れるスキームを組んでいく。それが全体のインテグレーターになるうえで一番良い道だという意味で、「速さには意味がある」と思っています。
エネルギーに起因する不安や争いのない社会を
井手 J-POWERは京都フュージョニアリングに出資し、対話を重ねています。改めて、電力会社に期待している部分を伺ってもいいですか?
東氏 この10年、20年で、電力会社もさまざまな政策の影響を受けてきたと認識しています。一言で言えば、電力小売自由化が進み、それに伴ってさまざまな制度変更があった。
電力会社としても、投資判断の軸や経営スタイルは、原子力発電を導入してきた頃とは異なるものが求められている場面だと思います。そのなかで、フュージョンエネルギーのような新規技術に電力会社としてどう向き合っていくのか。そこは私も関心を持って見ています。
エネルギー自給率やエネルギー安全保障が揺らげば、国として衰退していくことになります。私たちはスタートアップなのでおこがましいですけれど、そういった国家的な視点や、経済的にどういう合理性があるのかを、ぜひ対話させていただけたらと思っています。
井手 今後の展望を聞かせてください。
東氏 政府もフュージョン分野を積極的に応援する政策を出しているので、その後押しをいただきながら、2035年の運転開始に向けた研究開発を着実に進めていきます。同時並行で、規制の整備や立地の調整も進めます。数年後には立地と工学設計が定まるので、その段階までに大型の資金調達をして、2030年の手前あたりを目安に着工し、運転開始へ進んでいく。それが大体のイメージです。
井手 市長として、暮らしを支えるインフラを見てこられました。
東氏 市長時代は、それこそ上下水道や道路といったものを、常に見てきました。それらはとにかく、みんなが平穏に利用できるのがいい。特に気にせず使えること。それが私は、いい社会だと思っています。
成長も大事ですが、あくまで手段のひとつだと思うんですよね。
電気をもっと作れることで暮らしが良くなっていく、そういう時代もあるかもしれません。ただ、常に「目的は何か」は考えていたいですね。

井手 東さんが一番実現したいことは何でしょうか。
東氏 時間軸にもよりますけれど、私が一番実現したいのは、平和で、穏やかな日々をみんなで暮らせるようにすることです。それが一番の理想です。
フュージョンエネルギーという文脈で言えば、エネルギーがきっかけになって争ったり不安になったりすることのない社会に向かって、一歩一歩、課題を解決していきたい。それがいま、一番挑戦したいと思うことです。
何においても、やはり一歩目を踏み出すことが大変ですから。Starlight EngineとJ-POWERとで一緒に進めていければと思います。
▶[前編:「太陽の原理を地球で」14歳の問いを、市長の8年を経て解きにいく——Starlight Engine東修平氏が挑む2035年のフュージョン発電実証]
Starlight Engine株式会社 https://sle.energy/
京都フュージョニアリング株式会社 https://kyotofusioneering.com/
J-POWER(電源開発株式会社) https://www.jpower.co.jp/

Starlight Engine株式会社
副社長 執行役員 CSO
東 修平氏

経営企画部 兼
イノベーション推進部
井手 一久
Kazuhisa Ide

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